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ホテルに入ると慣れた足取りで男はバスタブにお湯を張り始めた。
彰仁のコートとスーツを受け取るとハンガーにかけ、鼻歌を歌いながら冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注いだ。
こんもりと泡が盛り上がっている。
「どうぞ」
「ありがと……」
並んでベッドに腰かけると、ぴたりと寄り添うように身体をすり寄せた。
ふわりと甘い香りが男から届く。マリンテイストで透明感のある匂いは夜に不似合いなほど清潔だった。
「名前聞いていい?」
耳たぶを甘くかみながら聞かれて、背筋に電流が走った。おっ、というように男の細い目が見開かれる。
「不感症ってわけじゃないんだ?」
「……じゃ、ない」
「だよね、いい反応するし」
重なる手の甲を撫でられるととろけるような心地になる。男の触れ方はいちいち官能を呼び起こす。
「あんたも、なんて呼べばいい」
一方的にされるのも腹立たしくておでこをぶつけながら聞く。
「花村 遊里。遊里でいいよ」
「遊里」
「うん、そう……彰仁さん」
顎を持ち上げられて軽く唇が触れ合った。
男の唇なのにやけに柔らかくて、ふんわりと羽のように滑らかだ。何度かちゅちゅっと音を立てながら弾むようなキスを繰り返す。
「男とはイケるの?」
聞かれて首を振った。
男とどうこうするなんて今までの彰仁なら絶対になかった。考えたこともない。女の子は大好きなのだ。
可愛くていい匂いがして柔らかくて優しい。
「男なんか興味ないよ」
「そうなの? じゃあ、俺が初めてなんだね」
遊里のキスは巧みで、ただ触れ合っているだけなのに頭の芯がぼんやりとしていく。自分から求めるように追いかけてしまって、触れ合ったキスの合間にふわりと笑われた。
「彰仁さん、キス好きだね」
「好きだよ。気持ちいいし」
「ん、俺も好き。なんか愛おしくなってくるよね」
絶対的に親しい距離のキス。
好きの延長線上に成り立つ行為のはずだったのに、今、知らない男と唇を触れ合わせている。
自分でも何をしているのか理由がつかない。
正気に戻ったら絶対に後悔するのがわかっててキスがやめられない。
それは気持ちいいからというより、遊里が彰仁を受け入れているのがわかるからだ。
ほんの数分前まで関わることのなかった赤の他人と、小泉以上の接近戦をしている不思議に彰仁はつい笑ってしまった。
「なに?」
「ん-ん、こんなこと自分に起こりえたんだなって」
「ああ、彰仁さん遊んだりしなかったんだ?」
「しないよ。こんなこと彼女としかしない」
「そっか、誠実なんだ。じゃあそれも俺が初体験だね」
今頃小泉はどうしているだろう。
マジで意味が分からんと言うような顔をしていた。大丈夫だおれもわけがわからん。
休み明けに仕事に行ったら絶対にどうなったか聞かれるだろうな。すぐにホテルに入ったって知ったらどんな顔をするかな。
「ああ、他の人の事考えてる?」
喉を舐め上げられて軽く噛まれた。
「気が散りすぎなんじゃないの?」
「そんなことないよ。さっきの同僚はどうしたかなって思っただけ」
「ほら他の男の事考えてた。でも……ふふ、変な顔してたよね。大丈夫? 職場で変な噂を立てられない?」
少し考えて「それはないかな」と答えた。
大学時代から一緒だったけれど、そういう噂を広めるようなヤツじゃない。だからあの悩みも打ち明けることが出来たのだ。
「ならいいけど」
ちょうどお風呂の準備ができたらしく、遊里は彰仁のワイシャツのボタンをはずしながら笑みを浮かべた。
「一緒に入ろう」
互いに脱がしっこをすると、鍛えているのか遊里の身体は綺麗な筋肉に覆われていた。年齢的にそろそろ彰仁も何とかしないとと思っていたところだ。
理想的なスタイルに見惚れていると遊里は自分の腹へと彰仁の手を取った。
「いいよ触って。好きにして」
「だいぶ鍛えてる?」
「ん-、まあジムには通っているかな。あと走ったり泳いだり。体力を使う仕事だから筋肉があったほうが楽で」
聞けばフリーのミュージシャンだという。
どんな楽器でも弾けるオールマイティなプレーヤーで、あちこちのスタジオに呼ばれたり自分でもライブをしたりするそうだ。メインはベースと言われて納得がいった。
ちょっと色っぽくて体の中心を震わせる重低音が遊里と重なる。
