桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第14章  一時休戦

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  いつも通りにしろ、と言われても、かえって意識するので、
どうしたらいいのかわからない…
この変り者の女たちの心にも、何かしら引っかかるものがあるようだ。
 ホワイトボードの隣には、新たに
『取り壊し反対!』の大きな文字が貼られていて、
そのうちこのボードは、みんなのメッセージボードになるのでは、
という予感がした。

「あっ、それ、私!
 習字の授業で、書いてきた」
嬉しそうな子供の声がする。
振り返ると…珍しく学校帰りに、ランドセルを背負ったまま、
ひよりちゃんがこの家に訪れていた。
「あら、ひよりちゃん!」
 その日たまたま、講義が午前中で終わったので、バイトも休みだし、
家でたまにはまったりとしよう…と、過ごしていた待子が、
偶然小さな人影に気付いた。
「おーい、ひよりちゃん!」
 もし万が一、怪しい人影が見えてはいないか…と、すぐさま窓辺に
駆け寄り、外を確認する。
思わず声は抑え気味にして、軽く手を振る。
 物干し台からは、通りの様子が死角になっていて、よく見えない
ものの、先ほどひよりちゃんが、角を曲がって来るところは、
バッチリと見えた。
何しろこの辺りには…赤いランドセルの女の子は、そうそういないのだ。
洗い立てのタオルを握り締めたまま、手を振ると
「まちこさん!」
すぐに黄色い通学帽の下から、少し日焼けしたひよりちゃんの顔が、
こちらを向いているのが見えた。

「ね、どうしたのぉ?」
思わず声をかけると、
「うん、大家さんに会いに来たぁ」
元気いっぱいのひよりちゃんの声が響く。
時折こうして、郵便物をもらうため、こうして学校帰りに
ここに寄るのだ。
以前は待子の仕事だったが…今はピークで大家さんが忙しいらしく、
先にこうして…やり取りをしたのだ。

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