君の瞳に囚われて

ビスケット

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演舞のあとで➁

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すると、俺の横に座っていたアレクシスが、そっとレオポルドの手を抑えて、口を開いた。
「兄上、もうそれくらいで。
…カイン、結果的にヘルメス様をお守りできて良かったけれど、魔力がない君は、周りに知らせるべきだったんだ。
ヘルメス様には常に優秀な護衛ごえいが付いているから、仮にカインが声を立てなくても、彼らが魔物の魔法の気配を感知したはずだし、魔法が届く前に、魔法防御で対応していたはずだよ?」

魔法感知…。そうか、俺は魔素を視覚でとらえてるが、皆は感覚でとらえているのか。
だけど俺が蜂の魔素を見たあのとき、誰も蜂に気がついていなかったぞ・・・?
多分、俺は魔素がまだちらばっている初期段階から視認出来るのに対し、皆は集まった魔素がこごって魔法になってからじゃないと感じることが出来ないのかもしれない。

魔眼に魔法の攻撃力が合わされていれば、戦いにおいては相当有利になるだろう。
この国を作った王様も膨大な魔力を持った魔眼持ちだったってデモンが言っていたっけ。
そりゃあ魔力至上主義になるはずだ。

でも魔力なしの俺の場合はまったく事情が変わってくる。
魔眼持ってても、魔法をぶっ放す奴と戦うのに、ほとんどアドバンテージがないんだよなぁ・・・残念なことに。
俺が魔眼で いちはやく敵の魔素をとらえたとして、先制攻撃しようにも、魔法が使えないから剣やこぶしでやるしかない。でもそれでは魔法に比べて間合いが狭すぎて、圧倒的に不利だ。
もたもたしている間に、相手は魔法をぶっ放してくるだろう。

魔道具で魔法防御しながら何とか相手の間合いに入れたとしても、敵の魔法防御にはじかれてしまったらそれで終わる。
さらに相手に転移だの飛行だのの高等魔法で距離を取られてしまったら、こちらからの剣や拳の攻撃は届かなくなってしまう。そうしたら間合いの外からくる魔法攻撃に防戦一方になろうことは想像に難くない。
となると もうジリ貧確定である。

さっきは俺が蜂の奇襲攻撃をさばいた後、周りの人たちが即座に攻撃に繋げて魔法をぶっ放してくれたおかげでうまくいっただけだ。同じ状況で俺単体で戦ったら、長期戦にもつれた末に体力と集中力が持たなくなった時点で詰むに違いない。蜂がバラバラの地点に散開し、それぞれから魔法を食らっても、何か所も同時に目で追えないので いずれ詰む。
いかにもな厨二ワードにもかかわらず 魔力なしの俺の魔眼は欠陥だらけの、なんとも使いどころの微妙なものなのだ。

だから俺の場合、魔眼で相手の魔素を見たら、すみやかに逃げる算段を取るのがやはり正解なのだ。
まあ、覚醒して5か月足らずで得た情報と、今二人に聞いた事をもとにシュミレーションしてみたにすぎないが、おそらく大きく外れてはいないと思う。

こうして冷静に解析した結果、一瞬見えたかに思えた光明は、瞬く間に消えてしまった。
今更ながら、かつて鬼ごっこという名の魔法回避訓練をひたすらに俺にやらせた男を思い出す。
無表情で口が悪くて、何考えているか分からない奴だったけど、あいつはあいつなりに俺のことをいろいろ分かって動いてくれていたんだな。…うん?弱っているせいかおかしなことを考えてしまった。ないない、あいつに限ってそんなこと。ふう。落ち着いた。

しかし、せっかく魔法と剣の世界にいるというのに、これが俺を取り巻く厳しい現実なのだ。
頑張って蜂の攻撃を払いのけて、剣をくれたヘルメスの役にたったつもりが、おれなんかがいなくてもちゃんと魔法が使える奴らだけでヘルメスを守れたんだ。
アレクシスに説明されて、ちょっと悲しくなってしまった俺なのであった。

