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まどろみから覚めて
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散歩が終わると、寝室に移動してお昼寝タイムとなった。
つい先日まで5歳だった、いまだ幼児の自分である。しかも、すでにただならぬ肥満体形が出来上がっている。
慢性的な過食と運動不足であったところに、久方ぶりの運動(散歩)をしたため、体が休息を欲しているのだ。
とにかく眠い。母親がベッドサイドに座って俺を見つめている。優しい手のひらが頭をなぜて、するりと頬に滑り落ちる。そしてチュッとキスをする。
『お休みカイン』ささやくようなその声を、俺はもう目を開けていられなくて、夢うつつに聞いたのだった。
たった今、俺はこの上ない幸せに包まれている。
優しい母親、おいしい食事、清潔な衣類、あたたかな寝床。6歳の俺にとってそれだけが世界のすべてだったのだ。
ぐっすり眠って目を覚ますと、俺を取り巻く世界は変わっていた。複雑で、残酷で、厄介な世界に。
開け放たれた窓から入る陽光から、日がずいぶん傾いたことを知る。
夜のとばりが落ちるまでのひと時、庭から甘い花の香りが漂ってきた。
うっとりと花の香りをかぎながら、ベッドに仰向けになって、頭の下で手を組むと、高い天井を見つめた。
そうして妙に凪いだ気持ちで、日本に住んでいたころのことを思い返す。
『ひいいい』年の離れた妹が、妙な悲鳴を上げていた。
もう高校生だというのに、子供のように居間のソファに寝そべりながら、ゲーム画面を食い入るように見ていた。
そばのテーブルでアイスを食べながら、テレビのリモコン片手に『どした?』と聞く俺もたいがいである。
道場から帰ってきて、すぐに風呂に入り、テレビを見ながらアイスを食す。
子供の頃から変わらない至高の喜びだ。
『いまやってる乙女ゲーム、主人公の女の子の敵が出てくるんだけど、制裁がえぐすぎるー』
いろいろ説明してくれたが興味がないので、へーと適当に流していた。
乙女ゲームがどんなものかも知らない俺は、何か知らんがかわいらしい感じのゲームなんだろうと思っていた。
しかし妹の説明で、一人の男が受けた制裁の話を聞いた時、乙女って怖えなと心底思ったのだった。
その男は、悪役令嬢にそそのかされて、主人公を襲おうとするが失敗して、攻略対象の貴公子たちにとっつかまり、制裁を受けるらしい。
凄惨な拷問をされ、目玉をくりぬかれ、死体は豚の餌にされるという。ヤクザも真っ青な所業だな、おい。
あまりにも悲惨だったのでその男の事は覚えていたに過ぎないが、男の名前はカインといった。
妹が、『カインってすんごく太ってて醜いのに、目だけは紫色っていうか、藤の花みたいなすっごく綺麗な色なの。くり抜いちゃう気持ちがちょっと分かるかも!』
などと、さっき悲鳴を上げていた同じ口で、あっけらかんと言っていた。
『目玉はどこに行っちゃったんだろ?最後は豚の餌になってたから一緒に食べたれちゃったかな。豚が豚に食べられるって共食いじゃーん』
と言っていたのを聞いて、乙女とは・・・と疑問に思ったことがなつかしい。
そして、俺の名もカインだ。先ほどスプーン越しにみた瞳の色は紫色だった。
それだけで、ここが乙女ゲームの世界だと断じるのはどうかと思うが、一致したのはそれだけではない。
先ほどの散歩の時、お母様に言われたのだ。
「あ、ほらカイン、藤の花が咲いているわ。綺麗ね。それにとてもいい匂い。あなたの瞳の色とそっくりだわ。」
ううむ。この符牒は何だろう。ただの偶然か。
やはり俺は、妹が話していたカインなのだろうか?
