平穏なβ人生の終わりの始まりについて（完結）

αの中のα ③

芳聖は、京極の悲劇を避けるために作られた学校だった。“唯一”の存在をいち早く認知して番にし、Ωを傷つけることを回避するために。

設立当時、劣悪な境遇に置かれたΩを集めて保護する事から始まり、αに嫁ぐための花嫁学校の呈をなすに至った。
そしてさらにΩを集めるために各地に専門学校を創立した。
その後はそれに倣う形で 国立のΩ専門学校が各地に設立され、さらに拡充していくことになった。
現在ではこの国のすべての中学生以上のΩに、Ω専門学校への入学が義務付けられるまでになっている。

京極が経営するΩ専門学校のうち、最初に創立され、また一番規模が大きかったのが芳聖であった。
そこにα名門の子弟を対象にした鶴水学園を併設すると、その規模をさらに拡大していき、現在の鶴水学園に至るのである。

それを遂行してきたのが歴代の京極家の最上位α達。

“αの中のα”である彼彼女らが 学校経営を含めた多くの事業を展開する傍ら、その支配力と経済力を注力して作り上げた一つが松風会であった。

個としては他を圧倒するαの唯一の弱点は 少数派であること。
統制の取れたαの集団を作る事によって、その弱点を克服し、会が成長するにつれ 各方面への影響力を強めていった。

松風会の持続的な発展の為には、αの後継者が安定的に誕生することが必要で、その為にΩの専門学校は重要な意味を持つ事になった。

“唯一”を求める京極との利害の一致を見てからは、松風会が積極的に鶴水学園の後ろ盾になった。
 学園に彼等の子弟を送り入れ、そこで多くのαとΩが出会い、番契約を果たしていったのだった。

こうしてΩのゆりかご芳聖は、αの総力を持って 鶴水学園の中で守護される現在の形に至るが、それは“αの中のα”である京極の血が成した 結晶でもあったのである。