女装をしたら復讐を始めよう〜糞王子に婚約者を奪われた僕、転生チートで国ごと滅ぼすと決め男装王女と手を取りました〜

猪鹿蝶

文字の大きさ
17 / 33

17、糞王子と決闘する僕①

しおりを挟む

 決闘日当日。
 僕は今、僕の姿のまま闘技場の控室にいた。
 しかし実際戦うのは女装した僕だ。
 そのためドレスアップアイテムを3日間で集めるだけ集めた僕の女装効果は、50倍にまで膨れ上がっていた。

「お兄様、その姿のままで大丈夫なのですか?」
「あの糞王子に精神的ダメージを与えるために、僕は全ての恥を捨ててあの糞に復讐すると決めたんだ」

 どれほどの観衆がいて全ての人間に僕の女装が晒されようとも、今の僕は怯みはしない。
 寧ろここまで来たら、黒歴史なんて乗り越えてやるさ……この怒りに比べたら恥ずかしさなんて投げ捨ててやる!

「お兄様、頑張ってください。それとこれを……」

 そう言ってリノーが差し出したのは、シュクル殿下の不正予算について書かれた証拠品だった。

「確かにコレは、ここで使わないといけないよね」
「それからその資料だけではわかり辛いだろうと思いまして、何の予算が横領されているかをわかりやすくピックアップした物も挟んでありますので、すぐにわかる証拠として観衆に晒すのが良いかと思います」
「ありがとう、リノー」

 僕はその資料を受け取って、服の中にしまう。
 女装モードでも、この資料がすぐに取り出せるところにある事を祈りつつ、僕は深呼吸をする。
 もうすぐ決闘が始まるからか、ここまで人々の熱気が聞こえてきていた。
 そんな僕の部屋に誰かがノックをした。

「フラム、私だ。入るぞ?」
「ショコラ様? どうぞ入ってください」

 僕は慌てて扉を開き、ショコラ様を部屋に招き入れた。そしてショコラ様が座れるように椅子を準備する。

「決闘前に話しておきたい事があってな」
「なんでしょうか?」
「君は忙しくて忘れていたのかもしれないが、昨日ガレットの刑が執行された」

 その言葉に僕はゴクリと喉をならす。
 刑がなされたと言うことは、ガレットが亡くなったと言う事だからだ。

「ガレットはどのような刑に?」
「服毒刑だ。兄上に毒を飲ませようとした罪だからね、彼女にも毒を……と言う事だろうね」
「……そうですか」
「悲しいかい?」
「いえ、僕が彼女を殺したのですから……でもこれで、ショコラ様を毒殺しようとした罪は裁かれたのです。一緒に喜びましょう……」

 そう言いながら、実際の僕はあんまり喜ぶことは出来なかった。
 一瞬だけガレットと過ごした日々が頭に流れ込んでしまい、僕は顔を歪めてしまいそうになる。
 そんな僕は突然柔らかい何かに包まれて、驚きに声をあげてしまう。

