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レオポルドの憂鬱
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今思い返せば、嫌な予感はしていた。
ロンド公爵家主催の、貴族子弟を集めた魔法の合同訓練に向かうべく、侯爵家の馬車に乗り込むときに、漠然とカインをここに置いていきたいような気持ちが湧いたのだ。
ヘルメス様と僕とアレクシスの三人で事前に相談して決めて、父上も了承し、カインも楽しみにしていたというのに。
その少し前、屋敷の人気のない裏庭で、前を向いて剣を振るうカインの姿を偶然見かけた時もそうだった。
ピンと伸ばした背中、しなやかに躍動する手足。彼はひたすらまっすぐに剣を振っていた。
滴る汗にかまうことなくひたむきに繰り返す姿は 美しい宗教画のように清冽で、彼を汚い貴族社会に連れ出すことに戸惑いを覚えてしまった。
それにああ・・・そうだあの時もだ。
僕とアレクの魔法の訓練に、遠慮するカインを引っ張り込んだ時。
カインが剣で魔法を受けてみたいというので、僕とアレクの二人で次々と魔法を繰り出したのだった。
僕たちの魔法攻撃を受けて、軽やかに鮮やかに剣を切り結んでいくカイン。
カインの剣技は楽園で訓練をしたものだろうか。まっすぐで、美しいカインの剣。
カイン自身気が付いていないようだったが、時折笑い声を立てながら挑みかかっていく。
瞳を輝かせ 髪をなびかせながら、楽し気に跳ね回るその様は さながら深い森の奥で狩りに興じる黒い妖精のようだった。
それを見ながら、僕は・・・いや恐らくアレクシスも思ったはずだ。
この美しい生き物を、僕たちの楽園から出すべきではなかったのだと。
ヘルメス様の館で、さっそくセリウス様に目をつけられてしまった。
いまいましい。魔力なしだと勝手にさげすんで、そのまま相手にしなければいいものを。
そしてああ、衆目のただ中で、カインはヘルメス様のために その身を 魔獣の前に投げ出してしまった。
魔力を持たない脆弱なその身で、自分を後ろに守りながら懸命に戦うカインの背中を、横顔を、切り裂かれた腕を、ヘルメス様は食い入るように見ておられた。
きっとヘルメス様はカインを御側に求められるだろう。
カインをこの世界の中枢になど近づけたくないのに。
それだけではなく、あの場にいたすべての者たちはカインの存在を知ってしまった。
魔力なしでありながら、次期国王のお気に入り。
その身を盾とし、その手に剣を握る姿を、皆が目に焼き付けたことだろう。
カインが貴族の在り方になじもうとする一方で、それを目にする我々には解ってしまうのだ。
カインはこの世界の秩序の外側に立っていると。
彼の何気なくやる視線、振る舞いは我々のそれとは明らかに違う。
魅せられてしまうのだ、どうしようもなく。
カインが稀有な魔眼の持ち主だと知られてしまったら、いったいどうなってしまうのだろう。
きっとかつての魔眼持ちの者のように、王室に閉じ込められてしまうかもしれない。
僕はそのいら立ちをカインにぶつけてしまった。
けれど、僕の怒気に当てられて伏せてしまったカインの顔を、この手で捕えてその瞳を映してみれば、怒りがあっというまにほどけて消えてしまった。
心が満たされて、ああ僕はずっとこうしたかったのだと、自らの心を理解したのだった。
さらに追い詰める僕から、瞳を閉じることで逃げ出してしまった可愛いカインの顔を前に、僕は誘われるように吸い寄せられていった。もう少しで唇にふれるそのとき、アレクの制止が入ったが。
アレクがとりなす言葉を耳にすると、カインはまつ毛を震わせ、そっと薄目を開けた。
その奥にひそやかに隠された瞳を手放すのは惜しかったが、カインに掛けた己の手を外して解き放ってやる。
・・・今はまだ。
