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そしてバイクを停めた後も駐輪場にしばらくとどまった。
あの女に見られるのが怖かったのだ。
そしてもう十分だと思われる頃に駐輪場を出た。
するとなんとしたことが、あの女がまだいて、じっと大場を見ているのだ。
――えっ?
そのまましばらく見合っていたが、ふいに女が今まででは考えられないくらいににこやかな顔で笑うと、背を向けてその場を立ち去った。
――えっ、なんであの人は私を見て笑ったのかしら?
わからない。
しかし女の笑顔は敵意にはほど遠く、むしろ逆だった。
しかし敵意を感じないとはいえ、気味が悪いことにはかわりがない。
なにしろ通報されても不思議ではない女なのだから。
――今度会ったらどうしようかしら?
大場は考えた。
考えたがなにも思い浮かばなかった。
本部いくえがいつものようにマンションを霊視していると、背中に感じた。
――あの女だ。
原付が横を通り過ぎる。
やっぱりあの女だった。
そのまま通り過ぎたが、明らかに本部には気がついていた。
そして前回は原付から降りて押して駐輪場に入ったのに、今日は原付を走らせたまま駐輪場に入ってしまった。
――うーん、怖がらせてしまったかもね。
しかしそんなことを言っている場合ではない。
この邪悪なるものの正体を明らかにするには、今のところあの女が一番のキーなのだから。
待てばすぐにでも駐輪場から出てくるだろう。
なにせあの駐輪場は、入るにも出るにもあの道を通るしかないのだから。
そのまま待った。しかし女はなかなか姿を現さない。
――やっぱり怖がらせたみたいだね。
とは言っても、ここで引き下がるわけにもいかない。
そのまま待った。
そして本部の感覚からすればずいぶん時間が経ったと思われたころ、あの女がようやく出てきた。
そして本部を見て足を止めた。
――やっぱり怖がっているね。当然と言えば当然だけど。
本部は全神経を集中させて、女を霊視した。
そして気づいた。
なぜあの女から邪悪なるものの一部を感じとることができるのかを。
――そういうことか。
本部は理解した。
そして満面の笑みを浮かべて女を見た後、マンションを後にした。
五人目の自殺者が出た。
十一階の部屋にすむ女性。
自分の部屋のすぐ下で転落死していたものだから、警察はそのまま自殺と判断した。
もはや事故なのか事件なのかを調べる気もないようだ。
もともと警察は、事件と明らかにわかり、犯人が存在するという確信がなければなかなか動かない組織なので、ある意味当然ではあるが。
警察の無関心をよそに大騒ぎなのがマスコミだ。
四人目の時に「呪われている」と口を滑らせて炎上した芸人がいるので、出演者もそれなりに気を使ってそんな不謹慎なことを言う人はいなかったが、直接口に出さずとも、話の流れや演出でそういった雰囲気を作り出すことは可能で、実際に多くのバラエティ風報道番組で同じことをやっていた。
見た人の多くが「呪い」という単語を聞かなくても、そういった印象を受けていた。
ある意味ぎりぎりまで攻めたのだが、番組は刺激的であればあるほど視聴率が取れるので、テレビ局がそうするは当然だ。
そして報道以上に騒ぎとなったのは、もちろんマンションの住人たちである。
この四か月ほどで五人も飛び降り自殺した。
しかも五人とも親しい人によれば、自ら死ぬなんて考えられないような人たちばかりなのだ。
本気でこのマンションは呪われているのではないかと考える人が増えてきているのは間違いがない。
引っ越す人も何人かはいたが、そうは言ってももともと分母の多いマンションなので前から引っ越す人は常にいたので、マンションの呪いが怖くて引っ越したのかどうかまではわからない。
それに関して詳しく調べた人もいない。
ただ桜井は思った。
あんりが引っ越せばいいと。
毎週末にあんりと遊べるのは楽しくてしかたがないのだが、それとあんりの命を天秤にかけるのなら、その結果は言うまでもない。
そうかと言って、あんりに引っ越すように言っても「お兄ちゃんだって住んでいるじゃない」と言われれば、もう返す言葉がない。
桜井が本気の本気なら、自分も引っ越してあんりもその近くに住むように言えばいい。
だが桜井は強く心配しながらも、心のどこかで自分たちには関係がないと思っている部分があった。
呪いだなんだと騒ぎながら、どこか他人事。
それはこのマンションに住む住人の多くがそうだった。
人間心理としては普通のことで、事故多発の交差点を毎日車で通っても、自分とは無関係と思っている人のように。
警察内にもいくら一万人近く住んでいるマンションとはいえ、四か月あまりで五人もの自殺者は多くないかとの意見が出たこともあった。
しかも鍵がかかっているはずの屋上から飛び降りたと断定された人もいる。
これは不自然というより物理的に不可能なのではないかと言った巡査もいた。
そうは言ってもそれなら自殺ではなくて事故なのか、ましてや殺人事件なのかと聞かれれば、そうだと答えられる人間は一人もいない。
そんな直接的もしくは客観的な証拠は一つもない。
それをいまさら覆せば、後々のことを考えると大きなリスクしかない。
確たるものが何一つないのにそんなことができるわけがない。
このまま押し通すしかないのだ。
ただこれからも自殺者が出ることは十分予測ができる。
そのときの状況しだいだが、おそらく自殺と発表されることだろう。
そのときに世間はどう思うのだろうか。
警察の信頼が失われることがないだろうか。
その危惧は正しいが、もうどうすることもできない。
そもそもこれ以上自殺者がでるのかという問題については、ベテランになればなるほど出て来ると感じている人が多かった。
長年の経験からくるカンと言うやつで。
かといってそれに対する防止策や対処法と言ったものは、警察内で全く浮かんではこなかった。
そもそもそんなことをする気も皆目なかったのだ。
あの女に見られるのが怖かったのだ。
そしてもう十分だと思われる頃に駐輪場を出た。
するとなんとしたことが、あの女がまだいて、じっと大場を見ているのだ。
――えっ?
