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エピローグ
水沢未来②
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桜舞う木々の下で満面の笑みを浮かべている彼女がいた。初めは目を細めていたが、嬉しいことがあったのか一瞬目を大きくして、その後表情が和らいだ。
僕は彼女の横顔をただ眺めていた。腰まで伸びた黒髪が彼女の顔を隠すように風になびいていた。彼女がその髪を左手で耳にかけなおす度、僕は彼女の表情を確認していた。
彼女は僕の手を握り上下に振った。はしゃぐ彼女は子供のようだった。辺りを見透すほどの大きな瞳と、ほころんだ口元、そして髪までが嬉しそうにしていた。
「春人くん。私……私受かってたよ。……春人くん、長い間待たせてごめんね」
「ううん。心乃ちゃんの夢だったんだもん。それにあっという間だったよ。だって、家に一緒いたんだよ。全然待ってなんかないよ」
僕は周りを気にせずに心乃に抱きついた。心乃は急なことで驚いたのか瞳を見開いていた。
「心乃ちゃん、結婚しよう。今までは親に助けてもらってきたけど、これからは心乃ちゃんと乗り越えていきたい。付き合ってた時より何か言う人は多くなると思う、でも、それでも心乃ちゃんのことが好きです。辛いこともあるかもしれないけど、僕と結婚してくれますか?」
「私も春人くんのことが好きです。辛いことがあっても春人くんとなら乗り越えられると思う。だから、春人くん、私と結婚してくれますか? 私は春人くんと幸せになりたいです」
「もちろん。僕も心乃ちゃんと幸せになりたいです」
僕は心乃の手を離さないように強く握りしめた。そして、それから二人で心乃の国家試験合格と僕たちが結婚することについて知り合いに顔を見せに行った。
一番に伝えたかった人たちはすでに僕の家に勢揃いしていた。
僕たちが家へ戻ると合格を確信していたのか母たちによる豪華な食事が用意されていた。
居間を囲うように座った二つの家族は、正月以来の再会だった。水沢商店も花咲医院も春見市では大規模な法人だった。忙しい日々に僕たちが交差する日は、こんな機会にしかなかった。
僕たちの顔を見るなり夢乃は大きく手を広げて抱きついてきた。三人とも身長に余り差はなかったが、夢乃の頰を伝う涙を見ると彼女が子供に見えてしまった。
「おかえり、心乃、春人くん」
「おかえり、心ちゃん、春くん」
その言葉を聞いてようやく僕たちは二人で選んだ道を両親に伝えた。
「僕は心乃ちゃんと「私は春人くんと「「二人でこれからを歩んでいきます」」
「僕は心乃ちゃんとどんなことでも乗り越えます。でも、みんなの助けがないとダメな時がいつかはあると思う。その時はちゃんと助けを求めるから、それまでは二人で一緒に思い出を作っていきます」
僕たちの親は小さく頷いた。
「よく言った、春人くん。心乃を幸せにしてやってくれ」
その言葉はとても優しかった。医院長をしているせいか白髪が少し目立ち、眉間にシワが薄っすらと見えるが、ヒゲは剃られていて髪の毛はきちんと整えられ、年齢とは程遠い子供をあやすかのような優しい声をしていた。
「はい。必ず幸せにします」
「まぁ、三人ともそろそろ座ったらどうだ。昼食の準備が出来てるんだから、みんなで食べようじゃないか」
寿也は手で畳を軽く二回、三回と叩いて僕たちに座るよう合図を送った。
「はぁ、お腹空いたぁ。それにしても美味しそうな昼食だね、春人くん」
「そうだね、心乃ちゃん」
僕たち家族は久しぶりの集まりに、募る話を長々とご飯の手を止めながらも語り合った。テーブルの上に用意された料理が無くなるのはまだ先のことだった。
