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知りたくなかった真実①
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(ふむ……)
数日後。ルドヴィカは建国に携わった者たち――初代皇帝夫妻と初代辺境伯、そして前世の自分の肖像画の前に立った。見上げるほどに大きな肖像画を見つめて嘆息する。
(彼らが生きていたら今の状況をどう思うだろうか? ルチアは計算どおりと喜ぶのかもしれないが、あとの二人は呆れるかもしれぬな)
あのあと、ほぼ流されたのだがルキウスと手を組むことを了承すると自由が許された。護衛騎士を同行させれば、城内はもちろんのこと皇室図書館や神殿、どこにでも自由に行ける。
ルドヴィカは肖像画から、守るように側に立つ護衛騎士へと目を向けた。
ルキウスは女性騎士のほうが安心だと言って、セレーナという名の騎士をつけてくれたのだが、彼女は一見すると水色の髪と瞳のスタイルのいい美しい女性だった。容姿とは打って変わって彼女の纏う空気が一流の騎士だと物語っていて、安心感と好感がもてる。
(さぞかし鍛錬を積んでいるのだろう。いつか手合わせを願いたいものだ)
自分の魔力を考えると護衛などいらないのだが、前世と比べて剣の腕は当然ながら落ちているし、皇帝の婚約者という立場を考えると護衛を置かないわけにはいかない。それでも騎士を一人だけにしてくれているのはルキウスなりの配慮なのだろう。
ルキウスのことに考えを巡らせながら、肖像画に視線を戻しセレーナに声をかけた。
「セレーナ。ルキウスの噂は本当なのですか?」
「はい。ですが、あれは仕方のないことだったのです」
ルキウスについて調べてみたら、彼は側室の子だった。王位継承権は低かったのだが、皇帝夫妻と兄弟たちを殺し、自分に従わない臣下も同時に粛正したことで、彼は名実共に皇帝となった。
(まあ権力争いは珍しいことではないからな。力こそすべてだ)
そんなことを考えながら、肖像画をぼんやり見つめる。
その一件のせいで冷酷非道や暴君と呼ばれているらしいが、建国に携わった者としてはこの強大な帝国を治めるにはむしろその非道さは必要だと考える。なので、ルキウスのことを詰るつもりも諭すつもりもない。
「……ん?」
小さく息をついた時、ふと違和感を感じた。
前世の自分の肖像画の額縁が何やらおかしいのだ。ルドヴィカは気になるままに額縁をこんこんと叩いてみた。それを見たセレーナが小さく悲鳴を上げたが、そんな彼女を無視して手の届く部分の額縁をもう一度叩く。すると、額縁の下中央のところがずれた。
(こんなところに細工が?)
中を確認すると、小さく折り畳まれた手紙が入っていたので、それを手に取り開く。
(保存状態は悪いが読めなくはないな……)
「これは……!」
「ルドヴィカ様?」
「あ。いや、なんでもないです。疲れたので、私は部屋へ戻りますね」
「承知いたしました。陛下がルドヴィカ様付きの女官を紹介したいと仰っておりましたので、ご休憩なさってから陛下の執務室に参りましょう」
「分かりました……」
足早に部屋に戻ると、セレーナが扉を守るように部屋の外に立つ。彼女にお礼を言ってから部屋の中に入った。
「ルチアからの手紙……」
ちらっと見ただけだが、確かに『ルチア』と書いてあった。ルドヴィカはおそるおそるその手紙を開いた。
『ルドヴィカへ。これを読んでいるということは、無事に生まれ変わったということかしら。けれど、貴方のことだから約束を守りたい気持ちと逃げたい気持ちがせめぎ合って、逃げたい気持ちのほうが勝っていそうね』
(う……するどい)
ルドヴィカが誓いどおり戻ってくることを見越して……いや、信じて手紙を残しておいたルチアに天晴れだと思いながらも、行動を読まれていることに冷や汗が出てくる。ルドヴィカは苦々しい気持ちで手紙を読み進めた。
『だから、私はもう一つ保険をかけてみることにしたの』
(保険……?)
