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第二章 Lion Heart
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「はやく治して元気な蜜を見せてな」
「……」
優しい言葉をかけられたらどうしていいかわからなくなる。
いなくなるくせに。
どうして周防は好きなのに離れることが出来るのか。なんでそんなに平気なの。蜜はまだ受け止めきれないというのに。
「先生、行くとしたらいつなの」
「急にどうこうできるわけじゃないから来年度からかな」
「じゃあ、あと半年……」
その頃の蜜は3年生に進級していて、受験生として忙しくするだろう。
二人とも時間が合わなくなってフェードアウト。そんな未来が見えてしまうのは悲観的過ぎるんだろうか。
「先生」
頭がズキズキと痛んだ。
何も考えないで眠り続けたい。
「少し休んでもいいかな」
「あ、そうだな。ごめん、帰るから……ゆっくり休んで」
目を閉じると周防がそっと部屋を出ていくのが気配でわかった。パタリとドアがしまり静寂だけの部屋になる。
一人になると嫌な考えばかりが頭をよぎる。
修学旅行を前にこんなことになるなんて思ってもいかなかった。
初めての旅行だしどこかでデートできればいいな、なんてノンキなことを考えていた数日前の自分が馬鹿みたいで笑ってしまう。
いつまでもこの時間が続くと思ってた。
卒業するまで周防とこうして、同じような時間を重ねていけると当然のように思っていた。
馬鹿だ。
時間なんて残酷に流れていくし、環境だって一瞬で変わっていくのに。
モヤモヤとした気持ちはずっと晴れなくて、周防と顔を合わせてもいつものように笑うことができなかった。
どこかがずっと引っかかって心が強ばったまま。
周防が話しかけてきても表面上は普通にできても心が拒絶する。
そうか。
こうやって恋って終わっていくんだなと冷めた気持ちでそれを見ている。
こんなに好きなのに。
周防とうまくやっていく自信がすっかりなくなってしまった。
「そーれーでーレオくんは悩んでるわけなんですか」
放課後の教務室。
周防は小石川と向かい合ってコーヒーを飲んでいた。
勘のいい小石川に蜜との不協和音を見抜かれ洗いざらい吐き出すことになった。彼の誘導尋問に引っかかると一瞬にして丸裸にされてしまう。
「お前、マジで刑事とかなったほうがいいんじゃないの」
不貞腐れたように呟く周防に呆れたような視線が届く。
「いやさ~前から思っていたけどレオってほんと不器用だよな。なんで真正面からぶつかっちゃうかなあ。もっとうまく伝える方法とかあったんじゃないの? みっつはまだ高校生。10代なんだからさ、ガラスのハートじゃん」
「わかってるよそんなもん」
あの日、母校に転勤するかもと話してから蜜の様子がおかしくなった。
どれだけ好きだと告げても心が離れてしまったような。表面上は普通なのにそっぽを向かれている感覚。
話しかけてもスルっとそらされるし視線さえ合わせてくれない。ぎこちない蜜の様子にお手上げだった。
「あーどうしたらいいんだあー」
頭を抱えてしまう。
母校からは時々様子を探る連絡が来ていた。時間がある時には練習に顔を出してくれと、さり気ない催促。
それに周防にはもう一つ問題があった。
母親のことだ。
これを機に独立しようかと思っているけど、そうなれば母を一人置いていくことになる。さすがにそれは難しい。
一人で決めるわけにはいかず、それも家族で話し合わなくてはならない。
やっと踏み出そうと思った一歩はあまりにも重たく、ズブズブと沈んでいくようだ。
「俺としてはレオが前を向いてくれたのがすっげー嬉しいよ。確かに不幸な事故ではあったけどあの時から解放されてくれるならそれが一番いい。もう10年もたつし時効だろ」
「……そう、かな」
「まあ。いざって時にはみっつのことは任せてよ」
ウインクを送りながらとんでもないことを言い出したので、目つぶしをしてやった。マジで勘弁してくれ。冗談じゃない。
「おま!! そういうとこ。子供かよっ」
