地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

文字の大きさ
39 / 318
第二章

2-20 夜の帳…①

しおりを挟む
 ・
 ・
 ・
 おっさん、ウブでした。
寝れる訳ないです…。
羊を数えます。2,000匹まで数えました。でも、羊さんはどんどん増殖する…。

 そして、その時がやって来た…。
3,000匹を越えたくらいだっただろうか、いきなりディートリヒが苦しみ始めた。
ヤバい、治癒が効かなかったのか…。頭の中が真っ白になった。
結局、彼女を助けることができなかったのか…。
彼女を仰向けに寝かし、スーパーヒールをかけようとした時、ディートリヒは目を覚ました。
そして、きょろきょろと周りを見渡し、俺を認識すると抱き着いてきた。

「大丈夫か、ずいぶん苦しんでいたぞ」

 俺に抱き着いたまま、彼女は安堵したのだろう、一つため息をつく。

「はい。毎晩、あの時の悪夢が襲ってきましゅ。でも、今日からは目が覚めればご主人しゃまがいらっしゃいました。私は本当にあの悪夢から出る事ができたのでしょうか?」
「あぁ、もう大丈夫だよ。」
「ありがとうございましゅ。。。私を救っていただき…」

 言葉にはできないのだろう。涙を流しながらお礼ばかり言っている。

「ディートリヒ、安心しな。俺はこんなおっさんだから、お前に悪夢を見せるような事はしないと誓う。だから安心して休んでほしい。」
「ご主人さま、このまま少しお話させていただいてもよろしいでしょうか。」

 お、ディートリヒさん、さ行が言えるようになったぞ。と思うのも束の間、俺は緊急事態に陥る。

 そうです。ディートリヒさん、俺にまだ抱きついたままなんです。
おっさん、ウブですので、そんなシチュエーション想定していません。マイジュニアもお久しぶりの感覚が…ゲフンゲフン。

「ディートリヒ、このままだとおっさん、とても辛いんですが…。」
「あ、しゅみません。でも、少しこのままで。」

 うん…、おっさん腰痛持ちだし腕力もないから、腕がプルプルしてきた。
途端、腕の力が尽きディートリヒに覆いかぶさってしまう。

「ごめん。おっさん、力ないから…。重くてごめん。」

 すぐさま起き上がり、ベッドに胡坐をかき謝った。
ディートリヒも身体を起こし、俺を見つめる。

「ご主人様、今しばらく私の我儘をきいてくださいませんか。」

 そう言うと、彼女は胡坐をかいて座っている俺の膝の上にまたがり抱き着いた。
あ、ヤバい、これ対面座位ってやつだ…。
いくら服を着てたとしても、キツイ…。え、どこがって? そりゃ、マイジュニアですが…ナニカ。
煩悩退散、Back to the Future、羊・ヒツジ…。

 でも、ふと我に返った。
彼女、なんて軽いんだ…。江戸時代の石抱の刑になるでもなく、本当に軽い。
彼女は少し元気になったといっても、まだまだ本調子ではなかった。
それなのに、今日一日引きずりまわしてしまった…。
彼女の事を思いやる気持ちもなかった自分に腹が立った。

「すまん。君がこんな状態なのに、いろいろと連れまわしてしまって…、大分疲れたよね。」
「いえ、昨日、ご主人様がかけていただいた治癒魔法のおかげで、大分良くなっております。」
「でも、すごく軽いよ…。」
「これまで、そんなに食事をとっていなかったからです。」
「じゃ、これからはいっぱい美味しいものを食べような。」
 
 ディートリヒは俺の左肩に顔をくっつけているだろうか、彼女の髪からとても良い香りがする。
あ、俺、最近お風呂入っていないわ。
これまで、イヴァンさんからお湯をもらって身体拭いてただけだわ。クサイヨナ…。

