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それにしてもやけに目つきの鋭い男だ。

あまりにも威圧感がありすぎる。

自分がやりたいことは、なにがなんでもやって成し遂げるタイプの男に、岩崎には見えた。

「私は木藤といいます。岩崎さんですね」

「そうですが」

「私のことはご存知ですよね」

「ええ、知っています」

「まあ何度もテレビに出てしまいましたからね。岩崎さんほどではないですが、一応有名人ですから」

木藤は岩崎の顔をじっと見つめると、言った。

「本題に入ります。あなたは恋人を、私はかけがえのない愛犬を奪われました。あの怪物によって」

――怪物?

岩崎は犯人のことをずっと考え続けて、その正体についてもいくつも思い浮かべてきたが、少なくともあれを怪物などという非現実的なものと考えたことは、ただの一度もなかった。

岩崎の表情を探るように見ていた木藤が言った。

「ええ、怪物。化け物ですよ、あれは。あなたがどうお考えになっているのかは知りませんが、私は怪物だと確信していますね」

「……」

「で、お互いに大事なものを奪われた者どうしと言うことで、挨拶にうかがったわけですね」

「そうですか」

「北山さんと一緒に山に入っていますね」

「ええ。でもどうしてそれをご存知なのですか?」

「わたしもあなたがたと同じ想いを持っていますからね。それぐらいはわかりますよ。私も山に入って、あいつを探していますからね」

「そうだったんですか」

「ええ、そうですよ」

「それではこれからは、三人で一緒に探しましょう、というわけですか?」

「いえ、三人で一箇所を探すよりも、三人で二箇所を探した方が、効率がいいと思いますよ。ですから私は、これからも一人で捜索を続けます。幸いにも昔仕事上の付き合いで、半ば無理やり猟友会のメンバーにされたことがありましたが、そのおかげで今ではその他大勢の一人として紛れ込んで、あいつを探していますね」
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