寺院墓地

ツヨシ

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お盆には毎年親族のお墓参りに行っていたのだが、ある年叔父が「今年は久しぶりに分家の墓に行こう」と言い出した。
そして俺と父と叔父が分家の墓に、叔母と母と妹が本家の墓に行くことになった。
俺は分家の墓があることは知っていたが、二十歳になる今日まで行ったことがなかった。

叔父の運転で行った先は、小さなお寺だった。
見てみると本堂も境内もけっこう荒れている。
廃寺かとも思ったが、叔父と父がどんどん歩いていくので、俺もついて行った。
そして境内の一番奥にそれはあった。

塀の前にお地蔵様が数体並び、その先に墓石が三つほど地面に直接置かれてある。
左右の墓はこちらを向いていたが、真ん中の墓はなぜか反対の塀の方を向いていた。
俺は叔父に聞いた。
「なんでこの墓は塀の方を向いているんだ?」
「いろいろあってな」
叔父はそれだけ答えた。

分家の墓は、真ん中にある墓だった。
左右の墓はうちとは全く関係がないようだ。
塀との狭い隙間に男三人が入り込み、お墓の掃除を始めた。

その時である。
女の甲高い笑い声が聞こえてきたのだ。
ひっひっひっ、と不気味に笑うその声は、どう聞いてもすぐそばから聞こえてくるのに、周りを見渡しても男三人以外誰一人として見当たらない。
そんな俺を見て父が声をかけてきた。
「どうした?」
「女の笑い声が聞こえる」
父と叔父は顔を見合わせ、叔父が慌てたようにどこかに電話をした。
父が「待ってろ」と言うので待っていると、しばらくして軽自動車が境内に入って来て、お坊さんが降りてきた。

それから俺は本堂の中に入るよう促され、そこでお坊さんが念仏を唱えたり、私を木の棒で叩いたり、煙を浴びせたりした。
けっこうな時間が過ぎた頃、お坊さんが言った。
「なんとかなりました」
父と叔父が礼を言い、俺も言った。
そしてお墓参りも投げ出して、そのまま帰ることになった。

帰りの車の中で俺は叔父に聞いた。
「さっきはなんだったんだ。お坊さんにお払いされたみたいだったが」
「あれはご先祖様だ。しかもよくないものだ」
「ご先祖様なのに、よくないものなのか?」
「ご先祖様もいろいろいるのさ。いろいろな。それにしてもあれは、女にしか憑かないといわれていたのになあ」
叔父はそれ以上何も言わなかった。
俺と父も何も言わなかった。

その後も父と叔父が分家の墓参りに行くことがあったが、俺が行くことは二度となかった。


       終
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