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隠れ里の秘密
英雄の死
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クレスが隠れ里に来る前。
このドワーフの隠れ里では、子供をこっそり里の外に売って生計の足しにする家族が時々あった。
もちろん里の外に子供を売るのは隠れ里でも御法度なのだが、実際には里長自身の手引きによって生活の苦しい世帯の子供を里の外に連れ出し、他所の里や街に連れていって売り飛ばしていた。つまり里長は密かに人身売買で私服を肥やしていたのである。
里長がクレスの一家と出会ったのも、里の子供達を連れて出向いた先の街での事だった。
クレスが母親と共に隠れ里に移り住んでまもなく、クレス達の動向を影からこっそり窺っていたアレスは、里長が人身売買に関わっている事を突き止め、里長に接触し、里の民に秘密をばらすと言って強請るようになった。
里長は、クレスの母親からは圧力をかけられ、クレスの兄からは脅されるという、あまり喜ばしくない状況に陥っていた。
幸い、クレスの工房が里に利益をもたらしてくれるおかげで、クレスとともにクレスを里に住まわせた里長の株も上がり、またクレス自身も里長への感謝の念から、一層、里に尽くすようになった。
クレスが里の一員として受け入れられて、最早誰一人、クレスをよそ者と思わなくなった頃。
所用で里の外へ出掛けていたクレスが一人のドワーフの女性を連れて里に戻った。そして、自分の妻として里に一緒に住むと宣言したのだった。しかもその女性はすでに子供を宿しているという。
かつてはよそ者との結婚を良く思わない隠れ里の人々だった。しかし、英雄と言って慕うクレスのする事だからと、大方の反応は、多少の事は大目に見るという構えだった。
しかし、隠れ里を取り仕切り、影響力を持っていたい里長にしてみれば、クレスの行いは許されない事だった。その上、その母親と兄に頭が上がらない。これはゆゆしき問題だった。
そこで里長は一計を案じる。
まず、アレスを亡き者にする。そして人身売買の罪をアレスに擦り付け、それをネタにクレスの母親に圧力をかけて、彼女を手中に収める。そして彼女にクレスを説得させ、彼の工房をクレスの弟子に継がせて、クレスとその妻を法度破りの科で隠れ里から追い出す。
その最初の作戦は里長自身の手でほどなく決行される事ととなった。すなわち、アレスを人気のない場所に密かに呼び出し、そして背後から飛び道具で不意打ちしたのだ。狙い通り毒矢が呼び出された人物の背に深々と突き刺さり、小さく呻き声をあげてその場に崩れおちるのを里長は見た。
思惑通りに事が運んだと喜びつつ死体の側に駆け寄った里長が見たものは、アレスの衣装を来たクレスの死体だった。
呆然としている里長の後ろから、アレスが声をかけた。曰く、アレスは里長の態度に不審を感じ、自分と瓜二つのクレスを囮にしたのだと言う。久しぶりに会えて嬉しい、郊外で一緒に酒でも酌み交わそう、土産にお前に似合う服を買って来たから、是非着てほしい、などなど。アレスを兄と言って慕うクレスは少しもアレスの事を疑いはしなかったのだ。
ここに来てやっと、里長はアレスがとんでもない悪党である事を悟ったのである。
アレスの要求は、里の子供を時々融通してほしいというものだった。隠れ里やその周辺の森の魔物に襲われたという事にすれば、誰も不審に思わないだろう、とも付け加えた。
クレスの死体はアレスの手で、あたかも素材を探して山に入り、崖から転落した、という体に工作された。
その後、クレスの死を悲しんだクレスの母親は工房をクレスが妻として連れてきた女性に委ね、自らは隠れ里を出て、結婚していつぞやの街に住んでいた末娘のテレスの許に身を寄せる事となった。
工房を任されたクレスの妻は、しばらくは隠れ里で雑事に追われながら過ごしていたが、里長からの援助もなく、もうすぐ産まれる子供(それはクレスの子供どころか、ドワーフの子供でもなかった)に肩身の狭い思いさせたくないと考え、クレスの古参の弟子に工房を譲り、自らも隠れ里から出て旅をする事に決めたのだった。
