おい

ツヨシ

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バードウォッチングに行った。
近くの山にだ。
やがて日も暮れかけて、そろそろ帰ろうとしていた時のことだ。
「おい、たけひこ」
と声がした。
すぐ近くで聞こえたのだが、いくら見渡しても周りには誰一人いない。
たけひことか言っていたが、俺の名前はたけひこなどではない。
――なんだ、今の声は。
気になったが、それから声はしない。
気のせいだと思って、俺はそのまま山を降りた。

山に行った翌日、もう寝ようと思っていた時、また声がした。
「おい、ひさし」
昨日山で聞いた声だった。
――ひえっ!
すぐ近くで声がしたが、俺の住んでいるワンルームのマンションには、今は俺しかいない。
外から聞こえたようにも思えず、姿は見えないが、どう考えても声の主はこの部屋にいるのだ。
ちなみに俺の名前はひさしではない。
こいつ、山から俺についてきたのか。
そう思った。
そうとしか考えられない。

そしてその次の日、夜にまた声がした。
「おい、けんいち」
同じ声だ。
やはりこいつは山からついてきたんだ。
でも俺の名前はけんいちではないのだが。

あれから一か月、毎晩姿なき声に毎回違う名前で呼ばれ続けている。
そしてどの名前も俺の名前ではない。
これははたしていつまで続くのか。
それよりも、声が俺の本当の名前を呼んだ時、その時いったい何が起きるというのか。

       終
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