様々な思いを乗せて、グラン侯爵家の馬車は侯爵邸に向かって走っていった。
ロンド公爵家主催の、貴族子弟を集めた魔法の合同訓練に向かうべく、侯爵家の馬車に乗り込むときに、漠然とカインをここに置いていきたいような気持ちが湧いたのだ。
ヘルメス様と僕とアレクシスの三人で事前に相談して決めて、父上も了承し、カインも楽しみにしていたというのに。
その少し前、屋敷の人気のない裏庭で、前を向いて剣を振るうカインの姿を偶然見かけた時もそうだった。
ピンと伸ばした背中、しなやかに躍動する手足。彼はひたすらまっすぐに剣を振っていた。
滴る汗にかまうことなくひたむきに繰り返す姿は 美しい宗教画のように清冽で、彼を汚い貴族社会に連れ出すことに戸惑いを覚えてしまった。
それにああ・・・そうだあの時もだ。
僕とアレクの魔法の訓練に、遠慮するカインを引っ張り込んだ時。
カインが剣で魔法を受けてみたいというので、僕とアレクの二人で次々と魔法を繰り出したのだった。
僕たちの魔法攻撃を受けて、軽やかに鮮やかに剣を切り結んでいくカイン。
カインの剣技は楽園で訓練をしたものだろうか。まっすぐで、美しいカインの剣。
カイン自身気が付いていないようだったが、時折笑い声を立てながら挑みかかっていく。
瞳を輝かせ 髪をなびかせながら、楽し気に跳ね回るその様は さながら深い森の奥で狩りに興じる黒い妖精のようだった。
それを見ながら、僕は・・・いや恐らくアレクシスも思ったはずだ。
この美しい生き物を、僕たちの楽園から出すべきではなかったのだと。
ヘルメス様の館で、さっそくセリウス様に目をつけられてしまった。
いまいましい。魔力なしだと勝手にさげすんで、そのまま相手にしなければいいものを。
そしてああ、衆目のただ中で、カインはヘルメス様のために その身を 魔獣の前に投げ出してしまった。
魔力を持たない脆弱なその身で、自分を後ろに守りながら懸命に戦うカインの背中を、横顔を、切り裂かれた腕を、ヘルメス様は食い入るように見ておられた。
きっとヘルメス様はカインを御側に求められるだろう。
カインをこの世界の中枢になど近づけたくないのに。
それだけではなく、あの場にいたすべての者たちはカインの存在を知ってしまった。
魔力なしでありながら、次期国王のお気に入り。
その身を盾とし、その手に剣を握る姿を、皆が目に焼き付けたことだろう。
カインが貴族の在り方になじもうとする一方で、それを目にする我々には解ってしまうのだ。
カインはこの世界の秩序の外側に立っていると。
彼の何気なくやる視線、振る舞いは我々のそれとは明らかに違う。
魅せられてしまうのだ、どうしようもなく。
カインが稀有な魔眼の持ち主だと知られてしまったら、いったいどうなってしまうのだろう。
きっとかつての魔眼持ちの者のように、王室に閉じ込められてしまうかもしれない。
僕はそのいら立ちをカインにぶつけてしまった。
けれど、僕の怒気に当てられて伏せてしまったカインの顔を、この手で捕えてその瞳を映してみれば、怒りがあっというまにほどけて消えてしまった。
心が満たされて、ああ僕はずっとこうしたかったのだと、自らの心を理解したのだった。
さらに追い詰める僕から、瞳を閉じることで逃げ出してしまった可愛いカインの顔を前に、僕は誘われるように吸い寄せられていった。もう少しで唇にふれるそのとき、アレクの制止が入ったが。
アレクがとりなす言葉を耳にすると、カインはまつ毛を震わせ、そっと薄目を開けた。
その奥にひそやかに隠された瞳を手放すのは惜しかったが、カインに掛けた己の手を外して解き放ってやる。
・・・今はまだ。
様々な思いを乗せて、グラン侯爵家の馬車は侯爵邸に向かって走っていった。
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