桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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「あ、私は大丈夫!」
 先ほどまでの恐怖は、正直まだ残っていたけれど…
彼女をこれ以上、怖がらせてはいけない、と待子は無理に笑ってみせた。
「私には、用がないんですって!
 まぁそうなんだけどねぇ、ずいぶん失礼よね」
わざと明るく言ってみせる。
「ホント、ごめん…」
うつむいたままの佐伯さんに
「これからどうする?このままここにいても、アレだし…
 家に帰る?
 それとも学校へ行く?」
一応聞いてみると、佐伯さんは下を向いたまま、
「ごめん、まだ…こうしていたい」
グッと膝を抱え込んだまま、さらに小さく丸まった。

 平和な公園の1画で、未だしゃがみ込んでいる2人の女の子は、
よほど奇妙に見えるのだろう。
コロコロとボールが転がって来て、テテテ…と小さな男の子が、
こちらに向かって、走って来た。
待子たちを見つけると、
「あれ?」
重たい空気の中で、やけに無邪気な声が響いて来る。
「あれ?」
さらにまた、大きな声をあげると、トトト…とこちらに向かってかけて来る。
トントントン…
いきなり電話ボックスのガラス戸を叩く音がする。
待子が顔を上げると、小さな顏が、目の前にあった。
小さな手が2つ、ガラスに張り付き、顔を押し当てている。
「ねぇ~どうしたの?
 お腹が痛いの?」
その男の子は、ボールを拾うのも忘れ、不思議そうにしゃがみ込む
佐伯さんと、待子をじぃっと見つめている。
キョトンとした顔で、
「ねぇ、お姉さんたち、そこで何をしているの?」
怖がることなく、聞いて来るので
「大丈夫よ!」と待子は笑って、男の子に向かって、手を振った。
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