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出会い④

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列車は、かなりのスピードで進むが目的地まではまだ時間が掛かりそうだ。


「魔力が消える、ですか...」

「ええ、私の母でさえお手上げ状態よ」


軽い世間話等をしている内に、シロイの話題へと移った。


「...成程、ですが「緑の賢者」と呼ばれる貴方達でも分からないとなると、流石に私も分かりませんよ。」

「あら、聖王の直系である「アグマイン家」でも、魔力について分からない事はあるのね。」


何故か2人の間に火花が散った様な気がする。
   
緑の賢者...?アグマイン家...?

初めて耳にする言葉だ。

そして、聞いた感じでは「緑の賢者」というは、フレイと翡翠さんの事を差しているようだ。


「知っていたのですね。私達の事」

リオラは遠慮がちに肯定する。


「あら、謙遜しないで下さい。貴方達の名前を知らない者はこの世界でシロイくらいですから。」
  


どうやらリオラ達はかなりの有名人らしい。
サインでも貰っておいた方がいいのかもしれない。

しかし、何で二人ともこんな険悪なんだ。


「はい。あげる」


今まで沈黙を貫いていたリリーが、突然ビリビリの紙をシロイへと差し出してきた。

受け取れ、という意味だろうか。
このゴミを。

「あ、ありがとう。」

シロイは遠慮がちにその紙を受け取った。

軽く飲食をしていた為、目の前には屑入れがある。
だが、渡された物を此処で捨てるのは失礼だろう。

どうしようかと悩んでいると、リリーが心なしか怒った顔で指を紙に向けた。

「ちがう、それ。」

「え?」

流れる様に目線をゴミへと向ける。

「あ、」

よく見ると、ゴミと思っていた紙には「リリー」と余り綺麗ではない字で書かれていた。

「あ、ありがとう!」
「感謝するといい。」

お礼を言うと、リリーは先程とは違う少し自慢気の顔を向けてきた。

あれ、そういえばサインが欲しいって口に出してたっけ?


なんとなくリオラを見ると驚いた表情で僕を見ていた。
何にそんな驚く事があったのか。


「...シロイ、僕のサインもいるかい?」
「あ、うん。また今度お願いするよ」

丁重にお断りした。

どうやら、この兄妹は自分達のサインを渡したいらしい。

「フレイ代わりに貰ったら?」


うん、フレイだけ貰えないのは可哀想だしね。


「頂いておこうかしら」

しかし、予想外の返答。
先程からの2人の様子を見る限り、絶対拒否するかと思っていたのに。


「一部の人達に高く売れるしね。」


成程。そういう事か。
直ぐにシロイの頭の中では、数枚の金貨の音が聞こえた。


「あ、リオラ、やっぱりサイン貰っていいかな?」

「現金だね君、サインはやっぱり辞めておくよ。」

若干引いた顔のリオラ。
僕は最初にサインを貰わなかった事を悔やんでも悔やみきれない。


「それにしてもシロイはリリーに気に入られたようだ。」

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