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みまも同様に陽介とさやかを見ていたが、頭の中は化け物のことでいっぱいだった。
座り込むさやか、なだめる陽介。
そして黙って見ている二人。
山の中に陽介の声だけが聞こえてくる。
その時だった。
陽介以外の声がした。
「おやおや、なんだか騒がしいと思ったら、新しいお客さんが来ていたのね。それも団体さんで」
見ればそこにいたのは二十代前半に見える女性。
一瞬、ここの住人かと思ったが、その顔にはその目には、十分すぎるほどの生気が宿っていた。
女が四人をゆっくりと順番に見ながら近づいてきて、言った。
「こんな異常で忌まわしい村にようこそ。かな? 私ははるみよ。あなたたちは?」
四人は女とお互いの顔を見た。
しかしみなが黙っていた。
なにをどう言っていいのかわからなかったからだ。
このあまりにも意外過ぎる展開に。
すると女がその空気を感じたかのように言った。
「あなたたちも外からやって来たのね。あれでしょう。通行止めの看板を無視して来たんでしょう」
その言葉に、みまが反応した。
「そうなんです。陽介が勝手に通行止めの看板を無視したばかりに、こんなところに来てしまって」
陽介がなにか言いかけたが、やめた。
それを見てはるみが言った。
「そうなの。その方ね。通行止めの看板を無視して村に入ってきたのは。私の彼氏と全くいっしょね。彼氏と言っても、付き合ってみたら思った以上にバカで子供だったから、もう別れようと思っていたんだけど、別れるのが少しだけ遅かったみたいね。残念なことに。あのバカのおかげで、こんなところに取り残されてしまったんだから。ああいうやからは人がやらないことをやって自分を誇示したいのね。俺ってすげえだろう、おもしろいだろう、ってね。でもはたから見たら、ただのバカなガキだわ。どこかのバカッターと同じ。ほんと幼稚でしょうもないわね」
はるみの予想以上の言いたい放題に、陽介は顔を真っ赤にしていたが、何も言わなかった。
正也は思った。
おそらくバカな彼氏のおかげでこんなところに閉じ込められてストレスが溜まっているところに、彼氏と同じことをした陽介に会ったので、これまでの不満が爆発したのだろうと。
はるみが続ける。
「もちろん、こんな事態になったから、彼に対しては怒りしかないわ。そしてここにいる陽介さんとやらが、彼氏と同じことをしたのね。みんなご愁傷様だわ」
「おい、おまえ、ちょっといいかげんに」
さすがに陽介が何か言おうとしたが、正也とみまが止めた。
陽介は顔全体で不満をあらわにしていたが、とりあえずは大人しくなった。
さやかはずっとそれらを間の抜けた顔で、ただ見ているだけだ。
もう一度はるみが四人を見わたしていると、みまが言った。
「はるみさん、とにかく私たちは昨日ここに来たばかりで、ここがどこなのか、いったいなにがどうなっているのか、さっぱりなんです。お願いですから、はるみさんが知っていることを教えてくれませんか」
はるみが答える。
「わかったわ。困ったときはお互い様よね。まずこの村の名前なんだけど、この村は〇×村よ」
同じだ。
正也は思った。
村人と同じくなにを言ったのかはっきりと聞こえているのだが、村の名前は何と言ったのかわからない。
村人ではなく、自分たちと同じく外から来たはるみが言ったにもかかわらず。
みなで顔を見合わせていると、はるみが言った。
「村の名前がはっきりと聞こえているはずなのに、なぜかわからないのね。私の彼氏と同じだわ。彼氏もそうだったのよ。私はもともとこの村を知っていたから、当然名前もわかるんだけど、知らない人にそれを伝えようとすると、何度言っても伝わらないのね。口に出してはならない、禁断の名前といったところなのかしら。ここにはとても異様な力が働いているみたいだし。それも大きな力がね」
そこで正也が聞いた。
「ところで、話に出てる彼氏さんと言うのは、今どこにいるんですか?」
