山の一本道

ツヨシ

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道に迷った。
しかも山道で。
この山道はそんなに長くはない。
しばらくすれば市街地に出られるはずだ。
何度も通ったことがある。
しかも分かれ道のない一本道。
迷いようがないはずなのだが、先ほどからいくら走っても一向に市街地に出ないのだ。
――いったいどうなってるんだ?
考えたがわからないし停まるわけにもいかない。
そして少し直線で先がカーブになっているところで、目の前の森に何かが浮かんでいるのが見えた。
よく見ればそれは青いワンピースの長い黒髪の女だった。
――えっ?
と思ったが、カーブにさしかかり女は見えなくなった。
――何だったんだいまのは?
考えた俺は気づいてしまった。
宙に浮かんだ女。
それは首を吊った女だ。
見た感じではそうとしか思えない。
細い山道だというのに、車のスピードが自然と上がった。
そして先ほどと似たような短い直線の先にカーブがあるところで、俺は再び青いワンピースで長い黒髪の女が浮かんでいるのを見た。
――ひえっ!
車のスピードがさらに上がる。
そしてしばらく走ると、前と同じような道で、三度浮かぶ青いワンピースの女を見た。
――!!
もう何が何だかわからない。
俺は狂ったように車を走らせた。
そして気づけば見慣れた市街地に出ていた。
あれはいったい何だったのか。
わからない。
ただ言えることは、少し近道だからといって、俺があの山道を走ることは二度とないだろうと言うことだ。

       終
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