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第20章 森の奥

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「あっ、ボクは別に…
 この人のお母さんを探しに…」
 どもり気味だけども、正直にハンスが答えると、男はうろんな
目付きになり
「この女性の母君とな」
さらに鋭い目に光を宿らせて、こちらを見る。
すると落ち着かない気分になり、ソワソワしながら
「あ、あのぉ…こちらの方へ来た、と聞いたものですから…」
救いを求めるようにして、案内人の男の方を見る。
するといつの間にか、馬車もろとも、影も形もなく、姿を消していた。

(えっ、いない?)
 まさかあの男…自分たちを置いて、逃げたのか?
なんと逃げ足の速い…
 彼女は怒りを通り越して、ボンヤリとする。
だが余分なお金をふんだくられないで、よかった…と、実は内心、ホッと
していた。
 何しろ自分たちの大切な結婚資金を、こんなところで無駄に使われたら
困る…と、我に返ったのだ。
だが、この男は、明らかに自分たちのことを、怪しんでいるようだ。
もしかしたら、王子の付き人のような人なのではないか…と、
アナスタシアはにらんでいた。

 ならばもしかして…母さんのことを、知っているのだろうか?
彼女はそう思い至る。
「あの~ここに、中年の女性が来ませんでしたか?」
覚悟を決めて、口にした。
やけに尊大な態度で、2人を見下しているこの男性。
さすがに王子ではない、というのはもちろん、アナスタシアにもわかる。
けれどもこの人は…一体、何者なのだ、と彼女はいぶかし気に思う。
 もちろんハンスなどは、さっぱりわからないので、ポカーンとしている。
 コイツ、態度がデカイぞ、とか、
ずいぶん自分のことを、バカにしているな、と。
もしかして、怒り出したりはしないか、とひそかに彼女は気にしている。
もともとハンスは穏やかなたちで、めったに感情を荒げたりはしないのだ。
なのでここは、下出に出た方がいい、と判断したようだ。
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