君の瞳に囚われて

ビスケット

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★いつか見た青空

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「・・・弟?これが?」
思わずこぼれ落ちたようなレオの声は、今から思えばその後に続くボクの先行きを象徴していたと思う。

これまで住んでいた別邸を離れて、侯爵家本邸で暮らすことになったとき、実の母と別れるのはとても悲しかった。
けれど、お父様や新しい家族との生活を楽しみに思う自分もいた。ワガママを言ってみんなに嫌われないように頑張ろうと、子供心に思っていたのだ。

侯爵本邸に到着して、初めて新しい家族を目にしたとき、四人分の金髪と青い瞳がこちらを向いていて、ボクは気圧されてしまった。
綺麗な人たちにギクシャクと近づいて、デモンに教えて貰ったようにご挨拶をしようとしたけど、頭がぼうっとして
「ぼ、ボクはカイン、よ、よろしくおねがぃ・・・」
します、と言う言葉は、喉に張り付いてうまく出すことが出来なかった。
そんなとき耳を打ったのがレオのつぶやきだったのだ。
デモンに、「ボクではなくて“私”です」と、何度も言われていたのに、その時ボクはそれがうまく出来なかった。
いや違う。ボクはその時だけでなく、その先もずうっと、何もかもうまく出来なかったのだ。

侯爵本邸での生活は寂しくて寂しくてどうにかなりそうだったけれど、みんなボクに優しく接してくれた。あんなことを言ったレオもだ。

レオとアレクが魔法を習う間、何もすることがない魔力無しのボクを、母上がお茶に誘ってくれて、話を聞いて相手をしてくれた。

だから、母上が外孫であるレオとアレクを連れて、父王に会いに行ってそのまま王宮から何週間も帰って来なくても、母上が慈善事業で忙しくなってなかなかお相手していただけなくなってもガマンした。

そんなとき必ず、母上は寂しくないように色々と気遣ってくださったから。
一人で食べる美味しいお菓子も、一人で遊ぶ珍しい玩具も、一人で見る王都で評判のサーカスも、寂しさを消してはくれなかったけれどガマンした。

でもそんなとき、使用人が話しているのを何度も聞いてしまったんだ。
ボクは侯爵家に相応しくない魔力無しの豚だと。
しょせん卑しい平民と子爵家の血筋であると。

それからボクはおかしくなった。
優しく接してくれる父上、母上、レオやアレクを試すようなことばかりするようになった。
周りの使用人達にあたり散らすようになった。
食欲が止まらなくなって、体重は増していくばかりだった。
気付いたら、ボクは侯爵家の鼻つまみ者になってた。



その日、王宮の広場は、騒然としていた。
これから王位簒奪という 大罪を犯した男への処刑行われるのだ。
それもただの処刑とはわけが違う。
罪人は平民ではなく高位貴族で、処刑方法はその残虐性からめったに行われることなどない八つ裂き刑やつざきけいであった。
ロープで手足を馬につながれた罪人は、四方へ走らせた馬によって体が引き裂かれるーーー
その恐ろしい光景を一目見ようと、貴族も平民も王宮広場に集い、身分関係なく 皆が等しく興奮していた。
罪人の男は既に仰向けに地面に転がされていて、手足に縄がきつく結ばれていた。
処刑人によって罪状が読み上げられているが、罪人の目はうつろに見開かれ、呆然として横たわっている様子だった。

目の前に広がる澄んだ青空に、涙が溢れてくる。
罪状を聞きながら、ボクは心の中で父上、母上、レオとアレクに詫びる。
あんなに優しくしてくれたのに。ごめんなさい。ごめんなさい母上。みんな。こんなことになるなんて思わなかった。
どうしてこんなことになってしまったのか分からないんだ。
ボクはただあの子を好きになっただけだったのに。
学院で会ったあの平民の娘は、憎まれ口ばかり叩く醜いボクにも優しくしてくれたから。

あの子の膨大な魔力がうらやましかった。
魔眼持ちのあの子を自分の物に出来たら、侯爵家の一員として認めてもらえるような気がしてしまった。

あの子が、退位された高齢の前王の御落殷ごらくいんだったなんて知らなかったんだ。
直系の王族だなんて本当に知らなかった。
まして、王位簒奪おういさんだつなんて考えたこともなかったのに。

あの子を無理矢理 自分の物にしようとして、捕まって取り調べを受けた。
拷問の責め苦に耐えられなくて、王位の簒奪を企てた事を認めてしまった。

あんなに痩せたいと思っていたのに、拷問で傷だらけになった骨と皮だけの体が悲しい。
でも、今はもう痛くない。
母上が父王に懇願して、ボクに王家の特別な薬を飲ませて下さったから。
王族が処刑されるときにだけ飲むことが許される、痛みを感じなくさせる薬を。

ボクの悲惨な姿を見て、悲しんでおられるだろう母上を捜した。
母上は王宮のバルコニーで、父王の後ろに控えて立っていらした。
ボクに薬を使うことを頼んでから、そのままそこにとどまられたのだろう。

母上は、ボクを見ていなかった。
代わりに一心に何かを見ておられた。
視線を追っていくと、終着点は父上だった。隣にレオとアレクもいる。貴族の桟敷席さじきせきにグラン家のみんなが座っていた。
父上は、哀れみを含んだ厳しい表情で、レオとアレクは怒りをにじませてボクを見ていた。
最後の時にでさえ、金の髪と青い目はボクを責め立てて、ギリギリと心を締め上げるのだ。

魔力も、血統も、何ももたないボクがよじれるほど欲しかった物。父上と母上の色。

その時、馬の嘶きが響いて、ひときわ歓声が高くなった。
手足が引っ張られる感覚。体の真ん中に衝撃が走った。怖い、助けて。

『カイン・・・』
どこからか、お母様の声が聞こえた。
『嫌なことがあったら、すぐに帰ってくるのですよ。』

帰りたい。帰りたい。
何かがちぎれていくような音を聞いたのを最後に、ボクの世界は暗闇に沈んだのだった。
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