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そのうちの十本ほどが地に着いて、その身体を支えていた。

残りはふらふらと宙を漂っていた。

足の先は全て針のように尖っており、これが木藤の身体を貫いたのだ。

そいつの全体的な印象は、蜘蛛だった。

芋虫の次に蜘蛛の化け物が現れたのだ。

そして胴体の正面に、そいつがまたいた。

芋虫の触手の先についていたのと同じ、白く幼い少女の首が。

その表情が全て欠落した顔は、じっと岩崎を見ていた。

――!!

岩崎は逃げ出そうとした。

しかし少女の首に見つめられているせいなのか、激しく湧き上がる恐怖のために足が硬直し、その場を動くことが出来なかった。

すると声がした。

「あらあらあら。私の可愛い赤ちゃん。一人殺しちゃったのね。ほんと、ひどいことするわね、あなた」

それは神城の声だった。

やがてライトの光りの中に、声の主が姿を現した。

「こっ、これが……赤ちゃん?」

「そうよ。二人とも私の正真正銘の赤ちゃんよ。でも一人死んじゃったけどね」

「……」

「まったく、こんなことになるなんて。まるで想像していなかったわ。あの人もそうだったみたいね。珍しく姿を見せたわ」

「あの人……とは?」

「あなた、何言っているの。ほんと、ぼけてんじゃないの。そんなの決まっているじゃないの。この子たちの父親よ。他に誰がいるって言うのよ」

神城は後方を潤んだ目で見上げていた。

岩崎は振り返った。

死んだ化け物の後ろ、山を背にしてそいつがそこに立っていた。

そいつは黒かった。

黒くて立体感と言うものがまるでなく、影のよう、と言うよりも影そのものに見えた。

基本的には人型だが、人としては不自然なほどに身体が丸みを帯びている。

首がなく、頭部が肩にめり込んでおり、幅広の上半身と比べると下半身がやけに細い。

そしてなによりも異様なのは、そいつの大きさだった。

少しはなれたところにいるのに、それでも見上げなければならない。

足元に横たわる芋虫の化け物と比べても話にならないくらいに大きいその身長は、百メートルどころの騒ぎではない。

もっともっとある。

そんな巨人が今、岩崎の目の前に存在しているのだ。
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