あの乙女ゲームの内容で俺が知っていることと言えば、魔法至上主義の貴族社会であること、平民の少女とイケメン貴族達による恋愛シミュレーションだと言うこと、恋愛模様のスパイスとして、主人公にちょっかいをかけてくる小悪党が制裁され、豚の餌になるらしいこと。
それが全てだ。しかも妹からの話のみ。
今さら考えてもどうこうなるものじゃないと、大雑把な俺は、早々に思考を放棄した。
何が何だか分からんが、悪いことに首を突っ込まなければ豚の餌になることにはならんだろ。
おのれが置かれたこの環境で、普通に真っ当に生きていくことにしたのだった。
つい先日まで5歳だった、いまだ幼児の自分である。しかも、すでにただならぬ肥満体形が出来上がっている。
慢性的な過食と運動不足であったところに、久方ぶりの運動(散歩)をしたため、体が休息を欲しているのだ。
とにかく眠い。母親がベッドサイドに座って俺を見つめている。優しい手のひらが頭をなぜて、するりと頬に滑り落ちる。そしてチュッとキスをする。
『お休みカイン』ささやくようなその声を、俺はもう目を開けていられなくて、夢うつつに聞いたのだった。
たった今、俺はこの上ない幸せに包まれている。
優しい母親、おいしい食事、清潔な衣類、あたたかな寝床。6歳の俺にとってそれだけが世界のすべてだったのだ。
ぐっすり眠って目を覚ますと、俺を取り巻く世界は変わっていた。複雑で、残酷で、厄介な世界に。
開け放たれた窓から入る陽光から、日がずいぶん傾いたことを知る。
夜のとばりが落ちるまでのひと時、庭から甘い花の香りが漂ってきた。
うっとりと花の香りをかぎながら、ベッドに仰向けになって、頭の下で手を組むと、高い天井を見つめた。
そうして妙に凪いだ気持ちで、日本に住んでいたころのことを思い返す。
『ひいいい』年の離れた妹が、妙な悲鳴を上げていた。
もう高校生だというのに、子供のように居間のソファに寝そべりながら、ゲーム画面を食い入るように見ていた。
そばのテーブルでアイスを食べながら、テレビのリモコン片手に『どした?』と聞く俺もたいがいである。
道場から帰ってきて、すぐに風呂に入り、テレビを見ながらアイスを食す。
子供の頃から変わらない至高の喜びだ。
『いまやってる乙女ゲーム、主人公の女の子の敵が出てくるんだけど、制裁がえぐすぎるー』
いろいろ説明してくれたが興味がないので、へーと適当に流していた。
乙女ゲームがどんなものかも知らない俺は、何か知らんがかわいらしい感じのゲームなんだろうと思っていた。
しかし妹の説明で、一人の男が受けた制裁の話を聞いた時、乙女って怖えなと心底思ったのだった。
その男は、悪役令嬢にそそのかされて、主人公を襲おうとするが失敗して、攻略対象の貴公子たちにとっつかまり、制裁を受けるらしい。
凄惨な拷問をされ、目玉をくりぬかれ、死体は豚の餌にされるという。ヤクザも真っ青な所業だな、おい。
あまりにも悲惨だったのでその男の事は覚えていたに過ぎないが、男の名前はカインといった。
妹が、『カインってすんごく太ってて醜いのに、目だけは紫色っていうか、藤の花みたいなすっごく綺麗な色なの。くり抜いちゃう気持ちがちょっと分かるかも!』
などと、さっき悲鳴を上げていた同じ口で、あっけらかんと言っていた。
『目玉はどこに行っちゃったんだろ?最後は豚の餌になってたから一緒に食べたれちゃったかな。豚が豚に食べられるって共食いじゃーん』
と言っていたのを聞いて、乙女とは・・・と疑問に思ったことがなつかしい。
そして、俺の名もカインだ。先ほどスプーン越しにみた瞳の色は紫色だった。
それだけで、ここが乙女ゲームの世界だと断じるのはどうかと思うが、一致したのはそれだけではない。
先ほどの散歩の時、お母様に言われたのだ。
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ううむ。この符牒は何だろう。ただの偶然か。
やはり俺は、妹が話していたカインなのだろうか?
あの乙女ゲームの内容で俺が知っていることと言えば、魔法至上主義の貴族社会であること、平民の少女とイケメン貴族達による恋愛シミュレーションだと言うこと、恋愛模様のスパイスとして、主人公にちょっかいをかけてくる小悪党が制裁され、豚の餌になるらしいこと。
それが全てだ。しかも妹からの話のみ。
今さら考えてもどうこうなるものじゃないと、大雑把な俺は、早々に思考を放棄した。
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