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「決まってるじゃない。探すのよ。この忌まわしい村から出る方法を」
「探すって、そんなもんあるのかよ」
「あるかどうかなんて私にもわからないわ。でもないと決まったわけではない以上、探す以外の道はないわね。私は出るけど、残りたい人がいるなら、残っててもいいわよ。別に強制はしないから」
「出るのはめんどくさいぜ。疲れるし」
「あっ、そう。例えば出る方法が突然見つかったりしたら、考える間もなくいきなりこの村を出られたりしたら、あなただけそんなことも知らないまま、一人でこの村に残ることになるけど。そうなったら誰もここには帰ってこないわよ。それでもいいのね。わかったわ。だったらそうしなさい。私は止めないわよ」
陽介が勢いよく立ち上がった。
黙って聞いていたさやかも、普段見ないような機敏な動きで立ち上がる。
「あとの二人はもちろん来るわね。ではそろそろ行きましょうか」
はるみを先頭に、五人で洞窟を出た。
洞窟を出て調べると言っても、なにかあてがあるわけではない。
そんなものは一つもない。
正也たち五人もそうだし、地元でこの村のことをよく知っているはるみもそうだ。
でもじっとしているだけでは、事態はまるで変わらない。
はるみの提案で、川の中を捜索することになった。
この川が小さいダムを崩壊させ村を滅ぼした水を運び、今現実世界にある大きなダムの、村を水の底に沈めたダムの元になっているのだ。
水。
村人の悲劇の全てであり、正也たち五人の苦悩の元となっているものだ。
それが川の水だ。
川に入るのは危険だと言う考えがあったのだが、今や多少の危険などかまっている場合ではないという思考にみなが変わっていた。
「やだ、濡れちゃうじゃないの」
「この村にずっといることよりも、あの化け物に喰われることよりも、濡れる方が嫌だって言うのね、あなたは」
幼児のようにぐずるさやかに、はるみが言った。
頼りにならない一人の女がいる代わりに、頼りになる二人の女がいることは、本当にありがたいことだと正也は思った。
五人でとにかく川の中に入る。
はるみにそう言われたばっかりにもかかわらず、さやかはぐちぐち言いながら、川からすぐに上がってしまった。
でも間もなく、素っとん狂な声を出した。
「えっ、服がもう乾いてる」
さやかが履いていたジーパン。
それが太もも辺りまで濡れていたはずなのだが、川から上がってものの数秒でそれが乾いてしまったのだ。
「泥とかもついていたのに、それもすっかりなくなっているわ」
はるみが言う。
「やはりここはいろいろと時間の流れとか、おかしいみたいね。でもよかったじゃない。濡れるの嫌がっていたから。すぐ乾くんなら、これはもう濡れ放題よね」
「……」
さやかははるみを一睨みすると、再び川に入った。
正也も川にはいってはいたが、闇雲に歩いて川底を見つめるだけだ。
水は冷たい。
もうすぐ初夏のはずなのに。
この村は季節さえも狂っていると言うのか。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
川の水はおそらくこの村では大事なキーポイントなのだから。
正也の前には陽介がいた。
陽介は正也の前を歩いていたのだ。
正也と同じくひざ下まで水につかりながら。
まるでやる気のない目で川を見つめていた。
しかしドボンと言う音とともに、その姿が一瞬で消えた。
――えっ?
見れば大きな水しぶきが上がっている。
「ぶはっ」
正也が陽介が消えたあたりを見ていると、少し離れたところの水中から陽介が姿を現した。
最初は頭しか出ていなかったが、一歩歩くごとに陽介の体全体が見えるようになっていった。
はるみが気付いて言った。
「この川、とつぜん深くなっているところがいくつもあるから、気をつけた方がいいわよ」
「そうなら、先に言えよ」
「あら、言ったじゃない。彼氏の車が川の中に沈んでいるって。車が見えなくなるほど深い場所が、この川にはいくつもあるのよ。それ以外はほとんどひざ下くらいだと言うのに。こんな地形の川、聞いたことがないわね。ほんとここはいろいろといびつと言うか、おかしなところだらけだわ」
「まったく。元水泳部でなかったら、おぼれていたかもしれないぜ。化け物に喰われる前に溺死するなんて、ほんとごめんだぜ」
そういえば陽介は、中学高校時代は水泳部だと言っていたことを、正也は思い出した。
今は大学の講義でさえさぼりまくっている帰宅部で、元運動部だった面影はかけらもなくなっているが。
それにしても陽介の言い分は、溺れるくらいなら化け物に喰われてしまってもいいと言っているようにも聞こえるのだが、本人はそれには気づいてはいないようだ。
もちろんそれに対するつっこみを、正也が入れることはなかった。
「とにかく、本当に危ないからみんな一歩ずつ気をつけて歩いてね」
はるみが言った。
正也は、この幻の川で、実在しない川で人が溺れ死んだりするものだろうかとも考えたが、はるみや住職が言う話では、村人が作り出したある意味幻と言っていい化け物に、人が喰われているのだ。
それを考えればこの川も、気をつけるに越したことはないと正也は思った。
五人で黙々と川の中を歩き回り、なにかないかと探し回った。
途中、明らかに深い穴を正也は見つけた。
もしかして穴の中には何かあるかもしれないとも思ったが、やはり危険と判断して入るのはやめておいた。
それにしても山の中を流れているにしては大きな川だが、ほとんどがひざ下くらいの深さしかないこの川に、そんな大きな穴がいくつもあるなんて、やはりここの空間は、はるみの言う通りにどこか歪んでいるのだろうと正也ほ思った。
