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下界にて
14:家族
しおりを挟む結界の外に出ると、いつのまにかユリナスの従者の面々が町から戻ってきていた。どうやら昨日は、邪の月の影響で活性化する魔物を、冒険者達に混じって討伐していたらしい。
従者達は町の市場でご馳走やらお土産やらを買ってきてくれた。私をだっこしているユリナスが、私の頭を撫でながら言った。
「結婚式の後は、半年遅れじゃが、お前さんの出産祝いじゃ。」
従者達が手際よくテーブルにご馳走を並べ、私のベッドのまわりにはプレゼントのような箱がそれっぽく置かれた。
狭い掘っ立て小屋なので、やることはたいしてなく、ユリナスも従者達もすぐに暇になり、何やら小難しい話をし始めた。
私はと言えば、擬陰に自分の髪の毛をセットして遊んでいた。…まさか、尻の穴まで再現されているとは予想外だった。ひとしきり自分のコピーを観察してから、元に戻す方法がない事に気づき、途方に暮れていたら、見かねたユリナスが呆れ顔で、指先から魔力をちょちょいと注いで元に戻してくれた。次からは気をつけよう。
昼過ぎになって、結界からお父さんと横抱きにされたお母さんが出てきた。今はちゃんとガウンを着ているが、さっきは股間にしか見えなかった薄赤い輝きが今は二人の全身を包むオーラのようになっていた。
結婚式を無事に終えた二人を交え、今度は私の出産祝いを兼ねた昼食会となった。こんなに賑やかで楽しい一時は、この世界に生まれて初めてだ。
この日も従者達だけが町に戻り、ユリナスは私たちと一緒に泊まってくれる事になった。
翌日の朝、お父さんに手伝ってもらいながら、私をだっこしたお母さんが、胸をはだけ、お乳が滲み出ている乳首を見せた。
「私がテリアにあげられる、最後のおっぱいよ。」
そう言って、私に乳を含ませてくれた。数ヶ月ぶりに味わうお母さんのお乳は、懐かしいようなほっとするような、それでいて力強い、幸せに包まれるような感じがした。
そして、お母さんにだっこされながら、乳首を口に含んだまま私が居眠りしている間に、お母さんは還らぬ人となった。お母さんの死に顔は、とても晴れやかだったそうだ。
お母さんの葬式も、大賢者と従者達の手によって、簡素ではあるが恙無く執り行われ、家のそばに作った小さなお墓に納めた。それもあって、大賢者の提案で、この小屋を教会の礼拝所に改装してはどうかともちかけられた。この村には礼拝所すらないので、大賢者が直接村長にかけあってくれるようだ。お父さんと私は少しましな新しい家に引っ越した。
お父さんがお仕事で私の面倒を見られない時は、カーラが来て私の世話を焼いてくれるようになった。カーラは、最初に会った時とは打って変わって、ちゃんと美味しい重湯や離乳食を作ってくれる、普通の優しくて面倒見のいいお姉さんになっていた。以前の彼女は、どうやら瘴気にあてられていたようだ(「ユッティ」呼びはそのままだったが)。
しかし、お母さんの喪が明けると、なぜかカーラがほぼ毎日押し掛け女房のようにやってきて、お父さんに猛アピールしてくるので、お父さんが根負けしてカーラを後添えとする事にし、カーラも私達と一緒の家に住む事になった。継母の誕生である。
そうしてまた時が経ち、私の口が解れて毎日のおしゃべりが楽しくなってきた頃。
ある日突然、お父さんがいなくなった。
「はあー。ついに前日譚に突入か…」
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