桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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「今日はずいぶん、ゆっくりねぇ」
 話をそらそうとして、佐伯さんが言うと、
「そうなの!今日は午前中、休講があって」と嬉しそうに言った。
 
 どちらからともなく、2人は肩を並べて玄関を出る。
数歩出たらすぐに、待子は足を止め、
「あっ、ワタシ、自転車なんだけど、佐伯さんは?」
思わず待子が言うと、
「あ、私も…」
これまた並んで、玄関脇をすり抜けて、自転車置き場へと向かう。
いつもはもっと、たわいもない話をするのだが…
この日はなぜか、佐伯さんの様子が落ち着きがない…
おや、どうしたのだろう…と初めて待子は気が付いた。
やたら周りを気にしていて、ずっとキョロキョロと、周りを警戒
しているのだ。
「ね、一体 どうしたの?」
不必要に、余計なことを詮索しない…と思ってはいたものの、
何となく放っておけない気がした。
「いや、別に…」
ちょこっと振り返ると、もう1度何かを探す顔つきでまたもキョロキョロするので、
さすがの待子も…どうも何かあるのか…と、さすがに気になるのだった。

 ほんの数歩行った所で、一瞬立ち止まり、固まったようになる佐伯さん。
待子は心配そうに、後ろを警戒する。
「大丈夫?」
すぐに寄り添って、かばうように傍らに立つ待子だ。
よく見ると…カタカタとかすかに隣で音がする。
何だろう…と見てみると、
ハンドルを持つ手が、ブルブルと震えているように見えた。
唇を真一文字にして、キュッと下唇をかむような仕草…
佐伯さんの顔色は、血の気が引いて、真っ青だ。
カタカタと、ハンドルを持つ手が小刻みに震えて…
これは尋常ではないな、何かがおかしい…というのが、
待子にも伝わってきた…


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