雪の王と雪の男

乃木のき

文字の大きさ
10 / 18

10

 人間には考えられない速さでふもとのドラッグストアにつくと、雪華はキラキラと瞳を輝かせてお菓子コーナーやアイスケースを覗き込んでいる。食べ物がなくても生きていける雪華にとって食事は晃成に合わせてのごっこ遊びらしい。
 本当に美味しいのはごはんよりも甘いデザートだと言い張る。

 ローションを買いに来たはずが買い物かごにたくさんのお菓子が放り込まれてあっという間にいっぱいになる。

「ちょっと雪華サン、こんなにお菓子ばっかり食べたら太りますよ。ただでさえゴロゴロしているんだから」
 晃成の小言に「セックスすればその分消費できるから問題ナシっ」と笑いかけた。すれ違ったお客さんがギョッとしたように振り返る。

「こんな場所で! そんなハレンチな言葉を出さないでください」

 慌てて口を押えると手のひらをベロリと舐められた。真っ赤になってひっこめようとする手を捕まえてもう一度指の股に舌を這わす。
「誰も見てないよ」

 高ぶりを愛するようにベルベットの柔らかさが動く。
 晃成は全身を真っ赤に染めた。これくらいで感じてしまう自分も情けない。声を押し殺すように口を押えた。

「雪華さん……それ以上、は、ちょっと……っ」
 引っ込めようとすると最後に指先にチュっと音を立てるキスを送り、やっと離してくれた。手のひらがジンジンと敏感になっている。

「ちょっとトイレに行ってくるので……カート、見ていてください」
「はーい。ごゆっくりー」

 笑いを含んだ声色にさらに頬を染めた。
 しっかりと興奮を萌した下半身が痛いくらいに張り詰めている。うつむきながらトイレの個室へと駆け込んだ。
 ズボンを下げると勢いよく飛び出した。

「ほんとにあの人は……っ」
 先端はいじらしいしずくを零し臨戦態勢だ。こんな場所で行為に及ぶのも憚られ、むりやり用を足した。もう少し待てば通常に戻るだろう。

 ため息をつきながら腰を掛けていると、ドアが開く音がしてどやどやと人が入ってきた。数人いるのだろう賑やかになる。

「つーかどこにいんだよあいつ」
 ガラの悪そうな声がドア越しに聞こえた。聞くつもりはないのに大きな声は嫌でも耳に届いた。

「せっかくニュースにも出て再生数もあがってたっつーのに。この天気で全然見つかんねー」
「いい加減捕まってくんねーかなあ。ゆ・き・お・と・こ・くん」
「ただのでっかいオッサンでもそれっぽければいいよな。フルボッコでいきゃ捕まえられるだろ」

 馬鹿にした響きに一斉に笑いが起こる。
 まさか、と思うけど間違いない。
 こいつらが晃成を見つけて晒した奴らだ。ギリっと唇をかんだ。

 今飛び出していったらやめさせることはできるだろうか。
 これ以上付きまとうなと脅したら。
 だけど騒ぎになって人が集まってきた方がやっかいだ。それこそたくさんのカメラを向けられてしまう。

 一緒にいる雪華に害が及んだらと思うのも怖かった。
 あの人だけは守らなくては。

 奴らが出ていくのを確認してから、そっと個室を出た。
 とにかく雪華に報告しなければ。何も知らずにいたら雪華まで一緒につかまってしまう。彼らに見つからないルートを探して、早く家に帰ろう。

 トイレから出て雪華を探した。
 彼を一人にしたことが突然怖くなる。目を惹く美貌にあいつらが群がっていく想像が膨らんで自然と早足になった。
 
 雪華はすぐに見つかった。満足そうにカートにジュースを入れている。危ないことは何もなかったようでほっと息をついた。

「雪華さん」
「おー。遅かったじゃん。気持ちよかった?」
「そうじゃなくて!」
 
 いつもの調子の彼を見たら力が抜けた。
 緊張していたのだ。
 へたりと座り込んだ晃成に驚いたように近づいてくる。

「どうした。うまくイけなかったの?」
「……違います」

 晃成は彼の腕を掴むと、「何もなくてよかった」と小さく笑った。
 雪華にトイレでの出来事を報告すると、静かに聞いていた雪華の温度が一瞬で下がる。
 雪華の身体からキラキラとダイヤモンドダストが散る。

「しょーもね奴らだなー」

 雪華はそう吐き捨てると大量にローションをカゴにいれレジへと並んだ。黙っていると怖いくらいの美貌が静かな怒りをたたえている。
 普段のホワホワした姿はなりを潜め、うかつに声をかけられない雰囲気があたりと圧巻した。

 外の出るとまたもや暴風雪で自分の足元さえ見えないくらいの雪が吹き荒れていた。まるで雪華の気持ちを表しているように風雪が渦巻く。

「晃成、ちょっとおいで」
 雪華は着ていたコートに晃成を包むと、強く抱きしめた。手に持っていた袋がガサリと音を立てる。
「やっぱでかいからはみ出すな」
 コートからはみ出す晃成を笑う雪華はいつもの柔らかさを取り戻している。

「ちょ、雪華さんっ人前……」
「しっかり捕まってろ」

 え、と思った瞬間には景色が変わっていた。
 何か起きているのか考える間もなく遥か下に白く煙る雪原が見えていた。

「雪華さ、」

 次の瞬きで自宅の玄関の前にいた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。 しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい…… ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが…… だって第三王子には前世の記憶があったから! といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。 濡れ場回にはタイトルに※をいれています おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。 この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。