「ディートリヒ、自分、おっさんで加齢臭だとか匂いが臭いと思う…。あまりくっつかない方が…。」
「良いんです。ご主人様の匂いです。私は好きです。」

 ふんか、ふんかしてる…。
でも、なんでこんな事するんだ? 彼女は奴隷にもなり、貴族の慰み者になっていたはずだ。

「ご主人様からは、私が小さかった頃に抱っこしていただいた父上と同じ匂いがいたします…。」
 
 自己嫌悪に陥った。
 自分のことしか考えていなかった。彼女のことを考えようとしていたのだろうが、それは彼女のこれまで受けてきた辱めに対しシンパシーを持っていただけで、本質的な部分を考えようとはしていなかった。
奴隷を買い、何かサプライズ的な何かを期待していた浅はかなエロ親父だった。
彼女のことを守ろうと思った決心は上辺だけだったんだ…。
 
 浮ついた気持ちを払った。勿論、マイジュニアの事なんてどこかに消えていった。

「すまん、ディートリヒ。自分は、君の父上の事も家族の事も何も知らない。例え知ったとしても今の俺では何もしてやることはできない。」
「それは承知しております。
戦に負けて捕虜になり奴隷になった時、私は国も家も捨てました。
今、私は天涯孤独の身です。これから一生お傍に置いていただくためにも、これまでの私の思いをすべてご主人様だけに申しておきます。」
 
 彼女は俺の肩にくっつけていた顔を上げ、静かに語り始めた。

「私はギィエ公国の騎士でした。昨年、リルバレル帝国との戦いに負け、リルバレル帝国の貴族の捕虜となりました。その後、両国の戦争は和平条約が結ばれ、今では何事もなかったかのように国交が結ばれていると聞き及んでおります。
負けた国の騎士が言うのも何ですが、ギィエは戦争に負けて捕虜を捕られたことを闇に葬ろうとしていたのかもしれませんね。
私は捕虜になった事も奴隷になった事にも後悔はしておりません。それが、神様が私に与えた試練であったと思っているからです。しかし、奴隷に落ちた姿は、ご主人様もご覧になられたように肘膝から下を切断され、獣と同じ扱いでございました…。その姿を見て…犯されている姿を見て貴族達は悦んでおりました…。私は泣きながら耐えました…。でも、でも…。」
「もう言わなくてもいい。君自身が君を蔑んでどうする。」
「私は奴隷以下の生活でした。」
「うん…。でも、これからは違うよ。」
「おそらく、ご主人様はそんなことをされないと分かっておりますし、信じております。ですが、拭いきれない過去を変えることはできません。」
「うん…。」

「ディートリヒ、今君は自分の国で言うPTSDという一種の病気なんだ。」
「ぴーてぃーえすでぃー?」
「そう。PTSD。過去のイヤな記憶がフラッシュバック…、いや…何度も思い出してしまい、不安になったりすることだ。」
「そうですか…。ぴーてぃーえすでぃーというのですか。」
「そう。PTSDは普通の病気とは少し違う。心の病気なんだ。」
「私は心の病なんですか。」
「多分そうだと思う。それを治すのはいろんな方法があるけど、例えばこれまでの経験をみんなに話したり相談したりすることで解決していく方法や、敢えてその経験を思い出し、それを克服していく方法なんてのもある。
もう一つは、これは治療法ではなく自己満足の域になってしまうけど、今の思いを別の思いに置き換えていくという方法もあるんじゃないかな。」
「そうですか…。ご主人様は博識なんですね。」
「だてに50年生きてはいないからね。」
 
 少し微笑んで、そう答える。

 彼女は、少し思案しながらも、目を伏せてもう一度話を繰り出す。

「ご主人様は、こんな過去を持っている私と一緒に居て問題はないのでしょうか…。」

「え?」
「ですから、奴隷となった私で…、こんな経験がある者を…、こんな私を受け入れていただけるものなのか…私は、もうご主人様無くして生きてはいけません。」

 あ、ディートリヒさん、それ、自尊理論ってやつだわ。
不安になっている時にやさしくされることで相手を好きになるってやつだ…。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...