平穏なβ人生の終わりの始まりについて（完結）

鶴水学園というところ

名門に生まれたαとΩの子供たちは幼稚園年長から小学6年までを共に幼稚舎で学ぶ。
さすがに 思春期を迎えた彼らを、同じ建物内で過ごさせるわけにはいかないので、Ωの生徒は別棟に建つΩの専門学校である鶴水つるみ学園芳聖ほうせい中等学校に進学する。

芳聖中学は外部募集があり、まぁとんでもないことになっている。
まず全員に奨学金が支給されるので実質学費は発生しない。
制服、学用品も無償支給。地方出身者の為にまかない付きの寮まで完備されている。もちろん無償。
つまり完全に無料だ。しかも名前さえ書ければ入学が許されるとの噂。

なぜそんな待遇なのかというと、αよりもさらに希少なΩを全国からかき集め、鶴水つるみのαと番わせる為だ。
一見恵まれているΩだが実際は社会的弱者の最たる物で、彼等は定期的に発情期を迎える体質のために、自立してまともに生きるのは不可能に近い。

Ω専門学校に集められた希少なΩたちは、定期的に幼稚舎組のαとの交流会という名の見合いが組まれ、番契約を結ぶらしい。そうすることによってΩはαの庇護を得ることが出来るようになるという。
すさまじいΩへの優遇ぶりを間近でみている部外者βの俺だったが、それはΩの特権というよりも、むしろもっと切実な命綱のように映った。

そしてもう一つ忘れてならないことは、ぶっちゃけそれは見合いというよりも、ブリーディングといったほうが相応しいものだということ。
αとΩの間には、αの子供ができやすい。
学園はαの再生産を担になっているのだった。

ちなみにΩの専門学校は鶴水つるみだけではなく全国に数か所あるらしいが、いずれもΩ保護法のもと 国から多額の助成金が出てる。
つまり、αを多く輩出することは 国家の重要課題なのだ。

一方、鶴水つるみ学園幼稚舎のαが進学する中等部にも 外部募集がある。
こちらは募集人数70人で、学費は私立中学の中では一番安いが、それなりにかかる。
私立中最安値の学費でありながら、附属生のほとんどが難関の鶴水大学にエスカレーターで行くことができるとあって、中学受験において毎年最難関とされていた。

そこは当然、一般人のαにその枠を持っていかれるわけだが、全てのαが鶴水を目指すわけでもないし、βだって色々だ。
俺はβだが昔から何でもそつなくこなせるタイプだった。
勉強も苦ではなかったので、自分の限界に挑むつもりで泥臭く努力し、その席に滑り込んだのだった。
蓋を開けてみたら、三分の一くらいは βが占めていた。