小さな魔王様の小さな奮闘記

kuro-yo

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番外編:小さな魔王様の小さな日常

小さな魔王様の小さなお仕事

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「此度は我らが王国によくぞお越し下さりました、魔王ミルス殿。王国民をあげて歓迎いたしますわ。」

「王妃陛下御自らわざわざのお出迎え、痛み入るのじゃ。」

「私の立太子の儀に魔王様に立ち会っていただけるとは、最上の誉れにございます。」

「しばらくぶりじゃの、王子殿下。息災のようで何よりじゃ。」

 王国観光を兼ね、王国で行われる立太子の式典に押し掛け…招待された魔王ミルスと、その護衛兼付き添いである二名のケンタウロス、アーネストとリカルド、都合三名は、城の前で王妃と王子による出迎えを受けた。

「城壁の門より城門までの沿道に、あのように多くの見物が集まり、実に壮観じゃった。王国には大層多くの民がおるのじゃな。」

 城付きの騎士に先導され、三人と一行は他愛ない話をしながら、並んで廊下を奥へ歩いて行く。

「はい。王国民はおよそ三十三万人ほどです、魔王様。」

「三十三万!…のう、アーネスト、魔国の魔の数はいかほどじゃったかの?」

「確か、五万人ほどだったかと、陛下。」

「左様か。王国は発展しておるのじゃな。余も頑張らねばの。」

「それにしても、ミルス殿は本当にお若いですね。話には聞いておりましたが、実際にお会いしてみると、それが事実だという事に驚きを隠せませぬ。」

「さもありなん。それについては余自身、いまだに戸惑っておるのじゃ。」

「とはいえ、斯様にお若いミルス殿が、大陸の半分を占めるとも言われる魔国全土を王として統べておられるというのは、まこと感嘆に値すると言わざるを得ませぬ。」

「…母上、少々正直に過ぎませぬか?」

「殿下、気遣いは無用じゃ。」

 そこで魔王は一旦言葉を切り、軽く握った拳をあごにあてて少し思案してから、言った。

「されど、何か誤解があるようじゃ。余は、魔国を統べてはおらぬぞ?」

「ですが、ミルス殿は“魔国の王”でございましょう?」

「魔国に、“王”はおらぬ。現在の魔国は共和国であるからの。」

「え?魔王様は“魔国の王”だから“魔王”なのでしょう?」

「恐らくそれが誤解の元のようじゃな。」

 ちょうど、三人は城の応接室に到着した。着席した三人の前に、すぐさま、待機していた侍女達によって、茶と菓子が用意された。

 勧められるままに菓子を口にし、お茶で唇を湿らせた魔王は、話を続けた。

「そもそも、“魔王”というのは、“魔の王”という意味じゃ。」

「魔国は魔族の国なのですから、ミルス殿は魔国の王でもあらせられるのでは?」

「確かに、かつては魔王は魔国の王じゃったのだが、魔王が不在となったこの三千年の間に、魔達の代表が議会で国の方針を決める形に落ち着いたのじゃ。多少の紆余曲折はあったようじゃがの。」

「それでも魔王様は国政の最高権力者なのではないですか?」

 王子のその言葉に、魔王様は少し考え込んで、言った。

「最高でも権力者でも、ないのう。ここらの事情は法王のおる聖国などとは違っての、余は国政に関与しておらぬのじゃ。三千年もの間不在だった魔王が、国政に口出しなどできぬしの。」

「それでは、ミルス殿は、」

 と王妃は不思議そうな眼差しを魔王に向けて、言った。

「魔国で一体どのような役割を担っておられるのですか?」

「そうじゃの。主に、観光案内じゃな。」

「「観光案内」」

「外国から魔国を訪れる観光客の相手をするのじゃ。」

「「観光客の相手」」

「あとは魔の暴走を防ぐ事くらいかの。」

「「ま、魔族の暴走!」」

「ご安心召されよ。あと数千年は魔が暴走する事はないじゃろう。」

「…しかし、魔王様のお仕事が観光案内とは正直驚きます。私がせんだって王国の使者として魔国を訪れた際、魔王様に拝謁を賜るために通された場所は、大層立派な謁見の間でしたので、てっきり魔王様が魔国の政務を執り仕切っているものとばかり思っておりました。」

「…恥ずかしながら、あの謁見の間はの…、観光施設じゃ。」

「「観光施設?」」

「老朽化した古い魔王城を取り壊して歴史資料館に改築する際、謁見の間だけを残してあるのじゃ。」

「「歴史資料館」」

「うむ。白状するとじゃの、実は外国の使節が余と面会する適当な場所がまだ作られておらぬのじゃ。それで苦肉の策として、あの謁見の間にお主を案内したのじゃ。」

「「苦肉の策」」

「だから謁見の間に出入りする時は正面入り口からのみじゃ。他の扉の向こうは全部ただの壁じゃ。」

「「扉の向こうは壁」」

「残念な事に、玉座の下の隠し通路も、先の方は行き止まりじゃな。」

「「行き止まり」」

「結構お気に入りの隠し通路じゃったのに、思えばもったいないのう…」

 魔王は絶句している王妃と王子を他所に、菓子を口にし、茶を飲んだ。

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