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郵便受けに真っ白くかしこまった手紙が入っていた。
兄と知らない女の人の連名に慌てて中身を開く。丁寧なあいさつとともに入っていたのは結婚式の招待状だった。
いつの間にこんなことになっていたのか、全然知らされていなかった。
一番上の兄は数年前に結婚して今は海外支店に勤務中だ。だけど下の兄には彼女らしい気配はなかったはずだ。
まだ早い時間だから仕事中かもしれないと思ったけれど、直接話したくて通話ボタンを押す。
すぐに兄は電話に出た。
「彰仁か。久しぶりだな」
「優兄さんもお元気そうで」
3つ上の兄の優仁は名前の通りおっとりと優しい人だった。よく勉強も見てくれたし何かとできないでいる彰仁に根気良く付き合ってくれた。
お互いに仕事が忙しくて会うことも少なくなっていたけれど、こんなおめでたいときはすぐにでも祝福を送りたい。
「結婚式の招待状が届いたよ。もっと早く教えて欲しかったよ」
「ああごめんな。急に決まったことでさ」
「もしかして」
照れる口調に問いかけるとデレデレと兄は答えた。
「お恥ずかしながらそうなんだよ。安定期に入ったら式を挙げようって決まってな」
「ダブルでおめでとうだな」
そうかあの兄が父になるのか。
きっと優しくて懐の広い父になるだろう。兄の声を聴いているだけで幸せなのが伝わってくる。
きっと相手もいい人なんだろう。
「彼女も彰仁に会いたがっているから近いうちに時間を作れるか?」
「当たり前だろ。いつでも言ってくれ」
「ありがとう、彼女の体調がすぐれている時にでも連絡する」
電話を切った後も高揚した気分が続いていた。
兄が結婚。
もちろん上の兄の結婚式にも出ているけれど、あの時はまだ若かったし結婚が遠い話に思えたから他人事のように感じていた。
さすがにこの年になってくると友人にも結婚したり子供が生まれた奴も増えてきた。次はお前だな、なんて言われて笑っていたけど遊里と付き合っていればそれはずっと他人事のままなのだ。
(なんか色々とタイムリーだよな)
遊里といることの意味を考える。
一緒にいると楽しいしセックスも気持ちがいい。心から好きだと思えるけど未来がない。
こんな風に誰かに紹介することも、結婚や出産とも縁がなくなる。
それは少し怖い。
普通から外れることの不安を知っているからこそ、遊里との関係に迷いが生じる。
こんな事を遊里に言ったら傷つけるだろう。でももしかしたら勘のいいあいつは気がついているかもしれない。
兄から連絡が来たのはそれから数日後のことだった。
ちょうど実家に行くから、そこでみんなで会おうということになった。彰仁も両親に会うのは久しぶりだ。
手土産を持って実家に行くと記憶より歳をとった両親が彰仁を迎え入れた。懐かしい実家の匂いに一気に寛いだ気持ちになる。
「元気だった? あなた本当に顔を出してくれないんだから」
「ごめんね、仕事が忙しくて」
「そればっかり」
ぷんっと頬を膨らませるのは子供の時に見た母のままでほっとした。
父も白髪が増えていたけれど貫禄はそのままだった。
「仕事はうまくいっているのか?」
「おかげさまで」
「そうか。それは何よりだ」
並んでリビングに入ると先に来ていた兄と婚約者が彰仁を待っていた。
「彰仁! 元気そうだな」
「優兄さんも」
昔はすごく華奢だったのに今はすこしふくよかになっている。幸せ太りってやつなのかもしれない。
その隣には優仁に負けないくらい柔らかな笑みを浮かべた女の人が寄り添っている。綺麗に整えられた髪が艶やかに揺れた。
「はじめまして、愛理です」
「彰仁です。兄がお世話になっています」
優仁は挨拶を交わすふたりをニコニコと眺めている。
二人はとてもお似合いで彰仁も釣られたように頬を緩めた。愛理を見つめる兄の視線ははたから見ても甘くて愛おしさに満ちていた。
「まずは座って。愛理ちゃんは無理しないでゆっくりしててね」
母ははりきって料理を作ったらしく家中にいい匂いが漂っている。父がそのサポートで言われるままにグラスや飲み物を出している。
「手伝うよ」
勝手の変わっていないキッチンは懐かしくて聞かなくてもどこに何があるのかわかる。勝手にいじけて距離を置いた彰仁を変わらず受け入れてくれる実家にジンとこみあげてくるものがあった。
テーブルの上はすぐにいっぱいになった。
たくさんの料理はどれも彰仁や優仁の好きなものばかり。グラスを掲げて乾杯をするとすぐに料理に口をつけた。
セレブだなんだと言われているけれど母は昔から自分で料理をしたがる人だった。口に入れるものがその人を作るという持論の元、どんなに忙しくても彰仁たちのお腹を満たしてくれた。
今も変わらない愛情のこもった味だ。
この優しさに気がつかなかった彰仁はどれだけ子供だったのか。恥ずかしい。
「美味しい。母さんの味だ」
ポツリとこぼすと母は一瞬驚いて、それからすぐに嬉しそうに笑った。
「彰仁に褒められると嬉しいわ」
「美味しいよ母さん」
「優仁も……やだ、」
感極まったように母はまぶたを押えた。
「やだわ。嬉しくて。年を取ると涙腺が緩くなって困るわね」
愛理はそれを見て一緒に涙腺を緩ませる。慌てたように兄が肩を抱いて、父は母に寄り添った。
人に堂々と紹介できるパートナーの存在を目の当たりにして胸がチクリと痛んだ。もしここに遊里がいたとしても友人以上の行動を取れるはずがない。
