魔眼の使い魔と異世界転生〜世界の秘密を解き明かせ!〜

アオノクロ

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第1話 「使い魔で使い目との出会い」

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 帰りたい。それが憧れの異世界に来て、一日も経たずに思ったことだ。

「ヒ、ヒィィィ! お、俺が悪かったからもう許してくれ!」
 人だけでなく、いろいろな種族が集まる異世界の居酒屋。その店にいたお客、従業員を含めた全員が、ある一箇所に注目していた。
 それは二メートル近い大男が腰を抜かしながら泣き叫び、許しをこう姿。そんな姿を見ながら笑う、ボロボロの布切れを纏った青年。
「ヤベェよ、あいつ。俺あんなことをされたら生きていけない」
「まるで魔王だな」
「あいつに関わるのはやめておこう」
 周りで見ていた連中の感想を聞きながら、青年はこう考えていた。
(やらかした……!)
 笑いながらも、よく見れば口元がひくついているのが見える。ただし、近くに人はおらず、そのことに気がつくのは布切れに隠れている青年の使い魔だけだ。

 ……引っ張り続ける意味も無いので言うけど、その青年は俺です。

「さすがですねマスター戦うこと無く相手を蹂躙する、まるで魔王のような風格です」
「おいこら何責任転嫁してんだ、アイのせいだろ!」
「マスターならばこの状況も乗り切れます、頑張ってください」
 口が達者な使い魔、泣き叫ぶ大男、近づかない連中、俺に乗り切れる実力はありません。
 誰か助けてください。
 そう願うも神に聞き取ってもらえる事はなく、走馬灯のように今日、ここにたどり着くまでの記憶を遡った。



 寝ていた俺は、目を覚ませば豪華なホテルの一室(行ったことはないのであくまでイメージ)に立っていた。そして部屋の真ん中で椅子に座る、これまた人生で一度もお目にかかったことのない美女。
「初めまして素質ある人の子よ。私は」
「……女神?」
 としか言えない存在。それ以外に形容できる言葉が俺にはなかった。
「あら、そう言われるのは嬉しいですね」
 朗らかに笑う彼女に思わず見惚れてしまう。
「あの、聞きたいことが」
「そうですね。少々長くなりますし、お座りになられてください」
 促されるままに女神の対面に座る。机の上には二人分の紅茶セット、そして占いに使われるような紫色の水晶が置いてある。
「まずここは、死んだ者が訪れる狭間の世界。本来なら死んだものは裁判にかけられ「ちょ、ちょっと待ってください」
 いきなり聞きたいことが増えた。
「あの、死んだ者が訪れるって、俺は死んだのですか?」
「もしかして、記憶がないのですか?」
 質問に頷く。
 最後の記憶は布団に入って寝たことだ。事件や事故に巻き込まれた記憶は無い。
「そうなると、寝ている間に何らかの事故に巻き込まれたのかも知れませんね。私は案内が役目なので詳しくは調べないと分かりませんけど」
 申し訳なさそうに言う女神にこれ以上聞くのは憚られた。
 だとしても、これは運が良かったのかもしれない。痛みも苦しみも無く、記憶に残らないうちに死んだのだから。……死んで運が良いと言うのもおかしな話だが。
「納得されたようで良かったです。では、続きを。死んだ者は行き先を決められるのですが例外があります。本来なら死者の魂は記憶を消され、新たな命に生まれ変わります。ですが、記憶を消すことのできない魂を持つものがごく稀に存在します」
 そうあなたのような、俺を見る目がそう言っている。特別な存在。漫画なんかではよく聞くが、別に嬉しいわけではない、うん。
「口元が緩んでいますよ」
 慌てて口を手で覆って隠す。
「そんなあなた方は魂の記憶を消すことができません。ですので、特別処置を行います。二度目の生を全うすることで魂を洗う、浄化とでも言いましょうか。あなた方の言葉を使えば異世界転生、を行います」
 女神はそこで一息つくと紅茶に口をつけた。

 本やゲームで良く見る異世界転生。そんなに触れることの無かった俺は特別詳しくないが、そのジャンルには必ずある共通点があった。
「それを選ぶと何か特典? か、何かを貰えるのですか?」
 恐る恐る聞くと女神が頷く。
「生きてもらうために別の世界へ行ってもらっても、すぐに死んでしまっては魂の浄化もできませんしね。記憶も身体もそのまま、あなたに適した特典を差し上げます。そのうえで聞きましょう」
 そこで一息つくと真剣な表情で俺に尋ねた。

「異世界に転生しますか?」

 後で思えば、とんでもなく怪しい勧誘だった。それでもまぁ、平和に平凡に平らに生きていた俺は思わず頷いた。未知の世界で冒険だとか、男の子には魅力的すぎる。
 女神が微笑んだ。



「ではあなたに合う道具を渡しますね。こちらに手を」
 女神に促されて水晶に手をかざす。数回点滅すると水晶は眩い光を放った。
 光が収まると俺の隣には小さな目玉が浮かんでいた。
「……」
「……」
 俺と女神の思い沈黙が場を包む。
「初めましてマスター、貴方の補助を努めます。使い魔のアイです」
 宙に浮かぶ目は思いの外礼儀正しい挨拶をした。頭があれば深くじぎをしていただろう。
「……使い魔っていうか使い目?」
 何か言おうと口を開くとそんな感想が出た。
「プフッ」
 女神のツボは思っていたより浅かったらしい。どこが面白かったのか、口を押さえ、いや、それよりも。
「……お前何ができるの?」
「いろいろできます。対象の観察、弱点の看破などが基本ですね、得た情報、意思と視界の共有もできます」
「ほー」
 つまり、サポーター兼アドバイザーみたいな存在。これから異世界に行く身としてはとてもありがたい。
「……これ、俺以外にも見えるの?」
「マスターが許可した相手以外には視認できません」
 良し。さすがに目玉を連れて歩くのはきつい。俺以外に見えないのなら全然、いや良いのか? それはそれで問題が起きる気がする。
「マスター考え込んでも問題は解決しません。行動を提案します」
「お、それもそうだな」
 アイの言うことも一理ある。異世界ならこっちと常識が違うかもしれない。習うより慣れろ、考える前に行動しろ、だ。
「すみません、そろそろ異世界に」
「プフフフ、使い魔が使い目って、プフフフお腹痛い」
 まだ引きずっていた。机に突っ伏してお腹を抱える女神、なんとも声を掛けづらい。
「……どうしよ」
「マスター彼女は布団が吹っ飛んだ程度のダジャレで一日中笑えるツボの持ち主です」
「まじかよ」
 そんなに浅いのか、と言うかそんなことも分かるアイってかなりすごいと驚く。情報はともかく。
「ふと、布団が、プフフフ。やめてください、私の秘密なんですから」
 ますます笑いが止まらない女神。小一時間アイと話をしながら待ってようやく笑いの波が引いた。

「ふー、ふー、それでは異世界に送りますね、プフフ。どこかの町か村に送りますので、その前に、これは餞別です」
 腰巻のポーチを貰う。文字通りの餞別なのか、中には金貨が入った財布が入っていた。
「ありがとうございます」
「些細な気遣いですよ」
 笑う女神はまだ震えている。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、それでは」
 片手を俺にかざし、掌から放たれる光にゆっくりと包まれていく。
「それじゃあ女神様、またいつか」
「はい、それでは。プフ」

 最後に見た女神は口を手で押さえていた。
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