頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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隠れ里の秘密

里の英雄

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 時は数十年前に遡る。

 大陸の各地を旅し、狩や行商で細々と生計を立てるドワーフの一家がいた。父親と母親、長男のアレス、アレスの双子の弟で次男のクレス、そして妹のテレスの五人家族だった。

 双子ではあったが、アレスとクレスの性格は対照的だった。

 兄のアレスは、頭の回転が速く機転がきき、また狩の腕も確かで逞しかったが、両親や弟妹きょうだい達と違い、堅実で地道な生活に嫌気が射していた。一家が商売のために街に立ち寄ると、アレスは仕事をほっぽりだし、街で知り合った悪い仲間と遊び歩いたりしていた。

 一方、弟のクレスは勤勉実直で知識欲もあり、工芸方面の才に長けていた。両親を良く手伝い、妹の面倒見も良かった。いずれは手に職を付け、独立する夢もあった。クレスは家族思いであり、家族をあまり顧みないアレスには疎まれているにもかかわらず、他の家族に対するのと同様にアレスを兄と慕う、心根の優しさがあった。

 妹のテレスは、クレスとは違い、家族を邪険にするアレスを嫌っていたが、クレスには良く懐いていた。


 あるとき、流行り病で父親が亡くなった。

 一家の大黒柱を失い、未亡人となった母親は、アレスが父親の跡を継いで行商を続ける事を期待したが、当のアレスは、父親が亡くなったのをこれ幸いと、まもなく一人で家を出て、姿を消してしまった。

 残された一家三人は、仕方なく行商を諦め、どこかの町か里に落ち着く事に決めた。クレスの提案で、職人の修行ができる街にしばらく逗留する事になった。

 クレスは街の工房に弟子入りし、テレスと母親もそれぞれに仕事を見つけ、可もなく不可もなく、平穏に日々の生活を送る事ができるようになった。


 そうして二三十年余経ち、工房の親方に才能と腕を認められたクレスが一人立ちできるようになった頃。

 ある隠れ里の里長がこの街を訪れ、クレスの一家と出会う事になった。

 里長はクレスの母親が一目で気に入り、それとなく、隠れ里に来る事を彼女に打診した。
 それに対し彼女は、里長が自分を気に入っている事を逆手に取り、自前の工房を持ちたがっているクレスを隠れ里に迎えるよう、里長に持ちかけた。
 もともと、よそ者をあまり快く思わない気風の里であったが、それで彼女が自分の許に来てくれるのならと、里長は彼女の提案を渋々了承した。

 ドワーフの里で工房を持たせてもらえると聞いたクレスは喜んだが、街の青年と恋仲になっていた妹のテレスは街に残ると言い出した。母親は一家三人で暮らす事を望んだが、妹を可愛がっていたクレスが母親を説得し、テレスを街に残してクレスと二人だけで隠れ里に移住する事を受け入れた。


 ドワーフの隠れ里は決して貧しい里ではなかったが、決め手となる産業がなかった事で、里の人々の暮らし向きはそれほど良くはなかった。

 そんなところへ里長がよそ者を連れて帰ってきた事で、クレス達に向けられる目も初めは冷たかった。

 しかし、クレスがもともと持っていた独自の感性と、街の工房で培った知識と技術により、里にあらたな産品が次々と生まれ、これらを商う事で、里は少しずつ潤って行った。

 もちろんこの成功には、クレスの母親に惚れた弱味を握られた里長が、クレスが始めた、言わば里の産業革命を、積極的に支援したという背景もあった。

 こうして十数年後には、クレスは里の者達から「英雄」と呼ばれるほどの信頼を勝ち取るのだった。


 しかしその事は、双子の兄アレスを、里に呼び寄せてしまうのだった…。

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