たらい回し

ツヨシ

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アパートの部屋に帰ると、郵便受けになにかはいっていた。
見ればクローゼットを正面からとらえた写真だ。
おまけにクローゼットは開いており、中に青白い女の顔が浮かんでいるのだ。
顔だけで、身体はなかった。
――なんだこりゃあ。
俺は写真を見直した。
クローゼットは俺の部屋にある者と同じだ。
というか、このアパートにはみな同じクロ―ゼットがあるはずなのだ。
そしてクローゼットの隣に、スールケースの一部と思われるものが写っている。
しかし俺は、こんなスーツケースは持っていない。
クローゼットの中にある衣類もまるで違う。
そうなるとこの写真はこのアパートのどこかの部屋を写したものと言うことになる。
問題は、誰が何のためにこんな写真を俺の部屋の郵便受けに入れたかだ。
そしてそれ以上に問題なのは、写真に写っている、この首だけの女だ。
俺はしばらく写真を眺めていたが、ふと気になって、クローゼットを開けてみた。
するとそこにいた。
クローゼットの中に写真と同じ青白い顔の女の首が浮かんでいたのだ。
そして俺を見た。
――うわっ!
俺は慌てて部屋を飛び出した。
――いったいこれは……。
俺は考えた。
動揺して回らない頭で考えて考えた。
考えた末に俺はその写真を隣の部屋の郵便受けに突っ込んだ。
そして部屋に戻ると、クローゼットの中に女の首はなかった。
――そうなると……。
隣の部屋には若い女が住んでいる。
そして今日のような休みの日には、だいたい部屋にこもっているのだ。
俺は待った。
ただじっと。
そして予想通りのことが起こった。
「ぎゃあああーーーーっ」
かん高い悲鳴とともに、隣の部屋の女が勢いよくドアを開けて外に飛び出す音が聞こえた。

それから十日ほど経った頃、気づけば俺の部屋の郵便受けに、あの写真が入っていた。
この十日間に、どれだけの部屋をまわってきたのかはわからないが、俺の郵便受けに再び入れられたのだ。
俺はそれをそのまま、二つ隣の部屋の郵便受けに押し込んだ。


       終
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