手術室

ツヨシ

文字の大きさ
1 / 1

しおりを挟む
家の近くに廃墟となった病院があった。
小さな総合病院くらいの規模で、いつしか幽霊が出ると噂が立った。
だがまわりが住宅地で、心霊スポットめぐりの輩に対して苦情が出ていたために、僕は小さい頃から親に「あそこに近づくな」と言われていた。

ところがある日、同じクラスのひろ君が「昼間にこっそり行けばいいんじゃないの」と言い出した。
僕も興味がなかったわけではないので、ひろ君の意見に乗って、日曜の昼間に廃病院に二人で行くことにした。
その日、病院近くで待ち合わせをして、病院に向かった。
そして中に入った。
廊下は窓がないが、病室などは窓があって入り口が全て開いていたために、思っていたよりも明るかった。
中はほこりまみれで、ひどく湿気ていた。
なんともいえない変な臭いが充満している。
聞こえてくるのは僕とひろ君の足音だけだ。
そのまま進むと突き当たりの部屋に着いた。
そこだけ扉が閉まっている。
観音開きで、今までのどの扉よりも大きな扉だ。
ひろ君が迷わず戸を開け中に入り、僕も続いた。
そこはどう見ても手術室だった。
中央に手術台があり、上には大きなライトがある。
手術台に近くに、見たことがあるようなないような機械がいくつかあった。
手術台には白いシーツがかけられてあったが、そのシーツの中央付近が何かで染まっている。
――なんだ、あれは?
二人で近づき、同時に気付いた。
赤い液体。
どう見ても大量の血だ。
それもついさっき流れ出たばかりの。
――!
あまりのことに身動きできずにいると、聞こえてきた。
すぐそばから、はっきりと。
「痛い痛い痛い痛い!」
子供の声だった。
女の子の。
しかしここには僕とひろ君しかいない。
「うわっ!」
ひろ君が走り出した。
僕もつられて走り出す。
そして病院を出て、家に着くまで走り続けた。

あれから何年もたつ。
廃病院は取り壊されることなく、いまでもある。
しかし僕はあれ以来、あの病院には一度も行っていない。

       終
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

月夜
2020.10.15 月夜

一体どんな手術がが行われていたんでしょうね。恐ろしい想像が膨らみます。

2020.10.15 ツヨシ

それは想像におまかせします。感想ありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

合宿先での恐怖体験

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

怪談実話 その1

紫苑
ホラー
本当にあった話のショートショートです…

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。