君の瞳に囚われて

ビスケット

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はるか昔の第二妃様の話➁

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同じころ、わたくしはご令嬢がお亡くなりになったことなど知る由もなく、王宮のお部屋で父王様と歓談されるお姫様のお茶の給仕係をしておりました。
ふと、お姫様の手元を見ますと、美しく輝く透明な石の指輪をはめておいでであることに気が付きました。
お姫様がその指輪をはめているのを見たのは初めてだったのですが、どこかでその指輪を見たことがあるような気がしました。どこだったかしらと思いながら、手に持ったポットのお茶をカップに注ごうとした、その時です。

お部屋の壁をすり抜けるように、あの時の黒い煙のような魔素がお姫様目掛けて向かってきたのです。
お姫様は、心なしか体がこわばって、煙が迫っていることを感じとられているようでした。

煙がとうとうお姫様にとりついたとき、あの伯爵令嬢の時のように、てっきりお姫様の口から体の中に入っていってしまうのではないかと思って、わたくしは思わずポットを胸元で握り締めてしまいました。
煙は、お姫様をおおうように張り付くと、ほどけるように消えていき、消えていくそばから赤や青、黄色などにきらめき、いつもの美しい魔素に帰っていきました。
そうして、あの煙はきれいに消えてしまいました。

お姫様はほっとしたように体中の力を抜いて、わたくしはそんなお姫様をポットを抱きしめたままぼんやりとみておりました。
そのとき、鋭い視線に気が付いたのです。
それは、お父君の王様でした。
ずっと前から、わたくしを見ておられたようでした。
ひゅっと息が止まるような心地がして、でも何事も無かったかのように紅茶をいれようとしたその時、
「何を見た?」
と王様がわたくしに向かって問われました。

わたくしは舌が固まったようになって、目を見開くばかりでしたが、おこりのような手の震えは隠せませんでした。
ついに持っていられなくなったポットを床にぶちまけてしまい、アッと思ったときには、王様がわたくしを魔法で拘束なさいました。
体も口も縛り上げられたように動かせずに、床に転がったわたくしに、王様は声を張り上げられました。

「不敬である、この者を牢に入れよ」

わたくしは、牢に入れられてしまいましたが、しばらくして王様とお姫様がお二人だけで牢に入ってこられ、わたくしが何を見たのかを問われました。お二人のぞっとするような恐ろしいまなざしに、ここで嘘をつこうものならきっとただでは済まないと、頭の奥で警鐘が鳴り響きました。
わたくしは、とうとう、自分が魔眼を持つ<祝福されし者>であると明かしました。

その後、わたくしは牢を出ることを許されました。
その時初めて、お姫様に黒い煙が向かってきたあの少し前に、伯爵令嬢が亡くなったことを知ったのです。
それからもう一つ。
婚約者を亡くした公爵家令息とお姫様の間に、婚約が結ばれるかもしれないとのうわさも聞いた気がいたします。
わたくしは牢から出してはいただけましたが、これからずっと王宮の中で神への祈りを捧げるように命じられました。

牢を出る前に、わたくしは 自力ではけっして外せない魔道具を首にはめられました。
わたくしにはめられたのは、沈黙の首輪と言われる物で、わたくしはそれから書字もしゃべることも一切できなくなってしまったのです。

あの煙は、あの黒い魔素は何だったのでしょう。
お姫様の内から湧き出して、ご令嬢に取りついて、恐らくあの煙がご令嬢を死に至らしめたのでしょう。
ご令嬢が亡くなった後、あの煙は消えずにお姫様に帰ってこようとしていたのでしょうか?
そんな魔素など見たことがありません。
ご令嬢の次にお姫様に取りつこうとした煙は身の内に入ることなく、いつも目にするきれいな魔素になりながら消えていきました。
何にせよ、わたくしが見てしまった物は、きっと王家にとっての禁忌だったのでしょう。

わたくしが牢に入っている間に、わたくしと結婚の約束をしていた騎士様は、王家より何かを言い含められたようですが、男爵位を賜って一人で故郷に旅立っていったそうです。
わたくしは、騎士様を恨んではおりません。
ただ、この先どうかわたくしの分まで、幸せな人生を送ってほしいとただそう思うだけです。

しばらくして、<祝福されし者>が800年ぶりに王国に現れたと、王家によって発表があったそうです。
それから王家が<祝福されし者>を王宮に召し上げ、王宮の祈りの間で王国の安寧を祈ることとなったとも。
 
やがて、王宮の中で祈りを捧げるわたくしを王太子さまがお望みになり、わたくしは第二妃に迎えられました。
王太子様はわたくしを大切にしてはくださいましたけれど、王太子さまが即位されて王位に就かれてからも、わたくしは王宮の外に出して頂くことはおろか、首輪を外して頂くことも とうとうかないませんでした。

最近よく、思い出すことがあるのです。
故郷を後にした馬車の中、王都が近づくにつれ自由に近づいていると思っていた、かつての自分自身の姿を。
その姿を悲しみとともに思い浮かべてしまうのです。

わたくしは きっとこれから先も、この美しい王宮で 死ぬまで囚われ人として生きていくしかないのでしょう。
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