「うっさい。絶対渡さないからな」
自分勝手でも身勝手でも構わないから、蜜だけは離さない。絶対に。
「……」
優しい言葉をかけられたらどうしていいかわからなくなる。
いなくなるくせに。
どうして周防は好きなのに離れることが出来るのか。なんでそんなに平気なの。蜜はまだ受け止めきれないというのに。
「先生、行くとしたらいつなの」
「急にどうこうできるわけじゃないから来年度からかな」
「じゃあ、あと半年……」
その頃の蜜は3年生に進級していて、受験生として忙しくするだろう。
二人とも時間が合わなくなってフェードアウト。そんな未来が見えてしまうのは悲観的過ぎるんだろうか。
「先生」
頭がズキズキと痛んだ。
何も考えないで眠り続けたい。
「少し休んでもいいかな」
「あ、そうだな。ごめん、帰るから……ゆっくり休んで」
目を閉じると周防がそっと部屋を出ていくのが気配でわかった。パタリとドアがしまり静寂だけの部屋になる。
一人になると嫌な考えばかりが頭をよぎる。
修学旅行を前にこんなことになるなんて思ってもいかなかった。
初めての旅行だしどこかでデートできればいいな、なんてノンキなことを考えていた数日前の自分が馬鹿みたいで笑ってしまう。
いつまでもこの時間が続くと思ってた。
卒業するまで周防とこうして、同じような時間を重ねていけると当然のように思っていた。
馬鹿だ。
時間なんて残酷に流れていくし、環境だって一瞬で変わっていくのに。
モヤモヤとした気持ちはずっと晴れなくて、周防と顔を合わせてもいつものように笑うことができなかった。
どこかがずっと引っかかって心が強ばったまま。
周防が話しかけてきても表面上は普通にできても心が拒絶する。
そうか。
こうやって恋って終わっていくんだなと冷めた気持ちでそれを見ている。
こんなに好きなのに。
周防とうまくやっていく自信がすっかりなくなってしまった。
「そーれーでーレオくんは悩んでるわけなんですか」
放課後の教務室。
周防は小石川と向かい合ってコーヒーを飲んでいた。
勘のいい小石川に蜜との不協和音を見抜かれ洗いざらい吐き出すことになった。彼の誘導尋問に引っかかると一瞬にして丸裸にされてしまう。
「お前、マジで刑事とかなったほうがいいんじゃないの」
不貞腐れたように呟く周防に呆れたような視線が届く。
「いやさ~前から思っていたけどレオってほんと不器用だよな。なんで真正面からぶつかっちゃうかなあ。もっとうまく伝える方法とかあったんじゃないの? みっつはまだ高校生。10代なんだからさ、ガラスのハートじゃん」
「わかってるよそんなもん」
あの日、母校に転勤するかもと話してから蜜の様子がおかしくなった。
どれだけ好きだと告げても心が離れてしまったような。表面上は普通なのにそっぽを向かれている感覚。
話しかけてもスルっとそらされるし視線さえ合わせてくれない。ぎこちない蜜の様子にお手上げだった。
「あーどうしたらいいんだあー」
頭を抱えてしまう。
母校からは時々様子を探る連絡が来ていた。時間がある時には練習に顔を出してくれと、さり気ない催促。
それに周防にはもう一つ問題があった。
母親のことだ。
これを機に独立しようかと思っているけど、そうなれば母を一人置いていくことになる。さすがにそれは難しい。
一人で決めるわけにはいかず、それも家族で話し合わなくてはならない。
やっと踏み出そうと思った一歩はあまりにも重たく、ズブズブと沈んでいくようだ。
「俺としてはレオが前を向いてくれたのがすっげー嬉しいよ。確かに不幸な事故ではあったけどあの時から解放されてくれるならそれが一番いい。もう10年もたつし時効だろ」
「……そう、かな」
「まあ。いざって時にはみっつのことは任せてよ」
ウインクを送りながらとんでもないことを言い出したので、目つぶしをしてやった。マジで勘弁してくれ。冗談じゃない。
「おま!! そういうとこ。子供かよっ」
「うっさい。絶対渡さないからな」
自分勝手でも身勝手でも構わないから、蜜だけは離さない。絶対に。
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