クロスブルー

アオノクロ

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第1話 二人と一頭 交わる世界

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 その町では近頃ある噂が広がっていた。
「夜遅くまでひとりでいるとトカゲ怪人に襲われる」
 噂の真偽はさておき、実際に事件は起きている。現在の被害者は五人ほど、全員が意識は無く現在も病院で入院しており、外傷は首や腹などに赤い点が半円状に並んでいる。まるで動物か何かに噛まれたかのような傷だが、大きさから計算すると大型犬くらいでは目じゃないくらいの大きさとなる。警察は犯人が自作した器具などでつけたのではと考えている。



「これが現在分かっている情報」
「ほーん」
 真面目に話す少女の言葉を少年は片手にスマホ、片手に菓子パンを持って聞き流していた。
「観夜火(みやび)、それを聞いて俺にどうしろと? 俺は今イベント周回で忙しいんだが」
 アホが寝ている静かな時を邪魔するな、とメモ合わせずに返事をして菓子パンをむさぼる。
「現場に行った」
「ほん」
「マナの残痕があった」
「……ほーん」
「紺空(そら)とアジュールにお願いがある」
 少しの間、二人は黙っていた。菓子パンを食べ終わり、スマホからクエストクリア! の音が鳴って、ようやく紺空は観夜火を見た。。
「いいか観夜火、何度も言うが俺はお前の言うことを聞く義理は無い」
「うん」
「迷惑かけたこともあるが、その度に借りは返した」
「そうだね」
「つまりだ」
 紺空は少し眉を顰めて言った。
「その願いを、俺は断る自由がある」
「うん、だからお願い」
「……」
 間髪入れずに再び言った観夜火。最初から表情の変わらない観夜火と対照的に紺空は渋い顔になった。そして頭を抱え呻くと人差し指を突きつけて言い放った。
「絶対に行かないからな!」
「今夜十一時に西橋で」
「聞けよ!」
 ギャーギャーと様々な文句を叫んでいる紺空にそれじゃ、と一言だけ残し観夜火は消えた。



 夜、西橋に観夜火はいた。しかし、紺空はいなかった。
「……」
 にも関わらず、観夜火は橋周りを探索する。知り合いに集めてもらった情報、そこから行う推測、自分の眼。これらを用いて犯人の形を想像する。事件の環境、被害者に残された情報、現場に残された、
「あれ? 君何してるの?」
 深く考えていた観夜火は声のする方に振り向いた。
「学生だよね? 夜遊びはだめだよー」
 若い警察官がにこやかに笑いながら立っていた。
「……ごめんなさい」
「それにほら最近事件が起きてるでしょ。こうして見回りしてるけど、それでも限界はあるから。家はどこ? 送るっていくから」
「……家族に連絡入れてもいいですか」
「ん、そうだね。そのほうが良いよー」
 優しく気遣う警察官に観夜火は一言断ると、スマホを取り出した。
 バシュ、という音と共に、どこからか水の球が勢いよく飛んできた。
「!?」
 観夜火は、水の球が当たった場所を振り返った。さっきまで持っていたスマホがバラバラに砕けている。
「あー、スマホ壊れちゃったね」
 すぐ後ろで警察官の呑気な声が聞こえる。最初に声をかけられた時と同じ、現状を見ても何も変わらない呑気な声。
「君、最初から気付いてたでしょー」
 警察官の全身を緑青色のモヤが全身を覆う。
「なんかさー、こいつに取り憑かれてからお腹が空いてさ。もう我慢ができないんだよね」
 姿が見えなくなるほど濃く強くなっていくと、一際強くなると一気に弾けた。
「いただきます」
 そこには二メートルを超える、緑青色の鱗と水棲生物のヒレを持つ蜥蜴の怪物が立っていた。



 降り下ろされる爪、岩にも亀裂が入る水の球に、高圧水流。どれも簡単に観夜火の命を奪える攻撃を、観夜火は予測し障害物を使って逃げる。
「やるねー、でも」
 観夜火の後ろには乗り越えることのできない壁、気がつけば袋小路に追い込まれていた。
「……何であの人たちを襲ったの」
「えー、何でって?」
 大蜥蜴は空を見上げた。
「こっちだって頑張って仕事してるんだよ? なのに文句言われたり、関係ないこと言われたり、些細なことで呼ばれたり疲れてさー」
 もういいやって思ったのさ、そう口にした大蜥蜴の瞳が黒から金色に変わった。
「ヒャハハ、ヒャハハハハハハハハハ! そうさ! 厳正(げんせい)は溜まった鬱憤を晴らすために! 俺に! シーゲン様に身体を貸してくれたのさ!」
 外見で変わったのは瞳だけ、しかし目の前の存在は明らかに別人となっている。
「こっちじゃ大気のマナが薄くて形を保つのがギリギリだからな! 魂の濃い人間食うのが一番だ!」
「……その人が死にかけても?」
「食い物に食える以外の感情がいるのか!?」
「そう……」
 大蜥蜴の言葉に心ばかりか観夜火の目元が上がる。だが
「へっ、よく見ればお前は他のやつよりもマナが多いな。喋って腹も減ってきたんだ」
 よだれを垂らしたシーゲンは、その人ひとり飲み込めそうな大口を開いた。
「いただき」
 観夜火を頭から丸呑み、