「不健康そうって言われるけど、どっちかっていうと体力勝負だからね。ぶっ通しでプレイする時とかダメな奴はすぐに消えてく」
彰仁のコートとスーツを受け取るとハンガーにかけ、鼻歌を歌いながら冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注いだ。
こんもりと泡が盛り上がっている。
「どうぞ」
「ありがと……」
並んでベッドに腰かけると、ぴたりと寄り添うように身体をすり寄せた。
ふわりと甘い香りが男から届く。マリンテイストで透明感のある匂いは夜に不似合いなほど清潔だった。
「名前聞いていい?」
耳たぶを甘くかみながら聞かれて、背筋に電流が走った。おっ、というように男の細い目が見開かれる。
「不感症ってわけじゃないんだ?」
「……じゃ、ない」
「だよね、いい反応するし」
重なる手の甲を撫でられるととろけるような心地になる。男の触れ方はいちいち官能を呼び起こす。
「あんたも、なんて呼べばいい」
一方的にされるのも腹立たしくておでこをぶつけながら聞く。
「花村 遊里。遊里でいいよ」
「遊里」
「うん、そう……彰仁さん」
顎を持ち上げられて軽く唇が触れ合った。
男の唇なのにやけに柔らかくて、ふんわりと羽のように滑らかだ。何度かちゅちゅっと音を立てながら弾むようなキスを繰り返す。
「男とはイケるの?」
聞かれて首を振った。
男とどうこうするなんて今までの彰仁なら絶対になかった。考えたこともない。女の子は大好きなのだ。
可愛くていい匂いがして柔らかくて優しい。
「男なんか興味ないよ」
「そうなの? じゃあ、俺が初めてなんだね」
遊里のキスは巧みで、ただ触れ合っているだけなのに頭の芯がぼんやりとしていく。自分から求めるように追いかけてしまって、触れ合ったキスの合間にふわりと笑われた。
「彰仁さん、キス好きだね」
「好きだよ。気持ちいいし」
「ん、俺も好き。なんか愛おしくなってくるよね」
絶対的に親しい距離のキス。
好きの延長線上に成り立つ行為のはずだったのに、今、知らない男と唇を触れ合わせている。
自分でも何をしているのか理由がつかない。
正気に戻ったら絶対に後悔するのがわかっててキスがやめられない。
それは気持ちいいからというより、遊里が彰仁を受け入れているのがわかるからだ。
ほんの数分前まで関わることのなかった赤の他人と、小泉以上の接近戦をしている不思議に彰仁はつい笑ってしまった。
「なに?」
「ん-ん、こんなこと自分に起こりえたんだなって」
「ああ、彰仁さん遊んだりしなかったんだ?」
「しないよ。こんなこと彼女としかしない」
「そっか、誠実なんだ。じゃあそれも俺が初体験だね」
今頃小泉はどうしているだろう。
マジで意味が分からんと言うような顔をしていた。大丈夫だおれもわけがわからん。
休み明けに仕事に行ったら絶対にどうなったか聞かれるだろうな。すぐにホテルに入ったって知ったらどんな顔をするかな。
「ああ、他の人の事考えてる?」
喉を舐め上げられて軽く噛まれた。
「気が散りすぎなんじゃないの?」
「そんなことないよ。さっきの同僚はどうしたかなって思っただけ」
「ほら他の男の事考えてた。でも……ふふ、変な顔してたよね。大丈夫? 職場で変な噂を立てられない?」
少し考えて「それはないかな」と答えた。
大学時代から一緒だったけれど、そういう噂を広めるようなヤツじゃない。だからあの悩みも打ち明けることが出来たのだ。
「ならいいけど」
ちょうどお風呂の準備ができたらしく、遊里は彰仁のワイシャツのボタンをはずしながら笑みを浮かべた。
「一緒に入ろう」
互いに脱がしっこをすると、鍛えているのか遊里の身体は綺麗な筋肉に覆われていた。年齢的にそろそろ彰仁も何とかしないとと思っていたところだ。
理想的なスタイルに見惚れていると遊里は自分の腹へと彰仁の手を取った。
「いいよ触って。好きにして」
「だいぶ鍛えてる?」
「ん-、まあジムには通っているかな。あと走ったり泳いだり。体力を使う仕事だから筋肉があったほうが楽で」
聞けばフリーのミュージシャンだという。
どんな楽器でも弾けるオールマイティなプレーヤーで、あちこちのスタジオに呼ばれたり自分でもライブをしたりするそうだ。メインはベースと言われて納得がいった。
ちょっと色っぽくて体の中心を震わせる重低音が遊里と重なる。
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