ラストダンスはあなたと…

daisysacky

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第17章  すべてはまぼろしに…

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「あそこ…火事になったんですって!」
 玲が珠紀にもたらしたのは…思いもかけないことだった。
「えっ」
 珠紀は急に、眠りから覚めたように…いきなり冷水をかけられたような
衝撃を覚えた。
「あそこって…どこのこと?」
 嫌な予感がする。
珠紀の声が震えた。
じぃっと見つめる玲の顔を見て、珠紀は何事があったか、察した。

 それは…半ば強制的に連れ帰られた日から、常に気にかけ、
忘れられずにいたところだった。
実際にいたのは、ほんの数日間ではあったけれども…
それでも体感的には、ずいぶん長い日数、滞在してきたような
感覚があった。

「あそこって、この前いたところよ!」
その言葉に(やはり、そうか…)と打ちのめされる珠紀だ。
「あの…崖の上のホテルよ!」
ダメ押しのように言われ、その悲しい予感に、愕然とする。
「え、うそでしょ…」
 この数日間、ほとんど反応がなく、まるで人形か能面のように、
無表情だった珠紀の瞳に、ようやく動揺と感情の色がよみがえってきた。
「本当よ」
珠紀のあまりの狼狽ぶりに、玲はさらに驚く。
まさか、本当だったのか?
珠紀の心は、これほどまでに、あのホテルにとらわれていたのか…と。

「ねぇ、それで、どうなったの?」
珠紀は玲の腕をつかみ、大きく揺さぶる。
「火事になって、オーナーが不在になったとかで、
 ホテルは廃業したそうよ」
あまりに動揺する珠紀のことを気にして、玲は彼女の顔を見ながら、
言葉を継ぐ。
「火事?」
だが珠紀の心をとらえるのは…彼の行方だ。

 無事だろうか?
 どうなったのだろう?
 今でも、いるのだろうか?
様々な憶測が、彼女をとらえ、そして振り回す。
心配で、不安で、慕わしく、寂しい…
様々な想いが、さらに彼女を襲った。
玲は彼女の顔を見ると、やはりまだあの話は、彼女には
刺激が強すぎたのか…と、ひどく反省をした。

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