地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第十二章

12-2 交錯する思い

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 夕方に店に戻り、メリアさんとディートリヒとで誰をどちらに住ませるか話し合いをする。

「クローヌは私、ディートリヒ、ナズナ、ベリル、ニコルですね。クラリッセ、サーシャ、ネーナも連れて行くとして、こちらのメイド長を誰にするかですね。」
「レイケシアさんではまだ難しいかな?」
「一人ではこれだけの人数を切り盛りしていくのは難しいでしょうね。」
「他に誰か…と言っても部屋がもう2部屋しか余っていないからな…。」
「それに、あのジーナとサーヤがこちら側に付く事を考えますと、部屋は客室一室だけ残る事になりますからね…。」

 本館、別館、3号店の部屋の間取りとそこに入るヒトを書いていく。

「クラリッセさん達にここまで来てもらって働いてもらうのも気が引けるし…。特にサーシャさんとネーナさんは個別行動が多くなると思うからね。」
「王宮、ホールワーズ伯爵家ですか…。帝国の動向もありますからね…。」

「旦那様、戻りました。」

 サーシャさんだ。

「お帰り。お疲れ様だったね。
 ひとまずお風呂入って。その後ゆっくりしてから報告を受けることでどうかな。」
「いえ、私は旦那様と奥様の意向を確認の上、もう一度王都に戻りますので…。」
「そんな大変な事になってるのかい?」
「はい…。」

聞けば、ホールワーズ伯爵家は、昔から不穏な動きがあり、エルドリッチ公爵にその動きを牽制してもらっていたようだが、エルドリッチ公爵も高齢になり、後継ぎが居ないことから、侯爵領をも侵害するような暴挙に出ているようだ。
ホールワーズ伯爵の後ろには帝国の影が見え隠れしているようだが、だれも確証に至っていないということで王宮も静観しているだけという状況となっている。

「メリアさん、ひとつ聞きたいんだが、ホールワーズ領、エルドリッチ領が後継者不在となったらどうなるんだ?」
「エルドリッチ公爵については後継者を探し、養子縁組という体をとり侯爵家を残しますね。
 ただ、そこまでの度量を持った貴族が居るかと言われれば、居ないでしょう。
 ホールワーズについては、真に帝国と関係があり、傾国を企んでいるのであればお家断絶、一族郎党すべて処刑という流れでしょう。」
「完全にクロならね。」
「旦那様、奥様、王宮はお二人にホールワーズ家の動向を探り、逆心有りと判断すれば、後顧の憂いを立てとの仰せです。」
「へ?何でそんな事、俺たちがしなければいけなんだ?」
「と申しますと?」
「確かにメリアさんは俺のお目付け役としてここに居るってのが建前だが、すでにアドフォード家のメリアさんでは無い。それに貴族の切った張ったに首を突っ込みたくない。
 さらに、王宮が心配しているなら王宮で対処すればいい。
 それを俺たちがして、何の得があるんだ?」
「カズさんのおっしゃる通りですね。王宮…いえ、兄上がそんな事を考えるとは思えません。」
「枢機卿のお考えです…。」
「やはりそうですか…。」
「誰だ?その枢機卿というヤツは?」

ブルボン王朝時代のリシュリューのようなやつか?

「国を憂う、思うのは勝手だよ。しかしな、他人にやらせて発言した自分が動かないってのは好かない。
 王様に忖度しているかどうかは知らないが、下手すれば俺はそいつも危険な奴と見なすぞ。
 とはいえ、メリアさんの手前、無下にもできないという事もあるし、サーシャさんの事もあるから…、そうだな、『善処します』とだけ伝えてくれないか。」
「旦那様、その意味は?」
「やってみるだけはやりますが、すべて責任をとれるわけではありません。
 要は、やりますが結果は伴いません。って事だよ。」
「それは、この国がどうなろうと良いという考えになるかと思いますが。」
「あのね…、俺はこの国の貴族でも無いし、愛国心を持っている訳でもない。
単なる“渡り人”であり、イヤならこの国を出ていく。それだけの事。
 そんなヒトにこの国の内情を探れとか、貴族を懲らしめろというのはお門違いだよ。
 やるなら、お前らだけでやれ、それが答えだと思う。
 ただし、俺たちに危害を加える者は誰であろうと潰す。
それが貴族であろうと枢機卿であろうと王宮であろうと…。」
「サーシャ、私が兄上に手紙を書きますので、その手紙を持って行きなさい。」
「分かりました。」

