桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第14章  一時休戦

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  あまりに一生懸命で待子が聞くので、若干引いたようで、
「えっ、いやぁ~それはないけど…」
そのオバサンは、モゴモゴと口の中で言うだけで、スッと体を遠ざけると、
少し痛いものを見るような目付きで、待子を見る。
明らかに…待子に聞いたことを、後悔しているようだった。
だが待子は、そんなことを気にすることもなく、
「なんだぁ、そうかぁ~大した事なくて、よかった!」と言うので、
「えっ」
逆にそのオバサンが、驚く番だ。
 
 なんにせよ、よかった…と思う待子だ。
何かあったら、この下宿屋の未来はない…
住人としては、気が気じゃないのだ。
ひとまず、ほぅっと待子はため息をもらした。
「最近ね、よく…疲れたような顔をするのよ。
 たまに、こちらの話も上の空で…聞いてないことが多いみたい」
あなた、何も知らないのね、と少し避難するような目で、
そのオバサンは言う。
「しょっちゅう、ボーッとしてるし、
 あなたたち…隣に住んでいるのだから…
 少しは気を付けてあげてよ」
キンキンする声で、叱りつけるような言い方をするので…
「そうなんですかぁ~すみません」
このすれ違うだけの女性にも、とても紳士的に頭を下げ、
謝罪の言葉を漏らす。

 大家さんがいなくなったら、困るなぁ~
 そんなことになったら、この下宿屋…きっとつぶされて
しまうぞ、と不安になって来る。
困ったことになったぞ、
さらに大家さんの弟である、男性の顔が、なぜだかポッと
待子の頭に浮かんだ。
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