頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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魔物を狩る ~オルタリア王国~

オルタリアの海

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 大陸の西の海に面した王国、オルタリア。

 この国は大陸有数の商業国でもある。農林水産業に加え、貿易も盛んで、大陸内外の物産がここに集まるとも言われている。当然、金融にも力をいれており、数多の商店商会が軒を連ねている。


 そんなわけで誘拐騒動でオリタリアとのつながりができた儂はついに海の魔物に出会えるとあって、喜び勇んでオルタリアに来た。

 のだが。

 オルタリアまで竜の姿でひとっ飛びだった。そのため、途中でウイルさんやマルコさん達一行を追い越してしまった。皆に不審に思われないためにはわざと遅く入国する必要があるのだ。

 なるべく人目につかないように、オルタリアの城壁とも街道からもある程度距離の離れた森の中で、ひっそりと時を待つ事にした。

 わけがなく。

 早速近くの海岸でキャンプする事にした。幸い周囲を崖で囲まれた場所を発見し、そこに数日逗留して時間稼ぎする事にした。


 朝陽を浴びて、ビーチに寄せる波打ち際を、ワンピースのスカートをはためかせ、飛ばされないように軽く右手で麦わら帽子を押さえながら走る少女の笑い声が響く。

 なんて光景を再現したかったのだが、それは無理だった。

 まず第一に雨が降っている。こっちに生まれて初めての雨だ。いまいましい。

 そして第二にここは砂浜ではない。砂利浜というか岩浜というか、走ったら確実に足をとられるようなごつごつした場所で、ビーチの趣の欠片もない磯である。いまいましい。

 まあ磯には磯の見るべきものがいろいろあるだろうから、とりあえず雨が止むのを待つ事にした。


 待たせてくれなかった。

 気がついたら、なんかクラーケンぽい巨大な生物の蝕椀にからめとられて、今、海上と海中で綱引きしている。

 頭喰いかしらぐいは竜の姿ではあるが、竜の能力を全て受け継いでいるわけではない。特にファイヤーブレスのような遠隔攻撃の手段に乏しい。幸いにも防御力は高いのでひねりつぶされる心配はないのだが、やはり飛行能力と潜水能力の差は歴然で、じわじわと海面との距離が縮みつつある。

「まあ仮に海の中に引き込まれたとしても、我には何の影響もないがな!」

 竜の姿では竜の人格が優勢になるためか、久々に我とか言っちゃってるな。

「貴様の脳みそを喰らって返り討ちにしてくれるわ!」

 そんな悠長な事を考えていた時期も儂にはありました。相手に近づけなければ返り討ちもくそもないのである。

 ついに海中に引き込まれてしまった儂は、クラーケン的な魔物とご対面する事となった。それはまさしく巨大なイカ。竜の姿をした儂の四、五倍はあろうかという巨体であった。

 奴は儂の頭ほどもある巨大な目でこちらをじっと観察していたが、ほどなく、儂をつかんだまま、深海へ向かってずんずんと潜っていく。

 うーん、一体どこへ連れて行く気なのか。まさか竜宮城という事ないだろう。そもそも誰も助けていないし、感謝される謂われもない。

 まあ、時間はたっぷりあるだろうから、成り行きにまかせよう。

 そういうわけで暇なので、儂は少し眠る事にした。着いたら起こしてね。



 夢を見た気がする。儂が一種懸命に竜の後を追いかける。それはそれはものすごいスピードで。竜も必死に逃げる。絶対捕まるものかと一心不乱に。そして儂が竜に追い付いた時、目が覚めた。

 もう儂は拘束されていなかった。あたりを見回すとどうやら巨大な洞窟状の場所だ。というか、ここには空気さえある。海底洞窟なのかな。儂の他にはこれと言って気配を感じない。

 儂は人形ひとがたに変化して、洞窟の中を散策してみる事にした。洞窟の足元の岩や壁は仄かに光を発しており、全くの暗闇ではなかった。

 そういえば、光る岩と言えば、アルケオの地下にある自光石。ひょっとしてこの洞窟も遺物の一部なのだろうか。ウイルさんが見たら喜ぶかもだな。

 しかし、ここにはどうやって入ってきたのだろう。もし本当にここが海底洞窟だとしたら、どこかに入り口となるような水面が顔をのぞかせていてもおかしくない。

 だが、本当にそんなに深い海底ならもっと気圧は高いはずだが、どうもここの気圧は地上とさほど変わらないように思える。ならば、どこか別の陸地の洞窟なのだろうか。うーん、わからん。

 とにかく出口を探しに、少し歩き回ってみる事にしよう。


 そして数時間後。

 ここに出入り口となるような場所はない。少なくとも地面の上を歩いてわかる範囲では。

 つまりこれは深い穴なのだろう。

 うーん、全くもって皆目見当がつかない。なぜ奴は儂をこんな場所にまでつれてきて閉じ込めたのか。そしてなんで何時間もほったらかしなのか。

 やはり一度喰っておきたい。さっきは旨そうに思えなかったが、儂に理解できない事をするのだから、不味いという事はなさそうだ。


 そして地面にごろんと寝転がって、高い天井を見上げた。この天井のどこかに入り口があるのかもしれない。飛んで確かめてもいいが、こういう場所では竜の格好はいまいち不便なのだ。

 まあ、別に急ぐ旅でもない。もう少しこの、のんびりした時間を楽しむのも悪くないさ。

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