メリアさんとサーシャさんが部屋を出る。ディートリヒと俺だけが残った。

「カズ様、あのような回答でよろしいのですか?」
「ん?俺は王都に何の恩義も受けていないけど?」
「奥方様の立場もお考えください。」
「あ、今は大丈夫だよ。だって、建前上はお目付け役だからね。
 彼女がお目付け役以外であれば、少しはお手伝いはするが、それは王宮の話だろ。
 お目付け役が俺に依頼するなんておかしな話じゃないか?」
「それで、何も手を打たないのですか?」
「いや、打つよ。現にここに間者みたいな奴隷が2名いるからね。
 その出所は把握し、諸悪の根源を断ち切る。それは、俺たちが笑顔で暮らしていくためにすべき事であって、王宮のためにやることではない。そんなところだよ。」

テーブルにある冷めたコーヒーを飲み干す。
 結局、動く奴と動かない奴はどの世界であっても同じだ。
しかし、間違えちゃいけないのは、動かない奴が動く奴の上に立っていると勘違いする事だ。
そのことを分からせないと、同じ過ちを犯し、国が衰退していく。
某番組ではないが、「事件は現場で起きている。本部はすっこんどれ!」だと感じる。

どす黒い考えが浮かんだ。

「なぁ、ディートリヒ。もし俺がここで帝国と事を構えることになれば、王宮はどうすると思う?」
「事を構えるとは?」
「一戦交えるか、それとも俺が懐柔し帝国と密接な関係を築くとか…。」
「個人的には前者であれば従いたいですが、後者は…。」
「そうだよな。ただ、ディートリヒの嫌いなのは帝国の貴族であって国じゃないんだよな。」
「そうですが…。
カズ様はどのようなお考えを持っていらっしゃるのでしょうか。」
「いやね、帝国のトップと腹割って話して、ディートリヒに辱めを与えた貴族を吊るし出し、一族郎党だっけ?すべて根絶やしにさせる。それをギイエ公国にも伝え、あいつらの所業もすべて明るみに出させた上で、公の場で謝罪させるって壮大な計画だけど。」
「そんな事をしたら、ギイエ公国が滅びますよ。それにまた戦争が起きます。」
「そうか…、んじゃ、帝国の貴族だけを殺すってのは?」
「それも問題となります。とにかくカズ様は“繚乱”を守ってくださるだけで私は嬉しいです。」

つついと傍に寄ったディートリヒが口づけをしてくれる。

「これは、私の事を考えて下さったお礼です。」
「あ、ありがとな…。でも、俺は忘れてないから。」
「ふふ、でも私は今が一番幸せです。」

 メリアさんが戻って来る。

「カズさん…、私の立場を考えますと、何もできないというのが口惜しくてなりません。」
「お目付け役という立場で考えるとそうなるよね。板挟みにさせてしまってすまない。」
「いえ…。でも、このままにしておくのですか?」
「しないよ。だから、ナズナとサーシャさん、ネーナさんにはもう少し働いてもらうこととなるけど、構わないかな?」
「サーシャとネーナは良いですが、ナズナさんはカズさんの伴侶ですよ。
 そんな危ない真似をさせて良いのですか?」
「彼女は強いよ。多分、俺たちよりもね。
 それに、彼女たちの一族が動くことになればどうなる?」
「狐族でしたか?」
「いや、厳密に言えば“妖狐族”だ。」
「名前は聞いたことがありますが…。」
「カルムさんに聞くと良いよ。それに、カルムさんは既に動いていると思うから。
 さて、夕ご飯を作ろうか。今晩は何が食べたい?」

 3人でハンバーグを作ることになった。
肉をこね、丸め、焼く。ハンバーグの上に目玉焼きを乗せる。
付け合わせも作り、皆を待つ。
しかし、凄い量だ。育ち盛りの子がいっぱいいるから、70個以上は作った。

皆が揃い食卓につく。
「では、みんなで食べましょう!いただきます!」

皆がっつき始めた。
奴隷の4人もまだオドオドしているが、それでも食べている。
うん。それで良い。
食事は皆で美味しく食べるのが“繚乱”のルールだ。
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