人に言えない関係とはそういうことなのだ。
兄と知らない女の人の連名に慌てて中身を開く。丁寧なあいさつとともに入っていたのは結婚式の招待状だった。
いつの間にこんなことになっていたのか、全然知らされていなかった。
一番上の兄は数年前に結婚して今は海外支店に勤務中だ。だけど下の兄には彼女らしい気配はなかったはずだ。
まだ早い時間だから仕事中かもしれないと思ったけれど、直接話したくて通話ボタンを押す。
すぐに兄は電話に出た。
「彰仁か。久しぶりだな」
「優兄さんもお元気そうで」
3つ上の兄の優仁は名前の通りおっとりと優しい人だった。よく勉強も見てくれたし何かとできないでいる彰仁に根気良く付き合ってくれた。
お互いに仕事が忙しくて会うことも少なくなっていたけれど、こんなおめでたいときはすぐにでも祝福を送りたい。
「結婚式の招待状が届いたよ。もっと早く教えて欲しかったよ」
「ああごめんな。急に決まったことでさ」
「もしかして」
照れる口調に問いかけるとデレデレと兄は答えた。
「お恥ずかしながらそうなんだよ。安定期に入ったら式を挙げようって決まってな」
「ダブルでおめでとうだな」
そうかあの兄が父になるのか。
きっと優しくて懐の広い父になるだろう。兄の声を聴いているだけで幸せなのが伝わってくる。
きっと相手もいい人なんだろう。
「彼女も彰仁に会いたがっているから近いうちに時間を作れるか?」
「当たり前だろ。いつでも言ってくれ」
「ありがとう、彼女の体調がすぐれている時にでも連絡する」
電話を切った後も高揚した気分が続いていた。
兄が結婚。
もちろん上の兄の結婚式にも出ているけれど、あの時はまだ若かったし結婚が遠い話に思えたから他人事のように感じていた。
さすがにこの年になってくると友人にも結婚したり子供が生まれた奴も増えてきた。次はお前だな、なんて言われて笑っていたけど遊里と付き合っていればそれはずっと他人事のままなのだ。
(なんか色々とタイムリーだよな)
遊里といることの意味を考える。
一緒にいると楽しいしセックスも気持ちがいい。心から好きだと思えるけど未来がない。
こんな風に誰かに紹介することも、結婚や出産とも縁がなくなる。
それは少し怖い。
普通から外れることの不安を知っているからこそ、遊里との関係に迷いが生じる。
こんな事を遊里に言ったら傷つけるだろう。でももしかしたら勘のいいあいつは気がついているかもしれない。
兄から連絡が来たのはそれから数日後のことだった。
ちょうど実家に行くから、そこでみんなで会おうということになった。彰仁も両親に会うのは久しぶりだ。
手土産を持って実家に行くと記憶より歳をとった両親が彰仁を迎え入れた。懐かしい実家の匂いに一気に寛いだ気持ちになる。
「元気だった? あなた本当に顔を出してくれないんだから」
「ごめんね、仕事が忙しくて」
「そればっかり」
ぷんっと頬を膨らませるのは子供の時に見た母のままでほっとした。
父も白髪が増えていたけれど貫禄はそのままだった。
「仕事はうまくいっているのか?」
「おかげさまで」
「そうか。それは何よりだ」
並んでリビングに入ると先に来ていた兄と婚約者が彰仁を待っていた。
「彰仁! 元気そうだな」
「優兄さんも」
昔はすごく華奢だったのに今はすこしふくよかになっている。幸せ太りってやつなのかもしれない。
その隣には優仁に負けないくらい柔らかな笑みを浮かべた女の人が寄り添っている。綺麗に整えられた髪が艶やかに揺れた。
「はじめまして、愛理です」
「彰仁です。兄がお世話になっています」
優仁は挨拶を交わすふたりをニコニコと眺めている。
二人はとてもお似合いで彰仁も釣られたように頬を緩めた。愛理を見つめる兄の視線ははたから見ても甘くて愛おしさに満ちていた。
「まずは座って。愛理ちゃんは無理しないでゆっくりしててね」
母ははりきって料理を作ったらしく家中にいい匂いが漂っている。父がそのサポートで言われるままにグラスや飲み物を出している。
「手伝うよ」
勝手の変わっていないキッチンは懐かしくて聞かなくてもどこに何があるのかわかる。勝手にいじけて距離を置いた彰仁を変わらず受け入れてくれる実家にジンとこみあげてくるものがあった。
テーブルの上はすぐにいっぱいになった。
たくさんの料理はどれも彰仁や優仁の好きなものばかり。グラスを掲げて乾杯をするとすぐに料理に口をつけた。
セレブだなんだと言われているけれど母は昔から自分で料理をしたがる人だった。口に入れるものがその人を作るという持論の元、どんなに忙しくても彰仁たちのお腹を満たしてくれた。
今も変わらない愛情のこもった味だ。
この優しさに気がつかなかった彰仁はどれだけ子供だったのか。恥ずかしい。
「美味しい。母さんの味だ」
ポツリとこぼすと母は一瞬驚いて、それからすぐに嬉しそうに笑った。
「彰仁に褒められると嬉しいわ」
「美味しいよ母さん」
「優仁も……やだ、」
感極まったように母はまぶたを押えた。
「やだわ。嬉しくて。年を取ると涙腺が緩くなって困るわね」
愛理はそれを見て一緒に涙腺を緩ませる。慌てたように兄が肩を抱いて、父は母に寄り添った。
人に堂々と紹介できるパートナーの存在を目の当たりにして胸がチクリと痛んだ。もしここに遊里がいたとしても友人以上の行動を取れるはずがない。
人に言えない関係とはそういうことなのだ。
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