「喰われたわ」
「えっ?」
「あなたたち見なかった。縦に大きな目と大きな口をもち、手足の細い腹が膨れた、大きな化け物を」
「……」
「……」
「……」
「……」
「その反応は見たようね。化け物を。そう、彼氏はあれに喰われてしまったのよ」
みながあっけにとられた。
四人ではるみを見ていると、はるみが言った。
「ここは木が少ないわね。暑いわ。もっと涼しい場所に移動して話さない」
五人でさらに山の中に入った。
大きな木の陰に着くと、はるみが座るように言ったので、全員で影に座った。
はるみも座り、言った。
「聞きたいことはいくらでも聞いて。答えられることは答えるわ」
さやかがヒステリックに言った。
「あの化け物、人間を食べるの!」
はるみが答える。
「喰うわよ。現に私のバカ彼氏、喰われたんだから。あの大きな口でね」
みまが言う。
「それじゃあ私たちも喰われるのかしら」
「それは運しだいね」
「えっ、運?」
「あの化け物は突然現れる。そして現れた場所からはほとんど動かないのよ。そして消える。少し離れた場所に現れたら、逃げる必要もないくらい。しかしいつどこに現れるかわからないわ。さっき言った通り、まさに一瞬で現れるから。彼氏が喰われた時は、いきなり目の前に現れたのよ。私は逃げたけど、彼氏は捕まって喰われてしまったのよ。頭からガブリとね。あっという間だったわ」
さやかがそれを聞いて、思わず腰浮かした。
それを見てはるみが言った。
「まさか逃げるつもりなの。言ったばかりでしょ。いつどこに現れるかはわからないって。この村、そして山の中。どこにでも現れるわ。そして私たちはここから出られない。ここなら安全って場所は、どこにもないのよ。どこにいてもあいつに喰われる確率は、そう変わらないわ。逃げられる場所なんてないわね。だから運次第なのよ。近くに現れたら、死に物狂いで逃げるだけ。それしかないわ。捕まったら、運が悪かったとあきらめることね」
正也が聞いた。
「あの化け物はなんなんですか。そしてこの村は、一体なんですか。知っていたらなんでもいいですから教えてください」
座り込むさやか、なだめる陽介。
そして黙って見ている二人。
山の中に陽介の声だけが聞こえてくる。
その時だった。
陽介以外の声がした。
「おやおや、なんだか騒がしいと思ったら、新しいお客さんが来ていたのね。それも団体さんで」
見ればそこにいたのは二十代前半に見える女性。
一瞬、ここの住人かと思ったが、その顔にはその目には、十分すぎるほどの生気が宿っていた。
女が四人をゆっくりと順番に見ながら近づいてきて、言った。
「こんな異常で忌まわしい村にようこそ。かな? 私ははるみよ。あなたたちは?」
四人は女とお互いの顔を見た。
しかしみなが黙っていた。
なにをどう言っていいのかわからなかったからだ。
このあまりにも意外過ぎる展開に。
すると女がその空気を感じたかのように言った。
「あなたたちも外からやって来たのね。あれでしょう。通行止めの看板を無視して来たんでしょう」
その言葉に、みまが反応した。
「そうなんです。陽介が勝手に通行止めの看板を無視したばかりに、こんなところに来てしまって」
陽介がなにか言いかけたが、やめた。
それを見てはるみが言った。
「そうなの。その方ね。通行止めの看板を無視して村に入ってきたのは。私の彼氏と全くいっしょね。彼氏と言っても、付き合ってみたら思った以上にバカで子供だったから、もう別れようと思っていたんだけど、別れるのが少しだけ遅かったみたいね。残念なことに。あのバカのおかげで、こんなところに取り残されてしまったんだから。ああいうやからは人がやらないことをやって自分を誇示したいのね。俺ってすげえだろう、おもしろいだろう、ってね。でもはたから見たら、ただのバカなガキだわ。どこかのバカッターと同じ。ほんと幼稚でしょうもないわね」
はるみの予想以上の言いたい放題に、陽介は顔を真っ赤にしていたが、何も言わなかった。
正也は思った。
