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17、糞王子と決闘する僕①
しおりを挟む決闘日当日。
僕は今、僕の姿のまま闘技場の控室にいた。
しかし実際戦うのは女装した僕だ。
そのためドレスアップアイテムを3日間で集めるだけ集めた僕の女装効果は、50倍にまで膨れ上がっていた。
「お兄様、その姿のままで大丈夫なのですか?」
「あの糞王子に精神的ダメージを与えるために、僕は全ての恥を捨ててあの糞に復讐すると決めたんだ」
どれほどの観衆がいて全ての人間に僕の女装が晒されようとも、今の僕は怯みはしない。
寧ろここまで来たら、黒歴史なんて乗り越えてやるさ……この怒りに比べたら恥ずかしさなんて投げ捨ててやる!
「お兄様、頑張ってください。それとこれを……」
そう言ってリノーが差し出したのは、シュクル殿下の不正予算について書かれた証拠品だった。
「確かにコレは、ここで使わないといけないよね」
「それからその資料だけではわかり辛いだろうと思いまして、何の予算が横領されているかをわかりやすくピックアップした物も挟んでありますので、すぐにわかる証拠として観衆に晒すのが良いかと思います」
「ありがとう、リノー」
僕はその資料を受け取って、服の中にしまう。
女装モードでも、この資料がすぐに取り出せるところにある事を祈りつつ、僕は深呼吸をする。
もうすぐ決闘が始まるからか、ここまで人々の熱気が聞こえてきていた。
そんな僕の部屋に誰かがノックをした。
「フラム、私だ。入るぞ?」
「ショコラ様? どうぞ入ってください」
僕は慌てて扉を開き、ショコラ様を部屋に招き入れた。そしてショコラ様が座れるように椅子を準備する。
「決闘前に話しておきたい事があってな」
「なんでしょうか?」
「君は忙しくて忘れていたのかもしれないが、昨日ガレットの刑が執行された」
その言葉に僕はゴクリと喉をならす。
刑がなされたと言うことは、ガレットが亡くなったと言う事だからだ。
「ガレットはどのような刑に?」
「服毒刑だ。兄上に毒を飲ませようとした罪だからね、彼女にも毒を……と言う事だろうね」
「……そうですか」
「悲しいかい?」
「いえ、僕が彼女を殺したのですから……でもこれで、ショコラ様を毒殺しようとした罪は裁かれたのです。一緒に喜びましょう……」
そう言いながら、実際の僕はあんまり喜ぶことは出来なかった。
一瞬だけガレットと過ごした日々が頭に流れ込んでしまい、僕は顔を歪めてしまいそうになる。
そんな僕は突然柔らかい何かに包まれて、驚きに声をあげてしまう。
「っえ?」
「彼女を陥れたのは私も一緒だ、一人で背負い込むな」
気がつけば、僕はショコラ様に抱きしめられていた。
きっと精神的に弱ってる僕を見て慰めようとしてくれたのだろう。
「……すみません、ありがとうございます」
「気にするな、私たちは共犯者なんだからね」
「……はい」
「お兄様、私も……一緒に背負いますから」
そう言ってリノーも僕を抱きしめてくれた。
僕は二人にギュッと抱きしめられて、涙が溢れそうになるのをグッと堪えて言った。
「二人ともありがとう、ありがとうございます。僕はもう大丈夫ですから……今日の決闘見ていて下さい」
「そうか、ならよかった」
そう言って二人が離れた瞬間、ショコラ様が光輝いた。
それはスキル『聖剣』を使ったときの光でーー。
「よし、フラムにはこの聖剣を貸してあげよう」
「え……?」
衣装が変わったショコラ様は、聖剣を僕に向けて渡そうとした。
そんなショコラ様を見て、この人は何を言っているのだろうかと瞬きを繰り返してしまう。
「どうした、受け取ってくれないのか?」
「え、あの……これって別の人が使えるんですか?」
「何を言っているんだ。私のスキル『聖剣』は聖剣を召喚するスキルだよ?」
本当に、召喚するだけなの?
そんな馬鹿なと、ショコラ様と聖剣へ何度も視線を送ってしまう。
「でも、聖剣を持っているショコラ様は強いんですよね?」
「聖剣のパワーとこの衣装によるバフは多少あるけど、半分は実力だよ?」
「どのぐらい強いのですか?」
「兄上に片手で勝てるぐらいだと思うよ」
それってヤバいぐらい強いのでは……?
国を潰す計画に本当に僕は必要だったのか疑問に思えてしまう。
「そういうわけだから、この聖剣を受け取ってくれ。バフは得られないが、聖剣というだけあってパワーだけは凄いからね」
「……わかりました。この聖剣、お借りいたします」
そう言って僕は『聖剣』を受け取った。
その瞬間、僕の脳に声が聞こえて来たのだ。
『なんじゃ、小童か……本当ならばワシを扱うのはもう少し可愛い子がいいんじゃぞ~。もうオッサンに扱われるのなんて嫌じゃ!!』
その声はオッサンのように聞こえて、声は不思議と女性だった。
そういえばショコラ様は、聖剣が国を潰せという声が常に聞こえてくるって言ってたけど、こんな喋るタイプの剣だったなんて……。
前世のゲームにこういうのあったけど、実際ずっと喋られると煩いよね。
『小童、聞こえておるぞ? どうやらお主からは可愛いオーラを感じるのじゃ、もしもっと可愛くなるのなら力を沢山かしてやっても良いのじゃ』
それは助かるので、頑張ります。
そう聖剣さんに言って、僕はショコラ様を改めてみた。
「どうやら聖剣は少しは力を貸してくれそうです」
「そうか、なら良かった」
「聖剣まで使いこなしてしまうなんて、流石お兄様ですね……」
特に何もしていないのに妹に褒められて、少し照れたときだった。
「まもなく開始時間となります、フラム様はこちらへお願いします」
そう言われて僕は闘技場、場内へと向かう事にした。
この闘技場は円形になっており、2階から客席になっているため見回せば360度全てに観衆がいた。
特等席には国王陛下が、それ以外は全て貴族の集まりだ。そしてこんな見せ物を見に来るのは殆ど腐った貴族ばかりだろう。
だから僕の両親はこんなところにいない。
きっと僕が何かする事に気がついている両親は、すぐに判断を下せるように家に居るはずだから。
「遅かったじゃないか、フラム。この俺に恐れをなして逃げ出したかと思ったよ?」
よくみると目の前にはシュクル殿下が立っていた。遅かったという事は、最初からここにいたらしい。
「いえ、ゆっくりくるのも作戦ですからね」
「はは、本当におかしな事を言う男だな。それにしても、貴様はその姿で戦うのか?」
シュクル殿下の疑問に思うのは当たり前だ。
僕は戦うための軽装ではなく、いつもと同じ正装に聖剣を持つというちょっと不思議な格好だったのだから。
「いえ、この服ではありませんよ? 今日のために僕はとっておきの服をご用意させて貰いましたから……是非しっかりその目に焼き付けてくださいね?」
そう言って、僕はスキル『女装』を発動した。
僕は眩い光に包まれる。そして気がつけば長い髪を靡かせながら真っ黒なドレスを身にまとっていた。
その姿に、観衆がざわざわと騒ぎ出すのがわかる。
しかし僕は何を言われようが気にせずに、糞王子を見てニヤリと笑った。
「この姿に見覚えがお有りですか、シュクル殿下?」
その姿にシュクル殿下の目が驚きに見開いたのが見えたのだ。
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