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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺
81、助けに向かいながら
しおりを挟むセシノから突然の救援要請に俺は混乱していた。
「いや、待ってくれセシノ。いきなり助けて欲しいって言われても……それにお姉さんて誰!?」
「お姉さんはお姉さんなんですけど、どこから話したらいいのでしょうか……えーっと?」
「二人とも、少し落ち着くのですわ」
気がつけばイアさんが俺たちの間にいた。
「とりあえずセシノさんは、そのお姉さんのところまでの案内をお願いしますわよ」
「は、はい。わかりました!」
「それから勇者派については時間がありませんので、走りながら話をしますわ」
「お、お願いします」
そう言いったのはいいけど俺の体力は結構限界に近かった。だけど途中でへばるわけにはいかないので、俺は気合を入れ直す。
そして俺は先を走るセシノを追いかけながら、イアさんの話を聞き始めたのだ。
「私は先程まで勇者派にいましたが、どうやらあの爆発を引き起こしたのはお面派で間違いなさそうですわよ?」
「……え!?」
その話に俺は驚いてしまう。
何故なら先程お面派で聞いてきた話と真逆の話だったからだ。
「待ってください! 確かにお面派が魔法を仕掛けたのは間違いないようですが、あの爆発の威力は勇者派が細工したせいだとお面派では言われてましたよ?」
俺に話をしてくれたあの人たちが嘘を言ってるようには見えなかった。
そんな俺の話にイアさんは眉を寄せながら言った。
「それはおかしいですわ。もしかするとどちらかの派閥が嘘を言っているか、両者を争わせるために誰かが細工をした……という可能性もありますわね」
「前者はまだわかるんですけど、後者はそれで誰か得をするんですかね?」
「それはわかりませんが、きっとこの戦いで負けた方は確実に責任を押し付けられるのは間違いないと思いますわよ」
それはつまり、負けた方は爆発を含めたこの戦い全ての責任を負う事になる。そうなれば多くの市民から糾弾され、この町にはいられなくなる可能性が高いだろう。
「なんかもう、何がしたいのかよくわかりませんね……」
「もしかすると、どうしてもどちらかの派閥を潰したい人がいるのかもしれませんわね。ですが私にはどちらが勝つかなんて全く読めませんわ」
「でも、こんな派閥争いをわざわざ始めた奴がいるって事は、争いに終止符を打つ大規模な罠も仕掛けているかもしれませんよね。ここからはなるべく気をつけて行きましょう」
「ええ、そうですわね。ですが……その前にバンは、体力をどうにかしたほうがいいですわよ?」
「うぐっ……!」
どうやらイアさんには、俺の息が少しずつあがっている事がバレていたようだ。
俺は何かを言われる前に咄嗟に目を逸らし、セシノの方を見る。するといつからこちらを見ていたのか、セシノと目があったのだ。
「……セシノ、どうした?」
「あの、そろそろ私がお姉さんと別れた場所ですけど、まだお話の途中でしたか?」
「いや大丈夫だ。それにもう着くならそっちを優先しますよね、イアさん?」
俺は先程の話を掘り返されないように言うと、イアさんはため息をついていた。
「まあ、確かにそうですわね。それで、その方がいらっしゃるのはどちらですの?」
「えっと……」
セシノは前を向くと、少し辺りを見回してから指を差して言ったのだ。
「私が別れたのはあそこです! あれ、でも誰もいない……どうして? 私があそこで別れたのは間違いないのですけど、お姉さんは何処に行っちゃったのでしょうか!?」
「セシノさん、少し落ち着いた方がいいですわよ。それに戦っているのならそんなすぐに移動するとは思えませんし、きっとまだ近くにいるはずですわ。せっかくここまで来た事ですし、私が探してあげますわね」
「イアさん、すみません。私が呼んだのにご迷惑おかけしてしまって……」
「セシノ、そんなに気にしなくても大丈夫だって。それにイアさんは索敵も凄く得意だからすぐに見つかるはずだ」
二人でイアさんを見ると、すでに目を閉じて、集中していた。
俺が覚えているままなら、イアさんの索敵は聴覚によって足音を聞くタイプだったはずだ。
だからなるべく音を立てないように俺はじっとイアさんを見つめて待っていた。
そして目をカッと開いたイアさんは言ったのだ。
「見つけましたわよ! 近くで戦闘音が聞こえましたが、どうやらこの辺で戦闘しているのはそこだけでしたわ」
「じゃあ、間違いなくそこだな」
「ええ、すぐに行きますわよ!」
「はい!」
「ああ!」
俺たちはイアさんに案内されて路地裏へと入って行く。
そして俺たちにもようやく戦闘音が聞こえてきた頃、女性の怒鳴り声がした。
俺はその声をどこかで聞いた事があるような気がして、何故かこの先へ行きたくないという気持ちに躊躇いながら走っていた。
「あんたらねぇ! 糞みたいな趣味してるんじゃないわよ!!!」
ようやくはっきりと聞こえるまでになったその声に、俺たちは次の道を曲がる。するとそこでは、三人の男が一人の女性を囲むように戦っているのが見えた。
女性の足元には既に男が二人倒れている。しかし残りの男たちに翻弄されている女性は、服が裂けて中々目線のやり場に困る姿になっていた。
よく見ると男たちは顔に酷い傷があり、そいつらは下卑た笑いをしながら女性の攻撃を交わし、わざと軽く剣を振り服だけ破いているのがよくわかる。
「ほらほら、ちゃんと避けないと裸になっちゃうぜ!!」
「さっきから何なのよ!? 真面目に戦いなさいよ!」
「真面目に戦ったら勝てないからな。それにこれは復讐なんだ………だから俺たちをもっと楽しませてくれないと困るんだよ!」
「いやまさかあのクソガキがこんな良い体になってるなんてなぁ……これは仕方がねぇよな!!」
そう言うと男たちは再び女性を蹂躙しようと剣を振り上げる。俺はそれに耐えきれなくてすぐにスキルを発動していた。
プロテクト・ゾーン発動! 指定するのは男たちの方だ!!
結界が男たちを囲うように展開された瞬間に剣がガキンっと、弾かれたのがわかった。
「な、なんだ!?」
戸惑う男たちを無視して、俺たちは一気に女性のもとまで駆け寄った。
「お姉さん!!」
セシノの声にその女性は振り向く。
裂かれた服のせいでその姿を直視できなくて、俺は顔を背けていた。
「あんた! まさか戻ってきたの!?」
「お姉さんが心配で、助っ人を呼んできたんです」
俺は今もまだ混乱している男たちを眺めながら女性に近づき、なるべく体をみないように上着をかけてやる。
「それ、着た方がいいぞ」
「なによあんた、でも今は仕方がないから着てあげるわ……ふん、ありがとう」
なんだかその話し方と声に俺は眩暈がする程の既視感を覚えて、ついその顔をみてしまった。
「っ!?」
叫びそうになった俺は、すぐに口を閉じてソッポを向く。
確かに大人になって見た目が結構変わっていた。
だけど俺が間違えるわけがない。
今、ここには俺を置き去りにした張本人ーー。
俺が8年間ずっと待ち続けた相手である、アンナがいたのだ。
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