あとには、アレスという小悪党だけが、この里との繋がりを持つ事になったのだった。
このドワーフの隠れ里では、子供をこっそり里の外に売って生計の足しにする家族が時々あった。
もちろん里の外に子供を売るのは隠れ里でも御法度なのだが、実際には里長自身の手引きによって生活の苦しい世帯の子供を里の外に連れ出し、他所の里や街に連れていって売り飛ばしていた。つまり里長は密かに人身売買で私服を肥やしていたのである。
里長がクレスの一家と出会ったのも、里の子供達を連れて出向いた先の街での事だった。
クレスが母親と共に隠れ里に移り住んでまもなく、クレス達の動向を影からこっそり窺っていたアレスは、里長が人身売買に関わっている事を突き止め、里長に接触し、里の民に秘密をばらすと言って強請るようになった。
里長は、クレスの母親からは圧力をかけられ、クレスの兄からは脅されるという、あまり喜ばしくない状況に陥っていた。
幸い、クレスの工房が里に利益をもたらしてくれるおかげで、クレスとともにクレスを里に住まわせた里長の株も上がり、またクレス自身も里長への感謝の念から、一層、里に尽くすようになった。
クレスが里の一員として受け入れられて、最早誰一人、クレスをよそ者と思わなくなった頃。
所用で里の外へ出掛けていたクレスが一人のドワーフの女性を連れて里に戻った。そして、自分の妻として里に一緒に住むと宣言したのだった。しかもその女性はすでに子供を宿しているという。
かつてはよそ者との結婚を良く思わない隠れ里の人々だった。しかし、英雄と言って慕うクレスのする事だからと、大方の反応は、多少の事は大目に見るという構えだった。
しかし、隠れ里を取り仕切り、影響力を持っていたい里長にしてみれば、クレスの行いは許されない事だった。その上、その母親と兄に頭が上がらない。これはゆゆしき問題だった。
そこで里長は一計を案じる。
まず、アレスを亡き者にする。そして人身売買の罪をアレスに擦り付け、それをネタにクレスの母親に圧力をかけて、彼女を手中に収める。そして彼女にクレスを説得させ、彼の工房をクレスの弟子に継がせて、クレスとその妻を法度破りの科で隠れ里から追い出す。
その最初の作戦は里長自身の手でほどなく決行される事ととなった。すなわち、アレスを人気のない場所に密かに呼び出し、そして背後から飛び道具で不意打ちしたのだ。狙い通り毒矢が呼び出された人物の背に深々と突き刺さり、小さく呻き声をあげてその場に崩れおちるのを里長は見た。
思惑通りに事が運んだと喜びつつ死体の側に駆け寄った里長が見たものは、アレスの衣装を来たクレスの死体だった。
呆然としている里長の後ろから、アレスが声をかけた。曰く、アレスは里長の態度に不審を感じ、自分と瓜二つのクレスを囮にしたのだと言う。久しぶりに会えて嬉しい、郊外で一緒に酒でも酌み交わそう、土産にお前に似合う服を買って来たから、是非着てほしい、などなど。アレスを兄と言って慕うクレスは少しもアレスの事を疑いはしなかったのだ。
ここに来てやっと、里長はアレスがとんでもない悪党である事を悟ったのである。
アレスの要求は、里の子供を時々融通してほしいというものだった。隠れ里やその周辺の森の魔物に襲われたという事にすれば、誰も不審に思わないだろう、とも付け加えた。
クレスの死体はアレスの手で、あたかも素材を探して山に入り、崖から転落した、という体に工作された。
その後、クレスの死を悲しんだクレスの母親は工房をクレスが妻として連れてきた女性に委ね、自らは隠れ里を出て、結婚していつぞやの街に住んでいた末娘のテレスの許に身を寄せる事となった。
工房を任されたクレスの妻は、しばらくは隠れ里で雑事に追われながら過ごしていたが、里長からの援助もなく、もうすぐ産まれる子供(それはクレスの子供どころか、ドワーフの子供でもなかった)に肩身の狭い思いさせたくないと考え、クレスの古参の弟子に工房を譲り、自らも隠れ里から出て旅をする事に決めたのだった。
あとには、アレスという小悪党だけが、この里との繋がりを持つ事になったのだった。
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