黒電話

ツヨシ

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梶谷は、お盆に嫁の諏訪子といっしょに、諏訪子の実家に里帰りをした。

結婚前に一度訪ねたことはあったが、あわただしく帰った前回とは違って今回は泊りがけだ。

実家は山奥の集落で、家は十数軒ほどしかない。

子供と若者は一人もおらず、中年でさえその数は少ない。

還暦が近い諏訪子の両親でさえ、この村では若手だ。

泊りがけになったのは姑である菊江の「若い人に少しは手伝ってもらいたいねえ」と言う一言からだ。

お墓の掃除とか農作業とか。

要するに梶谷は、お盆連休に肉体労働をしにきたのだ。

ここに来たのは二度目だが、最初は梶谷の家から遠い上に日帰りだったので、ほとんど挨拶程度だった。

それゆえに二人で住むには大きすぎる古民家にもかかわらず、入口近くにある応接間にしか足を踏み入れていなかった。

今回は泊まりなのでその奥へと入る。客間は一番奥にあるそうだ。


「こっちよ」

菊江の案内で奥へと向かう途中、梶谷はあるものを発見した。

廊下の曲がり角にある台の上の黒電話だ。

――黒電話? いまどき。

菊江が梶谷の視線に気付いて言った。

「ああその電話ね。今はほとんど使ってないのよ」

それはそうだろうと梶谷は思った。
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