ルドヴィカは次に続く言葉に愕然とした。手紙を持ったまま震え、力が抜けたようにその場に座り込む。
数日後。ルドヴィカは建国に携わった者たち――初代皇帝夫妻と初代辺境伯、そして前世の自分の肖像画の前に立った。見上げるほどに大きな肖像画を見つめて嘆息する。
(彼らが生きていたら今の状況をどう思うだろうか? ルチアは計算どおりと喜ぶのかもしれないが、あとの二人は呆れるかもしれぬな)
あのあと、ほぼ流されたのだがルキウスと手を組むことを了承すると自由が許された。護衛騎士を同行させれば、城内はもちろんのこと皇室図書館や神殿、どこにでも自由に行ける。
ルドヴィカは肖像画から、守るように側に立つ護衛騎士へと目を向けた。
ルキウスは女性騎士のほうが安心だと言って、セレーナという名の騎士をつけてくれたのだが、彼女は一見すると水色の髪と瞳のスタイルのいい美しい女性だった。容姿とは打って変わって彼女の纏う空気が一流の騎士だと物語っていて、安心感と好感がもてる。
(さぞかし鍛錬を積んでいるのだろう。いつか手合わせを願いたいものだ)
自分の魔力を考えると護衛などいらないのだが、前世と比べて剣の腕は当然ながら落ちているし、皇帝の婚約者という立場を考えると護衛を置かないわけにはいかない。それでも騎士を一人だけにしてくれているのはルキウスなりの配慮なのだろう。
ルキウスのことに考えを巡らせながら、肖像画に視線を戻しセレーナに声をかけた。
「セレーナ。ルキウスの噂は本当なのですか?」
「はい。ですが、あれは仕方のないことだったのです」
ルキウスについて調べてみたら、彼は側室の子だった。王位継承権は低かったのだが、皇帝夫妻と兄弟たちを殺し、自分に従わない臣下も同時に粛正したことで、彼は名実共に皇帝となった。
(まあ権力争いは珍しいことではないからな。力こそすべてだ)
そんなことを考えながら、肖像画をぼんやり見つめる。
その一件のせいで冷酷非道や暴君と呼ばれているらしいが、建国に携わった者としてはこの強大な帝国を治めるにはむしろその非道さは必要だと考える。なので、ルキウスのことを詰るつもりも諭すつもりもない。
「……ん?」
小さく息をついた時、ふと違和感を感じた。
前世の自分の肖像画の額縁が何やらおかしいのだ。ルドヴィカは気になるままに額縁をこんこんと叩いてみた。それを見たセレーナが小さく悲鳴を上げたが、そんな彼女を無視して手の届く部分の額縁をもう一度叩く。すると、額縁の下中央のところがずれた。
(こんなところに細工が?)
中を確認すると、小さく折り畳まれた手紙が入っていたので、それを手に取り開く。
(保存状態は悪いが読めなくはないな……)
「これは……!」
「ルドヴィカ様?」
「あ。いや、なんでもないです。疲れたので、私は部屋へ戻りますね」
「承知いたしました。陛下がルドヴィカ様付きの女官を紹介したいと仰っておりましたので、ご休憩なさってから陛下の執務室に参りましょう」
「分かりました……」
足早に部屋に戻ると、セレーナが扉を守るように部屋の外に立つ。彼女にお礼を言ってから部屋の中に入った。
「ルチアからの手紙……」
ちらっと見ただけだが、確かに『ルチア』と書いてあった。ルドヴィカはおそるおそるその手紙を開いた。
『ルドヴィカへ。これを読んでいるということは、無事に生まれ変わったということかしら。けれど、貴方のことだから約束を守りたい気持ちと逃げたい気持ちがせめぎ合って、逃げたい気持ちのほうが勝っていそうね』
(う……するどい)
ルドヴィカが誓いどおり戻ってくることを見越して……いや、信じて手紙を残しておいたルチアに天晴れだと思いながらも、行動を読まれていることに冷や汗が出てくる。ルドヴィカは苦々しい気持ちで手紙を読み進めた。
『だから、私はもう一つ保険をかけてみることにしたの』
(保険……?)
ルドヴィカは次に続く言葉に愕然とした。手紙を持ったまま震え、力が抜けたようにその場に座り込む。
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