桜ハウスへいらっしゃい!

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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  怖いとか、恐ろしいとか、危険だ…とか。
そんなことを考える余裕は、待子の中ではどこにもなかった。
今はただ…無事に彼女を守らないといけない…
それだけしか、待子は考えてはいなかった。
ただ思うのは…佐伯さんが、無事にうまく逃げきってくれますように、
ということだけだ。
ただ後ろを振り返る余裕も、うまく逃げたのかも、確かめる余裕がなかった。
ただひたすらに、無我夢中で、とにかくその男を食い止めるべく、
ダッシュした。
「ちょっと待ってぇ~!」
いきなり飛びつくように、男の前に立ちはだかった。
どこにそんな勇気があったのか、待子にはわからない…
 
 走り出そうとしていた男は、いきなり現れた見知らぬ女に驚く。
出鼻をくじかれ、一瞬気がそがれたようだった。
(お願い、早く逃げて!)
祈る思いで、待子は男に取りすがった。
「ちょっと…なんですか?あんた、誰?」
ムッとした顔で、どけろ、と言わんばかりだ。
「あのぉ~あなた、もしかして…前田さん?
 ほら、実家の近くに住む、前田さんでしょ?」
強引に声をかける。
あからさまに男は、迷惑そうな顔をする。

 もちろん待子も、内心は怖いのだ…
佐伯さんをしつこく追い回す、得体のしれない男なのだ…
下手すると、自分の身の保証も出来ない。
もしも逆切れされて、自分が襲われたら、どうしよう…
急にドサッと不安が押し寄せて来た。
 だが案外男は、「はぁっ?」と大きく声をあげるだけだ…
むやみに手を上げるような人には、まったく見えない。
(もちろん、なんの確証もないのだが)
すると案の定、男は待子の顔をジロリと見ると
「人 間違いだ!
 ボクは、前田でもないし…あなたのことも、知りませんよ」
大きな声で言い返す。
だがその目は、かなり切実なくらいに血走っていたので、
待子は一瞬ひるんで、気がくじけそうになった。
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