頭喰いのだらだら記

kuro-yo

文字の大きさ
16 / 17
隠れ里の秘密

英雄の死

しおりを挟む
 クレスが隠れ里に来る前。

 このドワーフの隠れ里では、子供をこっそり里の外に売って生計の足しにする家族が時々あった。

 もちろん里の外に子供を売るのは隠れ里でも御法度なのだが、実際には里長自身の手引きによって生活の苦しい世帯の子供を里の外に連れ出し、他所の里や街に連れていって売り飛ばしていた。つまり里長は密かに人身売買で私服を肥やしていたのである。

 里長がクレスの一家と出会ったのも、里の子供達を連れて出向いた先の街での事だった。


 クレスが母親と共に隠れ里に移り住んでまもなく、クレス達の動向を影からこっそり窺っていたアレスは、里長が人身売買に関わっている事を突き止め、里長に接触し、里の民に秘密をばらすと言って強請るようになった。

 里長は、クレスの母親からは圧力をかけられ、クレスの兄からは脅されるという、あまり喜ばしくない状況に陥っていた。

 幸い、クレスの工房が里に利益をもたらしてくれるおかげで、クレスとともにクレスを里に住まわせた里長の株も上がり、またクレス自身も里長への感謝の念から、一層、里に尽くすようになった。


 クレスが里の一員として受け入れられて、最早誰一人、クレスをよそ者と思わなくなった頃。

 所用で里の外へ出掛けていたクレスが一人のドワーフの女性を連れて里に戻った。そして、自分の妻として里に一緒に住むと宣言したのだった。しかもその女性はすでに子供を宿しているという。

 かつてはよそ者との結婚を良く思わない隠れ里の人々だった。しかし、英雄と言って慕うクレスのする事だからと、大方の反応は、多少の事は大目に見るという構えだった。

 しかし、隠れ里を取り仕切り、影響力を持っていたい里長にしてみれば、クレスの行いは許されない事だった。その上、その母親と兄に頭が上がらない。これはゆゆしき問題だった。


 そこで里長は一計を案じる。

 まず、アレスを亡き者にする。そして人身売買の罪をアレスに擦り付け、それをネタにクレスの母親に圧力をかけて、彼女を手中に収める。そして彼女にクレスを説得させ、彼の工房をクレスの弟子に継がせて、クレスとその妻を法度破りのとがで隠れ里から追い出す。

 その最初の作戦は里長自身の手でほどなく決行される事ととなった。すなわち、アレスを人気のない場所に密かに呼び出し、そして背後から飛び道具で不意打ちしたのだ。狙い通り毒矢が呼び出された人物の背に深々と突き刺さり、小さく呻き声をあげてその場に崩れおちるのを里長は見た。

 思惑通りに事が運んだと喜びつつ死体の側に駆け寄った里長が見たものは、アレスの衣装を来たクレスの死体だった。

 呆然としている里長の後ろから、アレスが声をかけた。曰く、アレスは里長の態度に不審を感じ、自分と瓜二つのクレスを囮にしたのだと言う。久しぶりに会えて嬉しい、郊外で一緒に酒でも酌み交わそう、土産にお前に似合う服を買って来たから、是非着てほしい、などなど。アレスを兄と言って慕うクレスは少しもアレスの事を疑いはしなかったのだ。

 ここに来てやっと、里長はアレスがとんでもない悪党である事を悟ったのである。

 アレスの要求は、里の子供を時々融通してほしいというものだった。隠れ里やその周辺の森の魔物に襲われたという事にすれば、誰も不審に思わないだろう、とも付け加えた。

 クレスの死体はアレスの手で、あたかも素材を探して山に入り、崖から転落した、という体に工作された。


 その後、クレスの死を悲しんだクレスの母親は工房をクレスが妻として連れてきた女性に委ね、自らは隠れ里を出て、結婚していつぞやの街に住んでいた末娘のテレスの許に身を寄せる事となった。

 工房を任されたクレスの妻は、しばらくは隠れ里で雑事に追われながら過ごしていたが、里長からの援助もなく、もうすぐ産まれる子供(それはクレスの子供どころか、ドワーフの子供でもなかった)に肩身の狭い思いさせたくないと考え、クレスの古参の弟子に工房を譲り、自らも隠れ里から出て旅をする事に決めたのだった。


 あとには、アレスという小悪党だけが、この里との繋がりを持つ事になったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

暗算参謀は王国を追放される――戦わずして勝ち続けた男の失脚譚――

まさき
ファンタジー
現代日本から異世界へ転生した主人公。 彼に与えられた唯一の能力は、瞬時にあらゆる数値を弾き出す「暗算」だった。 剣も魔法も使えない。 だが確率と戦略を読み解くことで、王国の戦を幾度も勝利へ導いていく。 やがて王国の戦略顧問として絶大な信頼を得るが、 完璧すぎる功績は貴族の嫉妬を招き、巧妙な罠により不正の罪を着せられてしまう。 証明できぬ潔白。 国の安定を優先した王の裁定。 そして彼は、王国を追放される。 それでも彼は怒らない。 数字は嘘をつかないと知っているからだ。 戦わずして勝ち続けた参謀が、国を去るその日までを描く、 知略と静かな誇りの異世界戦略譚。

処理中です...