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第8章 私を探して…

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 このまんま、様々なしきたりのある、お城の窮屈な暮らしよりも、
こうして自然に囲まれた生活の方が、楽しいかも…
ふと信子は、そう思う。
チラリと王子の方を向くと、なに?という顔をして、王子は微笑む。
一瞬、その笑顔にぽぅっと見とれていると…
(私ってば!何を考えているのよぉ)
すぐに我に返り、そんなことが、あるわけがない…と強く思う。

 誰かに背中を押されて、その勢いで、この世界に飛び込んで来た…
とはいえ、自分にも、なくしてはいけない、何か大切なものが
あったはず、と思うのだ。
だが、記憶の鍵があまりにも強固で、中々こじ開けることがかなわない。
この向こうの世界で、自分のことを待っている人がいるかもしれない。
それは、どんな人なんだろう…
おそらく、相手も自分のことを、忘れているのかもしれない。
それでも何とかして、守りたいもの。
命をかけてでも、大切な存在が、向こうの世界にはいるのだ…
そう感じていた。

何とかして、元の記憶に戻りたい。
そうして、元いた世界に帰りたい、けれど…
それは、どうしたらいいの?
いつになるの?
本当に…帰れるの?
まったく、見当もつかない。
もどかしい思いに、とらわれる信子だ。


 森を抜け、草原に出て、民家も見えなくなって来たころに、ようやく
「着いたよ」
王子は信子の腕を突っついた。
ガタゴトと、慣れない馬車に揺られて、丁度お尻が痛いなぁ~と、
時折姿勢を変えたりしていた時だったので、信子はちょっとホッとした。
 ブルルン…
馬の鼻面を鳴らす音が聞こえて、完全に馬車が停止した。
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