ふと、アレクシスの方に目を向けると、柔らかな風合いの青い瞳を曇らせて俺を見つめていた。そうして、
「カインに何かあったら嫌なんだ。だから ほんとにもうやめてね。」
と、真綿で首を絞められるような、レオポルドとはまた違った圧でもって釘を刺されてしまった。
「現にほら、こうして腕にケガを・・・ん?」
続く言葉が途切れると、アレクシスの視線が俺の腕の服が裂けてしまった箇所に注がれたが、同時に首をかしげていた。
「・・・布は裂けているけれど、腕に傷はついてない。いや、かすった程度ではあったけど、あの時、確実に攻撃ははいってましたよね、兄上?」

アレクシスの言葉を受けて、レオポルドは頷くと、
「あの攻撃の入り方で無傷はあり得ないな。だから本当にきもが冷えたんだぞ?」
分かってるか?と言わんばかりに、でもさっきよりは幾分和らいだ目がのぞき込んで来る。あわててコクコクする俺。

「でも、カインは魔力がないから、物理で叩く以外に 魔法から身を守るすべはないはずだし・・・。
魔法の刃を確かに腕に受けたはずなのに、何故ケガをしていないんだろう?」
とアレクシスが不思議そうに言った。

俺は二人の話に耳を傾けながら、沸き上がった疑問について質問した。
「あ、あの、私は首に魔法防御の魔道具を身につけているので、魔法は防御されるのはおかしくないと思うのですが・・・?」

するとレオポルドは首を振って、俺の頭を穏やかに撫でながらこう言った。
「カインが魔法防御の魔道具のたぐいを身につけていたとしても意味をなさないはずだよ?
魔道具は自分の魔力を通して発動させるものだからね。魔力がないカインには魔道具を発動させることはできないんだよ。」

あ、良かった。いつものレオポルドに戻った。ふー、さすがは大貴族家の跡取り息子だ。本気を出した時の迫力、半端なかったぜ。もう絶対怒らせないように気を付けよう…。
っていうか、いやいやちょっと待て。それだと魔力なしは、魔法に対して全くのノーガードということか?
嘘だろう…誰か嘘だと言ってくれ。
例えるならば、俺以外の人間すべてが防弾チョッキを着こんだ上に飛び道具を携帯しているというのに、俺だけが剣一つだけをたずさえて、ふらふらしてる状態ということか。
ついさっきまで、魔道具という名の防弾チョッキはすでに装着済みであると自認していたけれど、そこからもう認識が間違っていたとは。

そりゃあレオポルドとアレクシスが、危機意識のないアホな弟に怒るのも仕方がないかもしれない。
はあ。俺ってばホントに最弱なのな・・・。
悲しみが もうどうにも止まらない俺であった。

あれぇ?するってぇと、侯爵の奴はやっぱり俺にGPSであるこの首輪を付けさせるために 魔法防御の魔道具だと俺に嘘をついたのか!!
やっぱりなぁ~怪しいと思ったんだよ。ヘルメスの火球食らいかけたときも、ウンともスンともだったしな。
おのれ侯爵め、どうしてくれようか・・・


そうこうしているあいだに、馬車は無事に侯爵邸に着いたのだが、つむじのおっさんこと、執事のリチャードが瘴気のような空気をまとって待ち構えていて、一礼すると俺達にこう言った。
「坊ちゃま方お帰りなさいませ。旦那様がお待ちですので、執務室にご案内いたします。ですがその前に・・・」

リチャードは 俺の裂けたブラウスにさっと目を走らせると、
「カイン坊ちゃま、お袖が・・・。失礼致します。」
と言って、さっと自分の上着を脱ぐと 俺の肩にかけてきた。
流れるような一連の動きに、それを拒否するいとまを与えられなかった俺。

大人と子供の身長差はいかんともしがたく、おっさんの上着がまるでマントのようになってしまい、思わずスンッ…としてしまった自覚はある。
くそぅ。おっさんに モテル男の何たるかを見せつけられた気がしてイラついてしまった俺だが、一応礼は言っておいた。
まあいい、リチャードに見せつけられたこの技を盗み自分のものとすればいい。そしていつかこの俺も 綺麗な女性に決めてみせるとの思いを胸に、レオポルドとアレクシスと共に 侯爵の執務室に向かって歩いていくのだった。
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