「っえ?」
「彼女を陥れたのは私も一緒だ、一人で背負い込むな」

 気がつけば、僕はショコラ様に抱きしめられていた。
 きっと精神的に弱ってる僕を見て慰めようとしてくれたのだろう。

「……すみません、ありがとうございます」
「気にするな、私たちは共犯者なんだからね」
「……はい」
「お兄様、私も……一緒に背負いますから」

 そう言ってリノーも僕を抱きしめてくれた。
 僕は二人にギュッと抱きしめられて、涙が溢れそうになるのをグッと堪えて言った。

「二人ともありがとう、ありがとうございます。僕はもう大丈夫ですから……今日の決闘見ていて下さい」
「そうか、ならよかった」

 そう言って二人が離れた瞬間、ショコラ様が光輝いた。
 それはスキル『聖剣』を使ったときの光でーー。

「よし、フラムにはこの聖剣を貸してあげよう」
「え……?」

 衣装が変わったショコラ様は、聖剣を僕に向けて渡そうとした。
 そんなショコラ様を見て、この人は何を言っているのだろうかと瞬きを繰り返してしまう。

「どうした、受け取ってくれないのか?」
「え、あの……これって別の人が使えるんですか?」
「何を言っているんだ。私のスキル『聖剣』は聖剣を召喚するスキルだよ?」

 本当に、召喚するだけなの?
 そんな馬鹿なと、ショコラ様と聖剣へ何度も視線を送ってしまう。

「でも、聖剣を持っているショコラ様は強いんですよね?」
「聖剣のパワーとこの衣装によるバフは多少あるけど、半分は実力だよ?」
「どのぐらい強いのですか?」
「兄上に片手で勝てるぐらいだと思うよ」

 それってヤバいぐらい強いのでは……?
 国を潰す計画に本当に僕は必要だったのか疑問に思えてしまう。

「そういうわけだから、この聖剣を受け取ってくれ。バフは得られないが、聖剣というだけあってパワーだけは凄いからね」
「……わかりました。この聖剣、お借りいたします」

 そう言って僕は『聖剣』を受け取った。
 その瞬間、僕の脳に声が聞こえて来たのだ。

『なんじゃ、小童か……本当ならばワシを扱うのはもう少し可愛い子がいいんじゃぞ~。もうオッサンに扱われるのなんて嫌じゃ!!』

 その声はオッサンのように聞こえて、声は不思議と女性だった。
 そういえばショコラ様は、聖剣が国を潰せという声が常に聞こえてくるって言ってたけど、こんな喋るタイプの剣だったなんて……。
 前世のゲームにこういうのあったけど、実際ずっと喋られると煩いよね。

『小童、聞こえておるぞ? どうやらお主からは可愛いオーラを感じるのじゃ、もしもっと可愛くなるのなら力を沢山かしてやっても良いのじゃ』

 それは助かるので、頑張ります。
 そう聖剣さんに言って、僕はショコラ様を改めてみた。

「どうやら聖剣は少しは力を貸してくれそうです」
「そうか、なら良かった」
「聖剣まで使いこなしてしまうなんて、流石お兄様ですね……」

 特に何もしていないのに妹に褒められて、少し照れたときだった。

「まもなく開始時間となります、フラム様はこちらへお願いします」

 そう言われて僕は闘技場、場内へと向かう事にした。
 この闘技場は円形になっており、2階から客席になっているため見回せば360度全てに観衆がいた。
 特等席には国王陛下が、それ以外は全て貴族の集まりだ。そしてこんな見せ物を見に来るのは殆ど腐った貴族ばかりだろう。
 だから僕の両親はこんなところにいない。
 きっと僕が何かする事に気がついている両親は、すぐに判断を下せるように家に居るはずだから。

「遅かったじゃないか、フラム。この俺に恐れをなして逃げ出したかと思ったよ?」

 よくみると目の前にはシュクル殿下が立っていた。遅かったという事は、最初からここにいたらしい。

「いえ、ゆっくりくるのも作戦ですからね」
「はは、本当におかしな事を言う男だな。それにしても、貴様はその姿で戦うのか?」

 シュクル殿下の疑問に思うのは当たり前だ。
 僕は戦うための軽装ではなく、いつもと同じ正装に聖剣を持つというちょっと不思議な格好だったのだから。

「いえ、この服ではありませんよ? 今日のために僕はとっておきの服をご用意させて貰いましたから……是非しっかりその目に焼き付けてくださいね?」

 そう言って、僕はスキル『女装』を発動した。
 僕は眩い光に包まれる。そして気がつけば長い髪を靡かせながら真っ黒なドレスを身にまとっていた。
 その姿に、観衆がざわざわと騒ぎ出すのがわかる。
 しかし僕は何を言われようが気にせずに、糞王子を見てニヤリと笑った。

「この姿に見覚えがお有りですか、シュクル殿下?」

 その姿にシュクル殿下の目が驚きに見開いたのが見えたのだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...