頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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定番の始まり ~アルケオ~

海が見たいか

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 歩きながら空を見上げると、輪っかの月が顕れ始めたところだった。まるで金環蝕のように青白いリングが、星を散りばめた夜空の真ん中に鎮座している。

 この世界の月は、このように輪っかである。なぜ輪っかなのかは分からない。このアルケオではその輪っかの月が季節によって出たり消えたりするのである。なぜ出たり消えたりするのかは不明だ。

 今の季節はちょうどこの輪っかの月が出る時期にあたり、これを顕月と言い、アルケオではこの顕月の前後数日を顕月祭と銘打ち…、特に何もしない。観光客など、勝手に他所から人が集まってくるのでこの田舎町でも景気が良くなるので、祭と言ってるだけだとリリさんから聞いた。


 マルコさんに盗賊達がどうなったのか聞かれた。

「善人になってもらいました。」

 などと適当な返事をしてしまったが、実際に起こった事はちょっと違う。


 儂を載せた荷車を挽く盗賊の男を、隙を見て襲った。儂の髪の毛がスルスルと伸びて一瞬で男の頭に巻き付き、血を一滴も流さずに、頭の鉢を跳ね開けて、触手のように動く髪で男の脳みそを包み込んだ。

 儂も最初はそのまま脳みそを喰ってしまおうかとも思ったのだが、ふと、脳みそをちょっと弄れば記憶や性格いじれるのではないかと思い至った。…不味そうだったから全部は食べたくないというのもあったが。

 まず、男の記憶を頂戴するため、脳みそを少し削って喰らう。ちなみに、脳みそを喰らう竜の口は、顔ではなく頭の上にある。そして、その記憶を元に、鱗を変化させたを作って、男の脳みその中に突っ込む。あとは、頭の鉢を元通りに縫い合わせるだけだ。

 まあ、ロボトミーのようなものだろう。たぶん。

 こうして盗賊どもに、自主的に衛兵の詰め所へ向かわせた。


「…詳しくは言えませんが、奥の手で改心させた、くらいに思っておいてください。」

 と儂が言うと、

「いろいろ怪しすぎる…」

 とマルコさんは呟いた。

「でも助けてくれて感謝する。何か礼がしたいのだが。」

「マルコさんはオルタリアの商人だとおっしゃってましたよね。近々、海を見に行こうと思っていたんです。儂、海の魔物に興味がありまして。オルタリアの海にも魔物はいますか?」

 一気にまくしたてたので、マルコさんが呆気にとられている。

「あ、ああ、オルタリアの海は魔物の産地でもあるからな。」

「なら、儂がオルタリアに出向いた時に、いろいろ助けてもらえると嬉しいです。」

「分かった。心に留めて置こう。」

 その後ややしばらく歩き、やっと明るい市街地に入る事ができた。そこでちょうど、マルコさんを迎えに来たマルコさんの連れや衛兵数人と鉢合わせになった。そのまま、一緒に詰め所に行き、拐われてからここまでの顛末を衛兵に話す事になり、ウイルさんの家に戻る頃には空が白みはじめていた。


 翌日、ウイルさんから、冒険者ギルドの名代としてオルタリアまでマルコさん達に同行する事になった、と教えてもらった。

「本当はこの街から出たくないんだけど、ギルドの指示で仕方なくね。その代わり交換条件として、オルタリアのギルドに保管されている遺物を見せてもらえる事になったよ。」

 と、ウイルさんは困ったような喜んでいるような複雑な表情で話した。

「今日の昼過ぎには出発するよ。オルタリアにはしばらく滞在する事になると思う。」
「儂もオルタリアに行くつもりです。旅支度ができたら、すぐ向かいます。リリさんにも相談してみるよ。」

 が、生憎、リリさんの目的地はオルタリアとは反対方向で、同行は叶わなかった。

 それからリリさんとともに、門までウイルさんやマルコさん一行を見送ったあと、儂ら二人は、街で旅に必要なものを見繕い、そして数日後には、方向は違えど、二人そろってアルケオの街をあとにした。
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