君の瞳に囚われて

ビスケット

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黒の剣舞➁

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そのうちに、ヘルメスが広間に登場すると、挨拶の口上があって、さっそく公爵邸の庭に移動して魔法の訓練が始まった。
公爵家お抱えの教師の指導のもと、遠くの的に向けて氷の槍を当てる訓練をみなで始めたので、俺は近くに設えられた休憩用のテントに入ってその様子を見ていた。

青い粒子と緑の粒子がきらめきながら細い渦のように集まって、氷の槍となって的に飛んでいく。
当たると槍が砕けて粒子に戻っていった。
きらめく粒子がとてもきれいで飽きずに眺めていると、どこからか変な音が聞こえた気がした。
ブンブンと、かすかだが 何かの羽音のようで、とても気に障る音だ。
はっと上空に目を向けると、大人のこぶしほどの大きさの緑色の蜂が数匹ホバリングしていた。
皆が訓練に集中していて、上空の蜂に気が付いていない。

まわりに蜂のことを知らせようとしたところで、蜂の触覚に緑の粒子が集まってきたのに気が付いた。
蜂が緑の粒子で何かを放とうとしている先にはヘルメスがいた。
おれは考えるより先に動きにくい上着を脱ぎ棄て、ヘルメスに向かって駆け出した。

剣を抜きながら向かってくる俺に、ヘルメスは表情をこわばらせていたが、俺は構わず蜂とヘルメスの間に走り込んだ。
まさにその時、風の粒子がカミソリのような刃になって次々に飛んできた。
幸い さほど重さのない攻撃だったおかげで、一度腕をかすったくらいで、他は剣ですばやく薙ぎ払って散らすことができた。

そうして最初の攻撃をしのいだ後、蜂が次の攻撃に入ろうとしたところで、教師が強力な火炎魔法を上空に向けて放ち、あっというまに蜂は消し炭になって地面に落下した。魔法ってやっぱりすごい。

後ろで、ヘルメスを守るように皆が取り囲んだ気配を感じつつ、まだ俺は剣を構えたまま 他に蜂が残っていないか上空を警戒していた。
やがて、剣を鞘に納めるとヘルメスに向かって俺は言った。
「驚かせてしまって申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか?」
ヘルメスはまだ少し動揺が残っているようだったが、
「大事ない。カイン 助かった、礼を言う。」
といった。
思いがけず、剣をもらった恩返しが出来たようで俺はうれしかった。
今回は本当に間に合ってよかった。レオとアレクの魔法を受ける練習をしていたおかげだ。

じつは魔法具での守りは万能じゃない。魔道具の魔法防御は常時発動ではないからだ。
防御の意志もしくは、本人の危機感を魔道具が感知してはじめて発動するので、不意打ちを食らえば、魔法防御の発動が遅れて普通に攻撃を受けるのだ。
おれの魔道具はポンコツみたいで感知すらしてくれないみたいだがな!?
そんなわけで、俺は自己防衛の為これからもやっぱり目立たない格好をしていこうと思ったのだった。

「カイン!」
レオとアレクが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?怪我は!?」
「服が裂けてる・・・。ヘルメス様、 申し訳ないのですが、カインは一度館の方に戻らせていただきます。これにて失礼いたします。」
そう言って一礼をすると、二人は俺の手を取って歩き出した。
二人があまりに必死で、おれはちょっと面食らってしまったが、血がつながってなくてもこんなに心配してくれて、こいつらは間違いなく俺の兄たちだと思ったのだった。


レオとアレクに連れられてカインが去った後も、その場にいたものは先ほどのカインの姿にいまだ心を奪われたままだった。
蜂に対峙し、体を俊敏に反応させ 鋭く剣を振るう姿からは、青く立ち上る闘気のようなものが見えるようだった。
それなのに、すべてが終わって 彼が剣を収めながら振り向くと、艶やかな黒髪がサラリと揺れて、ばら色に上気した顔はまだあどけなく。

「ふふふ、まったく 何が体が弱いだ。まるで黒い稲妻のようだったじゃないか。
さっき広間で彼の頬に手をやろうとしたらね、避けられてしまったんだよ。
まるで子猫に引っかかれたみたいな感じで可愛かったなぁ。あんな子猫なら飼ってみたくなるね。」

セリウスが愉快そうにそう言うと、ヘルメスが淡々と答えた。

「・・・子猫ですか?あれはそんなに簡単に飼いならせるようなものではないでしょう。
ところで、なぜこんなところで蜂の魔獣が湧いて出たのかが不思議なのですよ。明らかに私を狙っていたように見えました。なにかご存じではないですか?」

「私が?なぜ私が知っていると思うのか不思議だよ。公爵邸に張られた結界で緩んでる個所があるんじゃないか?
こんな騒動の後では訓練どころじゃなくなったね。私ももう帰るとするよ。公爵とメガエラさまによろしく伝えてくれ。」

セリウスのその言葉を合図にロンド公爵邸での魔法訓練は解散となったのだった。
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