そんな中に今自分は閉じ込められているのだ。
これこそまさに悪夢だ。
「探すって、そんなもんあるのかよ」
「あるかどうかなんて私にもわからないわ。でもないと決まったわけではない以上、探す以外の道はないわね。私は出るけど、残りたい人がいるなら、残っててもいいわよ。別に強制はしないから」
「出るのはめんどくさいぜ。疲れるし」
「あっ、そう。例えば出る方法が突然見つかったりしたら、考える間もなくいきなりこの村を出られたりしたら、あなただけそんなことも知らないまま、一人でこの村に残ることになるけど。そうなったら誰もここには帰ってこないわよ。それでもいいのね。わかったわ。だったらそうしなさい。私は止めないわよ」
陽介が勢いよく立ち上がった。
黙って聞いていたさやかも、普段見ないような機敏な動きで立ち上がる。
「あとの二人はもちろん来るわね。ではそろそろ行きましょうか」
はるみを先頭に、五人で洞窟を出た。
洞窟を出て調べると言っても、なにかあてがあるわけではない。
そんなものは一つもない。
正也たち五人もそうだし、地元でこの村のことをよく知っているはるみもそうだ。
でもじっとしているだけでは、事態はまるで変わらない。
はるみの提案で、川の中を捜索することになった。
この川が小さいダムを崩壊させ村を滅ぼした水を運び、今現実世界にある大きなダムの、村を水の底に沈めたダムの元になっているのだ。
水。
村人の悲劇の全てであり、正也たち五人の苦悩の元となっているものだ。
それが川の水だ。
川に入るのは危険だと言う考えがあったのだが、今や多少の危険などかまっている場合ではないという思考にみなが変わっていた。
「やだ、濡れちゃうじゃないの」
「この村にずっといることよりも、あの化け物に喰われることよりも、濡れる方が嫌だって言うのね、あなたは」
幼児のようにぐずるさやかに、はるみが言った。
頼りにならない一人の女がいる代わりに、頼りになる二人の女がいることは、本当にありがたいことだと正也は思った。
五人でとにかく川の中に入る。
はるみにそう言われたばっかりにもかかわらず、さやかはぐちぐち言いながら、川からすぐに上がってしまった。
でも間もなく、素っとん狂な声を出した。
「えっ、服がもう乾いてる」
さやかが履いていたジーパン。
それが太もも辺りまで濡れていたはずなのだが、川から上がってものの数秒でそれが乾いてしまったのだ。
「泥とかもついていたのに、それもすっかりなくなっているわ」
はるみが言う。
「やはりここはいろいろと時間の流れとか、おかしいみたいね。でもよかったじゃない。濡れるの嫌がっていたから。すぐ乾くんなら、これはもう濡れ放題よね」
「……」
さやかははるみを一睨みすると、再び川に入った。
正也も川にはいってはいたが、闇雲に歩いて川底を見つめるだけだ。
水は冷たい。
もうすぐ初夏のはずなのに。
この村は季節さえも狂っていると言うのか。
しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
川の水はおそらくこの村では大事なキーポイントなのだから。
正也の前には陽介がいた。
陽介は正也の前を歩いていたのだ。
正也と同じくひざ下まで水につかりながら。
まるでやる気のない目で川を見つめていた。
しかしドボンと言う音とともに、その姿が一瞬で消えた。
――えっ?
見れば大きな水しぶきが上がっている。
「ぶはっ」
正也が陽介が消えたあたりを見ていると、少し離れたところの水中から陽介が姿を現した。
最初は頭しか出ていなかったが、一歩歩くごとに陽介の体全体が見えるようになっていった。
はるみが気付いて言った。
「この川、とつぜん深くなっているところがいくつもあるから、気をつけた方がいいわよ」
「そうなら、先に言えよ」
「あら、言ったじゃない。彼氏の車が川の中に沈んでいるって。車が見えなくなるほど深い場所が、この川にはいくつもあるのよ。それ以外はほとんどひざ下くらいだと言うのに。こんな地形の川、聞いたことがないわね。ほんとここはいろいろといびつと言うか、おかしなところだらけだわ」
「まったく。元水泳部でなかったら、おぼれていたかもしれないぜ。化け物に喰われる前に溺死するなんて、ほんとごめんだぜ」
そういえば陽介は、中学高校時代は水泳部だと言っていたことを、正也は思い出した。
今は大学の講義でさえさぼりまくっている帰宅部で、元運動部だった面影はかけらもなくなっているが。
それにしても陽介の言い分は、溺れるくらいなら化け物に喰われてしまってもいいと言っているようにも聞こえるのだが、本人はそれには気づいてはいないようだ。
もちろんそれに対するつっこみを、正也が入れることはなかった。
「とにかく、本当に危ないからみんな一歩ずつ気をつけて歩いてね」
はるみが言った。
正也は、この幻の川で、実在しない川で人が溺れ死んだりするものだろうかとも考えたが、はるみや住職が言う話では、村人が作り出したある意味幻と言っていい化け物に、人が喰われているのだ。
それを考えればこの川も、気をつけるに越したことはないと正也は思った。
五人で黙々と川の中を歩き回り、なにかないかと探し回った。
途中、明らかに深い穴を正也は見つけた。
もしかして穴の中には何かあるかもしれないとも思ったが、やはり危険と判断して入るのはやめておいた。
それにしても山の中を流れているにしては大きな川だが、ほとんどがひざ下くらいの深さしかないこの川に、そんな大きな穴がいくつもあるなんて、やはりここの空間は、はるみの言う通りにどこか歪んでいるのだろうと正也ほ思った。
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