桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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「そうなんですかぁ~?
 商店街の向こうにある…豆腐屋さんのお隣の前田さんのお兄ちゃん
 じゃないんですかぁ?」
 ちょっと頭が弱い女の子のフリをして、なるべく無邪気に
間延びした口調で、さらにジロジロと男の顔を見る。
すると少しイラッとした表情を浮かべ、男は待子を押しのけようとあがくと、
「悪いけど…ボクはアンタのことは、知らないよ!
 急いでいるんだ、どけてくれ!」
立ちふさがる待子に向かって、語気を荒げて、彼女ににらみつける。
全身に怒りといらついた調子を向けられても…
待子はまったく頓着しない表情で、
「そうですかぁ~おかしいなぁ」
 しきりと頭をひねり、チラリとカーブミラーに目をやる。
そこにはスピードを上げて、自転車が遠ざかるのを、確かに確認した。

「あなた、ホントーに違うんですか?
 ホント他人とは思えないほど、うり2つなんだけどなぁ~」
わざとのんびりとした口調で言うと、待子はのろのろと…
体を横にずらした。
「とにかく他を当たってくれ!
 ホントにこういうの、困るんだよなぁ」
待子をにらみつけると、力任せに、彼女の肩を押した。
「ちょ、ちょっとぉ~!」
思わず待子が声をとがらせると、
「あんたのせいだ!あんたのせいでぇ~いなくなったんじゃあないかぁ~!」
(それって、佐伯さんのこと?)
そうどなると、男は舌打ちして、走り出した。

 見た感じは…20代後半~30代くらいだろうか。
サラリーマンというよりは、フリーターのように見えた。
少し陰のある顔の、ヒョロリとした体形の男だ…
ようやっとホッとため息をつく。
自転車の走り去った後を、必死で追いかけたけれども…
おそらくは、見つからないことだろう…
(佐伯さん、うまく逃げ切ったかなぁ)
そう密かに、心の中で願う待子だ…

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