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第四章 ダンジョンを観光地化させる俺

82、クズ(アンナ視点)

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ここで、セシノがバンを探しに向かってからのアンナ視点を3話。バンに助けられた後まで少し入ります。

ーー▼ーー▽ーー▼ーー▽ーー▼ーー






















 あれはまだ私がエースだった頃のこと、ブラックドラゴンに襲われたことがある。
 そのときのパーティーメンバーは確かに自分より強かったけど、力を過信してるタイプばかりで正直嫌いだった。

 そのときだって、ブラックドラゴンを前に私は「すぐに逃げよう!」と言ったのに、男たちは「俺たちならやれる」と立ち向かっていってしまったのだ。
 でもこんなの勝てるわけがないと私は何度も「やっぱ逃げた方がいい」と言っていたら、私に向かって「一人で勝手に逃げればいいさ」と言ったのだ。
 だから逃げたというのにーー。
 何故か私が逃げだしたせいで、大怪我をしたという事にされてしまったのだ。
 その結果、私はファミリーを追い出された。


 そんなクズ男たちが今、目の前にいた。
 そして私に復讐しようだなんて意味のわからない事を言ってきているのに……今の私は一体何をしているのかしら……?

「すぐに逃げるのよ。わかったわね!!」

 誰かを逃すなんて今までした事ないのに。
 本当なら逃げないといけないのは私の方なのに。
 この子の心配そうな顔を見たら、巻き込んでしまったこの子をどうしても逃さなくちゃいけないと思ってしまったのよ。

「でも、布は……?」
「そんなの、また今度でいいわよ! それに私は人相手であれば割と強いのよ?」

 何で嘘ついてるのかしら……私は対人戦なんて殆どした事がないもの。だけど今は逃げるわけにはいかないし、こうなったらもうやるしか道は残されてないのよ!
 男たちを睨みつけた私は、この子の逃げ道を確保する為に、前に出た。

「おう、ようやく相手してくれる気になったか?」
「ええ、そうよ。だって私は謝る気なんて全くないんだもの!! だからあんた達がもう二度と報復なんて出来なくなるように、私が完全に叩き潰してあげるわ!」

 本気でやると決めたからだろうか、なんだか無性に腹が立ってきたのだ。
 私は本当に何も悪くないのに、なんで復讐なんてされなくちゃならないのよ! 寧ろ悪いのはコイツらの方なのに!!
 だから絶対に勝ってやるわ……!

「ああ!? お前、この人数に勝てると思ってるのかよ!!」
「ええ、もちろんよ!」

 ボルテージの上がってきた私は剣を抜いて走り出す。
 ただほんの少しだけ気になってあの子を見ると、丁度走り出したのが見えてホッとしてしまう。
 安心した私は男たちに突っ込むと見せかけて、勢いよく飛び越える。そしてその勢いのまま走り出したのだ。

「お、おい! てめぇ、どこ行きやがる!!」
「逃げる気か!?」

 逃げ切れるならそれでもいいけど、目的はあの場所から離れる事。
 ずっとこの場所にいてまた誰かを巻き込んでも困るし、複数人を相手にするなら狭い通りの方が戦いやすい筈よ!
 そう思って私はひたすら走っていたのだけど、困った事に今の私には土地勘がなかった。だから気がつけば三人の男たちに先回りされてしまったのだ。
 その事につい舌打ちをしてしまう。

「チッ、いつのまに二手にわかれてたのよ!」
「おいおい、そんな事にも気がつかねぇなんて思ったより焦ってるみてぇだな」
「うるさいわね、あんた達なんて見る価値もないゴミじゃない。だから後ろを振り向かなかっただけなんだから、勝手に決めつけないで!」
「相変わらず腹立つ言い方しかしない女だな。だがな、俺たちからは絶対に逃げられないぞ!」
「ひひ、早く俺たちみたいに顔を傷だらけにしてやりたいぜ!」

 最悪だわ。前に三人、後ろに二人……完全に挟まれてしまったけど、とにかく退路の確保は必要だわ。
 ここは人数の少ない後ろの二人を、不意打ちで一気に倒すしかないわね……。

「私を挟み込んだだけで倒せるなんて思わないでよね!!」
「あー、イラつく!! やっぱクソ女はわからせてこそだよな!」

 そう言って前から突進してくる男の剣撃をかわす。
 私はステップを踏んでバックすると、思った通り後ろの男が剣を振り下ろすのが見えたので、咄嗟に横に飛び退き今がチャンスだと自分の立ち位置を調整しながら、自分の愛剣を撫でた。
 そして私は後ろの二人が一直線に並ぶ瞬間を狙ってスキルを放ったのだ。

「いっぺんにくらいなさい!! スピリットブラスト!!!」

 剣先から竜巻が巻き起こり目の前の男に直撃すると、そのまま後ろにいた男を巻き込んで吹き飛んだ。

「うわぁぁあぁぁああぁ!!!!」
「お、おいこっちにくるな!! っぐぎゃぁぁぁあぁぁあ!!」

 スピリットブラストは風属性を剣に付与する事で、風の力で剣の切れ味を強化したり風そのものをとばしたりできる為、かなり使い勝手がいいスキルだと思っている。
 二人はスピリットブラストを受けただけで、完全に気絶していた。この調子なら全員倒せるかもと、私は残りの男達を睨みつけた。

「もう二人も倒しちゃったけど、あんた達はこんなもんなわけ?」
「ははは! イキってるところ悪いが、そこの二人は俺たちの中でランクが低い奴らだからな?」
「……よーし、こっちも今のでデータが取れた。アンナはランク7だ。昔よりもやっぱ強くなってるよな」
「なに俺達だって強くなってるって事を教えてやろうぜ!だからここからはお前の好きにはさせないぜ!」

 ランク7の私に対して何も動じないってことは、この三人のランクは同等もしくは上ってこと!?
 驚きそうになるのをグッとこらえて、私はもう一度剣を握りしめる。

「じゃあ、次はこっちからいくぞ!?『グラビティラッシュ』!!」
「そ、それは……!?」
「覚えてるよな、俺のこのスキル!」

 確かグラビティラッシュは、重力系のスキルだった筈だ。ターゲットにされるとその引力に引き寄せられ、使用者に近づき過ぎてしまい上手く間合いを取りずらくなってしまう。
 そして何よりその重力場に抗えないため、逃げ出す事はできない。

「さっき言ったよな、俺たちからは逃げられないって……寧ろ自分から近づいて来てくれるってか?」
「く……!」

 なんとか耐えようにも私の体は、少しずつ引き寄せられ足が一歩ずつ前に動いてしまう。
 このままだとまずいわ……こうなったら逆にその引力を使って一気に距離をつめてやるんだから!
 そう思って私は引かれるまま、そのスキルを使った男の元へ走り出す。

「やはり、そう来ると思っていたよ!」
「なっ!?」

 突然引力が消えたため、私は前のめりで倒れてしまいそうになる。

「ほら俺の剣でその綺麗な顔に傷をつけてやるよ!!」

 倒れかけた私の目には振り上げられた剣が見えていた。
 このままだと、顔がどころか死ぬじゃない!!
 そう思って、私は咄嗟にスピリットブラストを発動し風を地面にぶつけ、なんとか体勢を整えようとした。
 確かに剣は私に当たらなかったけど、ビリビリィっと嫌な音がしたのだ。
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