料理が無くなり話がひと段落ついたところで、心乃が合掌して「ごちそうさまでしたぁ」と言った。
僕たちもそれを聞いて声を揃えて言った。
「ごちそうさまでしたぁ」
僕は彼女の横顔をただ眺めていた。腰まで伸びた黒髪が彼女の顔を隠すように風になびいていた。彼女がその髪を左手で耳にかけなおす度、僕は彼女の表情を確認していた。
彼女は僕の手を握り上下に振った。はしゃぐ彼女は子供のようだった。辺りを見透すほどの大きな瞳と、ほころんだ口元、そして髪までが嬉しそうにしていた。
「春人くん。私……私受かってたよ。……春人くん、長い間待たせてごめんね」
「ううん。心乃ちゃんの夢だったんだもん。それにあっという間だったよ。だって、家に一緒いたんだよ。全然待ってなんかないよ」
僕は周りを気にせずに心乃に抱きついた。心乃は急なことで驚いたのか瞳を見開いていた。
「心乃ちゃん、結婚しよう。今までは親に助けてもらってきたけど、これからは心乃ちゃんと乗り越えていきたい。付き合ってた時より何か言う人は多くなると思う、でも、それでも心乃ちゃんのことが好きです。辛いこともあるかもしれないけど、僕と結婚してくれますか?」
「私も春人くんのことが好きです。辛いことがあっても春人くんとなら乗り越えられると思う。だから、春人くん、私と結婚してくれますか? 私は春人くんと幸せになりたいです」
「もちろん。僕も心乃ちゃんと幸せになりたいです」
僕は心乃の手を離さないように強く握りしめた。そして、それから二人で心乃の国家試験合格と僕たちが結婚することについて知り合いに顔を見せに行った。
一番に伝えたかった人たちはすでに僕の家に勢揃いしていた。
僕たちが家へ戻ると合格を確信していたのか母たちによる豪華な食事が用意されていた。
居間を囲うように座った二つの家族は、正月以来の再会だった。水沢商店も花咲医院も春見市では大規模な法人だった。忙しい日々に僕たちが交差する日は、こんな機会にしかなかった。
僕たちの顔を見るなり夢乃は大きく手を広げて抱きついてきた。三人とも身長に余り差はなかったが、夢乃の頰を伝う涙を見ると彼女が子供に見えてしまった。
「おかえり、心乃、春人くん」
「おかえり、心ちゃん、春くん」
その言葉を聞いてようやく僕たちは二人で選んだ道を両親に伝えた。
「僕は心乃ちゃんと「私は春人くんと「「二人でこれからを歩んでいきます」」
「僕は心乃ちゃんとどんなことでも乗り越えます。でも、みんなの助けがないとダメな時がいつかはあると思う。その時はちゃんと助けを求めるから、それまでは二人で一緒に思い出を作っていきます」
僕たちの親は小さく頷いた。
「よく言った、春人くん。心乃を幸せにしてやってくれ」
その言葉はとても優しかった。医院長をしているせいか白髪が少し目立ち、眉間にシワが薄っすらと見えるが、ヒゲは剃られていて髪の毛はきちんと整えられ、年齢とは程遠い子供をあやすかのような優しい声をしていた。
「はい。必ず幸せにします」
「まぁ、三人ともそろそろ座ったらどうだ。昼食の準備が出来てるんだから、みんなで食べようじゃないか」
寿也は手で畳を軽く二回、三回と叩いて僕たちに座るよう合図を送った。
「はぁ、お腹空いたぁ。それにしても美味しそうな昼食だね、春人くん」
「そうだね、心乃ちゃん」
僕たち家族は久しぶりの集まりに、募る話を長々とご飯の手を止めながらも語り合った。テーブルの上に用意された料理が無くなるのはまだ先のことだった。
料理が無くなり話がひと段落ついたところで、心乃が合掌して「ごちそうさまでしたぁ」と言った。
僕たちもそれを聞いて声を揃えて言った。
「ごちそうさまでしたぁ」
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