「何してんだテメェ」
「ウガッ!?」
 することはできなかった。いつの間にか後ろに立っていた紺空がシーゲンを蹴り飛ばす。
「何しやがる!」
「ウルセェ、蜥蜴は黙ってろ」
 叫ぶジーゲンを遠くまで蹴飛ばし、観夜火に向き合う。
「橋にはいねぇし、連絡もねぇし、挙句に襲われてるとかどこのヒロインだお前は! こっちにはお前みたいな眼はねぇんだよ!」
 だんだんと語尾が荒くなっていく紺空。
「橋で携帯を壊されてここまで逃げたの」
 冷静に返事をする観夜火。
「あー! その冷静な返事が負けたみたいで腹たつ!」
 頭を抱えて呻く。
「ごめんね」
 ペコリと頭を下げる観夜火。
「許さねぇ」
 即答する紺空。は、観夜火の腕を掴むと無理やり引き寄せた。
 たった今まで観夜火のいた場所に水の球が飛んで弾けた。
「クソガキガァ! よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもこの俺様を二度も蹴りやがって!」
 憤怒の形相で紺空を睨みつけるシーゲン。
「なら次は殴り飛ばしてやるよ」
 並の人間なら腰を抜かし、気絶するほどの気迫を受けても紺空は変わら無い態度で向かいあう。
「殺す!」
 両手の爪で何度も斬りかかるが、紺空の髪や服に傷をつけるだけで身体自体には当たっていない。
「その程度か」
「殺すぅ!」
 どこからか集まった水がシーゲンの両手に集まり、三本爪の形になる。
「死ねやぁ!」
 そのまま紺空に目掛けて両手で振り下ろす。地面に亀裂が入るほどの衝撃に、見ていた観夜火は手で防ぐ。
「ザマァみろ! 俺様相手に喧嘩を売ったのが」
「負けてねぇよ」
 夏の空色のように深く濃い青色。紺碧の炎が所々から吹き出す龍の手を思わせる鎧を纏った右手だけで紺空は今の一撃を防いだ。
「はあぁぁぁ!?」
「起きるのが遅ぇよ」
「我がおらんと何もできんか」
「お前が全ての原因だろうが!」
 相棒への言葉の勢いのままに、受けていた両手を振り払う。
「しまっ、」
 狙うは空いた胴体のど真ん中。そこへ、炎と力を右手に集中して放つ。
「沈めや蜥蜴」
「頭が高い」

 紺碧の深炎ディープ=ブルー

 目も眩む青色の閃光と共に打ち出された拳。
 その一撃で蜥蜴は空を舞い、意識をなくした。



「起床している時はうるさいと文句を言う割にこのざまか」
「お前が寝坊したから遅刻したんだろうが」
 あの後、紺空の一撃によって吹っ飛ばされたシーゲンは元の警察官である厳正となって伸びていた。
「たかがシーリザードの一匹、貴様だけで倒せ」
「こっちはたかが人間なんだよクソドラゴン」
 気絶している厳正を着ていた制服で縛りながら、軽口を叩く紺空。その近くにはバスケットバールほどの青い火の玉が浮いている。火の玉はドラゴンの頭をしており、紺空と話をしている。
「それよりこいつ食ったのか。お前にマナ持ってかれてしょっちゅう腹へるんだよ」
「こんな雑魚を食ったところで腹の足しにもならん」
「食べろや」
「断る」
 睨み合う一人と一匹。そんな二人に観夜火が声をかけた。
「仲良いね」
「「どこが」」
 同時に振り返り、同時に同じ言葉を使う二人を見て観夜火は目でその辺りがと答える。
「こんなプライドと胃袋がでかいだけの奴なんぞ野垂れ死ねば良い」
「この程度の器も図体も小さきものが我と? 冗談も程々にせよ」
 再び睨み合う紺空とアジュール。いつまでも続けそうな雰囲気を観夜火は察した。
「……アジュール、紺空の負担になるし食べて」
「……」
 観夜火の言葉に渋々といった動きで厳正の首元にかぶりつき通り抜ける。
「……普段の食事よりはマシといったところか」
「追い出すぞテメェ」
 再び言い争いを始めた二人。やっぱり仲がいいなぁ、と考えながら観夜火はのんびりと二人を眺めていた。
 月の出る夜中の出来事。
 こうして町に出る大蜥蜴はいなくなり、噂もやがて風化した。その出来事に三人が関わったことは知る人ぞ知る。
 この後長引いた口喧嘩のせいで、パトカーの鳴らすサイレンが聞こえると慌てて逃げ帰ったのは全くの蛇足だ。
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