そのまましばらく見合っていたが、ふいに女が今まででは考えられないくらいににこやかな顔で笑うと、背を向けてその場を立ち去った。
――えっ、なんであの人は私を見て笑ったのかしら?
わからない。
しかし女の笑顔は敵意にはほど遠く、むしろ逆だった。
しかし敵意を感じないとはいえ、気味が悪いことにはかわりがない。
なにしろ通報されても不思議ではない女なのだから。
――今度会ったらどうしようかしら?
大場は考えた。
考えたがなにも思い浮かばなかった。
本部いくえがいつものようにマンションを霊視していると、背中に感じた。
――あの女だ。
原付が横を通り過ぎる。
やっぱりあの女だった。
そのまま通り過ぎたが、明らかに本部には気がついていた。
そして前回は原付から降りて押して駐輪場に入ったのに、今日は原付を走らせたまま駐輪場に入ってしまった。
――うーん、怖がらせてしまったかもね。
しかしそんなことを言っている場合ではない。
この邪悪なるものの正体を明らかにするには、今のところあの女が一番のキーなのだから。
待てばすぐにでも駐輪場から出てくるだろう。
なにせあの駐輪場は、入るにも出るにもあの道を通るしかないのだから。
そのまま待った。しかし女はなかなか姿を現さない。
――やっぱり怖がらせたみたいだね。
とは言っても、ここで引き下がるわけにもいかない。
そのまま待った。
そして本部の感覚からすればずいぶん時間が経ったと思われたころ、あの女がようやく出てきた。
そして本部を見て足を止めた。
――やっぱり怖がっているね。当然と言えば当然だけど。
本部は全神経を集中させて、女を霊視した。
そして気づいた。
なぜあの女から邪悪なるものの一部を感じとることができるのかを。
――そういうことか。
本部は理解した。
そして満面の笑みを浮かべて女を見た後、マンションを後にした。
五人目の自殺者が出た。
十一階の部屋にすむ女性。
自分の部屋のすぐ下で転落死していたものだから、警察はそのまま自殺と判断した。
もはや事故なのか事件なのかを調べる気もないようだ。
もともと警察は、事件と明らかにわかり、犯人が存在するという確信がなければなかなか動かない組織なので、ある意味当然ではあるが。
警察の無関心をよそに大騒ぎなのがマスコミだ。
四人目の時に「呪われている」と口を滑らせて炎上した芸人がいるので、出演者もそれなりに気を使ってそんな不謹慎なことを言う人はいなかったが、直接口に出さずとも、話の流れや演出でそういった雰囲気を作り出すことは可能で、実際に多くのバラエティ風報道番組で同じことをやっていた。
見た人の多くが「呪い」という単語を聞かなくても、そういった印象を受けていた。
ある意味ぎりぎりまで攻めたのだが、番組は刺激的であればあるほど視聴率が取れるので、テレビ局がそうするは当然だ。
そして報道以上に騒ぎとなったのは、もちろんマンションの住人たちである。
この四か月ほどで五人も飛び降り自殺した。
しかも五人とも親しい人によれば、自ら死ぬなんて考えられないような人たちばかりなのだ。
本気でこのマンションは呪われているのではないかと考える人が増えてきているのは間違いがない。
引っ越す人も何人かはいたが、そうは言ってももともと分母の多いマンションなので前から引っ越す人は常にいたので、マンションの呪いが怖くて引っ越したのかどうかまではわからない。
それに関して詳しく調べた人もいない。
ただ桜井は思った。
あんりが引っ越せばいいと。
毎週末にあんりと遊べるのは楽しくてしかたがないのだが、それとあんりの命を天秤にかけるのなら、その結果は言うまでもない。
そうかと言って、あんりに引っ越すように言っても「お兄ちゃんだって住んでいるじゃない」と言われれば、もう返す言葉がない。
桜井が本気の本気なら、自分も引っ越してあんりもその近くに住むように言えばいい。
だが桜井は強く心配しながらも、心のどこかで自分たちには関係がないと思っている部分があった。
呪いだなんだと騒ぎながら、どこか他人事。
それはこのマンションに住む住人の多くがそうだった。
人間心理としては普通のことで、事故多発の交差点を毎日車で通っても、自分とは無関係と思っている人のように。
警察内にもいくら一万人近く住んでいるマンションとはいえ、四か月あまりで五人もの自殺者は多くないかとの意見が出たこともあった。
しかも鍵がかかっているはずの屋上から飛び降りたと断定された人もいる。
これは不自然というより物理的に不可能なのではないかと言った巡査もいた。
そうは言ってもそれなら自殺ではなくて事故なのか、ましてや殺人事件なのかと聞かれれば、そうだと答えられる人間は一人もいない。
そんな直接的もしくは客観的な証拠は一つもない。
それをいまさら覆せば、後々のことを考えると大きなリスクしかない。
確たるものが何一つないのにそんなことができるわけがない。
このまま押し通すしかないのだ。
ただこれからも自殺者が出ることは十分予測ができる。
そのときの状況しだいだが、おそらく自殺と発表されることだろう。
そのときに世間はどう思うのだろうか。
警察の信頼が失われることがないだろうか。
その危惧は正しいが、もうどうすることもできない。
そもそもこれ以上自殺者がでるのかという問題については、ベテランになればなるほど出て来ると感じている人が多かった。
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