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★聖女の涙
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王宮前の広場を一望出来るバルコニーという、誰よりもそれをよく見れる位置にいながら、あの子供が死んだのを、わたくしは周りの歓声で知りました。
罪なき哀れな子供が死んだという事実が、ずしりと心にのしかかり、思いがけず涙がこぼれました。
その涙がどんな味がしたかは、もう思い出すことはできません。
処刑の後、旦那様とレオとアレクと共に侯爵邸に戻りましたけれど、久しぶりに家族がそろっても、みな言葉少なでした。
各自 部屋に戻り、かつて家族であった青年のことをそれぞれが悼んだのです。
わたくしも侯爵夫人の部屋に入り、わたくしの乳母であるエバがお茶を淹れてくれるのを待っていました。
エバは、王女として誕生して以来 侯爵夫人となる為に王宮を出るときにも付き従ってくれた大切な者です。
「姫様、お茶が入りましたよ。」
「ありがとう、ばあや。」
優しい香りのお茶が前に置かれたとき、ココン、と密やかに扉が叩かれました。
そちらを見やると ほんの少しだけ扉が開くのが見え、向こうで誰かが待っている気配がしました。
慣れた様子のばあやが、扉の向こうの誰かとやりとりをすると、小さな箱を持って来たのです。
「姫様、ご所望の品がこちらに。」
無言でそれを受け取ると、箱からは 中に入っているものの重さが 直に伝わってきました。
中に納められているはずのカインの眼球が、手のひらの上に見えるような気がしました。
そして、箱を手に燃えさかる暖炉に近づくと、わたくしは自らの手で炎に投げ入れたのです。
背中からばあやの報告が続いていました。
「あの子供は一纏めにされて、王宮より侯爵家に送り戻されてございます。後は 手はず通りに。」
そこまで言ったとき、旦那様がわたくしの元に訪れました。
旦那様は沈痛な面持ちのまま わたくしをそっと抱きしめ、おっしゃいました。
「ヘレネ、すまなかった。あれのために 君に色々と骨を折らせてしまった。
君のおかげでカインは苦しまずに逝くことができ、遺体もこの館に帰らせてやることができた。
だが、罪人のあの子を侯爵家の墓稜に入れるわけにはいかぬ。
領内のどこか人目に付かない場所に埋葬したいと考えている。」
それに対して、わたくしは旦那様の背を優しく撫でながら答えました。
「旦那様、お気になさらないでください。神の雫をカインに下賜することを父に願い出たのは、わたくしの一存でやったことですわ。
可哀想なあの子の埋葬に関しては、どうかわたくしにお任せ下さいませ。
ご安心なさって。しかるべき場所に埋葬して、わたくしだけの胸の内に留めますわ。
レオとアレクも傷ついておりますから、もうそっとしてやりたいのです。
・・・それに旦那様も。お辛そうな旦那様を これ以上見ていられませんの・・・。」
そうして、可哀想なあの子は、死んでもなお無残に踏みにじられ、わたくしの前から永久に消えたのです。
罪なき哀れな子供が死んだという事実が、ずしりと心にのしかかり、思いがけず涙がこぼれました。
その涙がどんな味がしたかは、もう思い出すことはできません。
処刑の後、旦那様とレオとアレクと共に侯爵邸に戻りましたけれど、久しぶりに家族がそろっても、みな言葉少なでした。
各自 部屋に戻り、かつて家族であった青年のことをそれぞれが悼んだのです。
わたくしも侯爵夫人の部屋に入り、わたくしの乳母であるエバがお茶を淹れてくれるのを待っていました。
エバは、王女として誕生して以来 侯爵夫人となる為に王宮を出るときにも付き従ってくれた大切な者です。
「姫様、お茶が入りましたよ。」
「ありがとう、ばあや。」
優しい香りのお茶が前に置かれたとき、ココン、と密やかに扉が叩かれました。
そちらを見やると ほんの少しだけ扉が開くのが見え、向こうで誰かが待っている気配がしました。
慣れた様子のばあやが、扉の向こうの誰かとやりとりをすると、小さな箱を持って来たのです。
「姫様、ご所望の品がこちらに。」
無言でそれを受け取ると、箱からは 中に入っているものの重さが 直に伝わってきました。
中に納められているはずのカインの眼球が、手のひらの上に見えるような気がしました。
そして、箱を手に燃えさかる暖炉に近づくと、わたくしは自らの手で炎に投げ入れたのです。
背中からばあやの報告が続いていました。
「あの子供は一纏めにされて、王宮より侯爵家に送り戻されてございます。後は 手はず通りに。」
そこまで言ったとき、旦那様がわたくしの元に訪れました。
旦那様は沈痛な面持ちのまま わたくしをそっと抱きしめ、おっしゃいました。
「ヘレネ、すまなかった。あれのために 君に色々と骨を折らせてしまった。
君のおかげでカインは苦しまずに逝くことができ、遺体もこの館に帰らせてやることができた。
だが、罪人のあの子を侯爵家の墓稜に入れるわけにはいかぬ。
領内のどこか人目に付かない場所に埋葬したいと考えている。」
それに対して、わたくしは旦那様の背を優しく撫でながら答えました。
「旦那様、お気になさらないでください。神の雫をカインに下賜することを父に願い出たのは、わたくしの一存でやったことですわ。
可哀想なあの子の埋葬に関しては、どうかわたくしにお任せ下さいませ。
ご安心なさって。しかるべき場所に埋葬して、わたくしだけの胸の内に留めますわ。
レオとアレクも傷ついておりますから、もうそっとしてやりたいのです。
・・・それに旦那様も。お辛そうな旦那様を これ以上見ていられませんの・・・。」
そうして、可哀想なあの子は、死んでもなお無残に踏みにじられ、わたくしの前から永久に消えたのです。
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