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家の近くに廃墟となった病院があった。
小さな総合病院くらいの規模で、いつしか幽霊が出ると噂が立った。
だがまわりが住宅地で、心霊スポットめぐりの輩に対して苦情が出ていたために、僕は小さい頃から親に「あそこに近づくな」と言われていた。
ところがある日、同じクラスのひろ君が「昼間にこっそり行けばいいんじゃないの」と言い出した。
僕も興味がなかったわけではないので、ひろ君の意見に乗って、日曜の昼間に廃病院に二人で行くことにした。
その日、病院近くで待ち合わせをして、病院に向かった。
そして中に入った。
廊下は窓がないが、病室などは窓があって入り口が全て開いていたために、思っていたよりも明るかった。
中はほこりまみれで、ひどく湿気ていた。
なんともいえない変な臭いが充満している。
聞こえてくるのは僕とひろ君の足音だけだ。
そのまま進むと突き当たりの部屋に着いた。
そこだけ扉が閉まっている。
観音開きで、今までのどの扉よりも大きな扉だ。
ひろ君が迷わず戸を開け中に入り、僕も続いた。
そこはどう見ても手術室だった。
中央に手術台があり、上には大きなライトがある。
手術台に近くに、見たことがあるようなないような機械がいくつかあった。
手術台には白いシーツがかけられてあったが、そのシーツの中央付近が何かで染まっている。
――なんだ、あれは?
二人で近づき、同時に気付いた。
赤い液体。
どう見ても大量の血だ。
それもついさっき流れ出たばかりの。
――!
あまりのことに身動きできずにいると、聞こえてきた。
すぐそばから、はっきりと。
「痛い痛い痛い痛い!」
子供の声だった。
女の子の。
しかしここには僕とひろ君しかいない。
「うわっ!」
ひろ君が走り出した。
僕もつられて走り出す。
そして病院を出て、家に着くまで走り続けた。
あれから何年もたつ。
廃病院は取り壊されることなく、いまでもある。
しかし僕はあれ以来、あの病院には一度も行っていない。
終
小さな総合病院くらいの規模で、いつしか幽霊が出ると噂が立った。
だがまわりが住宅地で、心霊スポットめぐりの輩に対して苦情が出ていたために、僕は小さい頃から親に「あそこに近づくな」と言われていた。
ところがある日、同じクラスのひろ君が「昼間にこっそり行けばいいんじゃないの」と言い出した。
僕も興味がなかったわけではないので、ひろ君の意見に乗って、日曜の昼間に廃病院に二人で行くことにした。
その日、病院近くで待ち合わせをして、病院に向かった。
そして中に入った。
廊下は窓がないが、病室などは窓があって入り口が全て開いていたために、思っていたよりも明るかった。
中はほこりまみれで、ひどく湿気ていた。
なんともいえない変な臭いが充満している。
聞こえてくるのは僕とひろ君の足音だけだ。
そのまま進むと突き当たりの部屋に着いた。
そこだけ扉が閉まっている。
観音開きで、今までのどの扉よりも大きな扉だ。
ひろ君が迷わず戸を開け中に入り、僕も続いた。
そこはどう見ても手術室だった。
中央に手術台があり、上には大きなライトがある。
手術台に近くに、見たことがあるようなないような機械がいくつかあった。
手術台には白いシーツがかけられてあったが、そのシーツの中央付近が何かで染まっている。
――なんだ、あれは?
二人で近づき、同時に気付いた。
赤い液体。
どう見ても大量の血だ。
それもついさっき流れ出たばかりの。
――!
あまりのことに身動きできずにいると、聞こえてきた。
すぐそばから、はっきりと。
「痛い痛い痛い痛い!」
子供の声だった。
女の子の。
しかしここには僕とひろ君しかいない。
「うわっ!」
ひろ君が走り出した。
僕もつられて走り出す。
そして病院を出て、家に着くまで走り続けた。
あれから何年もたつ。
廃病院は取り壊されることなく、いまでもある。
しかし僕はあれ以来、あの病院には一度も行っていない。
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一体どんな手術がが行われていたんでしょうね。恐ろしい想像が膨らみます。
それは想像におまかせします。感想ありがとうございます。