ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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幕間…ついに男が目覚める

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(一体、何を考えているんだ?)
 真っ暗な室内で、男はじぃっとランプの光を見つめる。
絶対に、近寄ってはいけないと思っていた、かかわってはならない人種に、
よりにもよって、遭遇してしまった。
それだけでも、自分的には冒険だった、というのに…

 男はチラリと、部屋の一角に目をやる。
そこには今しがた、連れて来た女の子が眠っている。
とっさの自分の行動に、我ながら驚きもし、呆れてもいる…
(どうするつもりだ?話し相手が、欲しかったのか?)
男は自分でも、訳が分からない。
スヤスヤと無邪気な顔で眠る娘を…どうしたいと思ったのか?

 普段は彼は、いつも1人で過ごしている。
それを寂しいと思ったことは、未だかつてない。
1日のうちで、接触するのは、ごく少数だ。
このホテルの大半が、自分の存在を知らないのかもしれない。
ごくごく1部の、古くからこのホテルで働いてくれている人たちだけが、
この秘密を知っている。

 あんなに彼のことを、心配してくれた両親は、早くに事故で
この世を去り…それからは天涯孤独の身となったが、
ただ1つ、残してくれたのは、この古い1軒家だけだ…
醜い傷を負った彼のために、手を尽くし、医者に見せたけれども…
それがかなわない、と知った時…
彼らは、俗世間を捨て、この山のお屋敷をホテルに改造し、
彼が将来困らないようにと、遺産として正式に残してくれたのだ。
 もっともこんな辺鄙な所にあるホテル…
限られた人しか、来ないけれど…
むしろ彼にとっては、好都合だった。
人に見られることが1番、恐れていたことだからだ。
極力人に近付かず、接触を避けて、生きていけるように…と
母親がホテルに建て替えてくれた。
何があっても、彼が困らないように…と。
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