おそらくバカな彼氏のおかげでこんなところに閉じ込められてストレスが溜まっているところに、彼氏と同じことをした陽介に会ったので、これまでの不満が爆発したのだろうと。
はるみが続ける。
「もちろん、こんな事態になったから、彼に対しては怒りしかないわ。そしてここにいる陽介さんとやらが、彼氏と同じことをしたのね。みんなご愁傷様だわ」
「おい、おまえ、ちょっといいかげんに」
さすがに陽介が何か言おうとしたが、正也とみまが止めた。
陽介は顔全体で不満をあらわにしていたが、とりあえずは大人しくなった。
さやかはずっとそれらを間の抜けた顔で、ただ見ているだけだ。
もう一度はるみが四人を見わたしていると、みまが言った。
「はるみさん、とにかく私たちは昨日ここに来たばかりで、ここがどこなのか、いったいなにがどうなっているのか、さっぱりなんです。お願いですから、はるみさんが知っていることを教えてくれませんか」
はるみが答える。
「わかったわ。困ったときはお互い様よね。まずこの村の名前なんだけど、この村は〇×村よ」
同じだ。
正也は思った。
村人と同じくなにを言ったのかはっきりと聞こえているのだが、村の名前は何と言ったのかわからない。
村人ではなく、自分たちと同じく外から来たはるみが言ったにもかかわらず。
みなで顔を見合わせていると、はるみが言った。
「村の名前がはっきりと聞こえているはずなのに、なぜかわからないのね。私の彼氏と同じだわ。彼氏もそうだったのよ。私はもともとこの村を知っていたから、当然名前もわかるんだけど、知らない人にそれを伝えようとすると、何度言っても伝わらないのね。口に出してはならない、禁断の名前といったところなのかしら。ここにはとても異様な力が働いているみたいだし。それも大きな力がね」
そこで正也が聞いた。
「ところで、話に出てる彼氏さんと言うのは、今どこにいるんですか?」
「喰われたわ」
「えっ?」
「あなたたち見なかった。縦に大きな目と大きな口をもち、手足の細い腹が膨れた、大きな化け物を」
「……」
「……」
「……」
「……」
「その反応は見たようね。化け物を。そう、彼氏はあれに喰われてしまったのよ」
みながあっけにとられた。
四人ではるみを見ていると、はるみが言った。
「ここは木が少ないわね。暑いわ。もっと涼しい場所に移動して話さない」
五人でさらに山の中に入った。
大きな木の陰に着くと、はるみが座るように言ったので、全員で影に座った。
はるみも座り、言った。
「聞きたいことはいくらでも聞いて。答えられることは答えるわ」
さやかがヒステリックに言った。
「あの化け物、人間を食べるの!」
はるみが答える。
「喰うわよ。現に私のバカ彼氏、喰われたんだから。あの大きな口でね」
みまが言う。
「それじゃあ私たちも喰われるのかしら」
「それは運しだいね」
「えっ、運?」
「あの化け物は突然現れる。そして現れた場所からはほとんど動かないのよ。そして消える。少し離れた場所に現れたら、逃げる必要もないくらい。しかしいつどこに現れるかわからないわ。さっき言った通り、まさに一瞬で現れるから。彼氏が喰われた時は、いきなり目の前に現れたのよ。私は逃げたけど、彼氏は捕まって喰われてしまったのよ。頭からガブリとね。あっという間だったわ」
さやかがそれを聞いて、思わず腰浮かした。
それを見てはるみが言った。
「まさか逃げるつもりなの。言ったばかりでしょ。いつどこに現れるかはわからないって。この村、そして山の中。どこにでも現れるわ。そして私たちはここから出られない。ここなら安全って場所は、どこにもないのよ。どこにいてもあいつに喰われる確率は、そう変わらないわ。逃げられる場所なんてないわね。だから運次第なのよ。近くに現れたら、死に物狂いで逃げるだけ。それしかないわ。捕まったら、運が悪かったとあきらめることね」
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